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【ライターコラムfrom甲府】走りまくる32歳 J1屈指の“スプリントマン”松橋優

5/11(木) 18:58配信

SOCCER KING

 明治安田生命J1リーグ第1節・ガンバ大阪戦でヴァンフォーレ甲府の今季初ゴールを決めたのは松橋優だった。そこから9試合を見て、あのゴールが偶然で無かったことに気づかされている。松橋のポジションは右のウイングバックで、[5-3-2]の布陣ではかなり後ろ寄りだ。それでも松橋は決定機によく絡んでいる。

 5月7日の第10節・ジュビロ磐田戦ではまず13分に畑尾大翔のフィードからDFの背後へ抜け、GKカミンスキーの好カバーに防がれたものの「あわや」の場面を演出。59分にもドゥドゥの折り返しからエリア内に飛び込み、GKと1対1の場面を迎えた。この左足シュートは枠の右に外れてしまい、本人も「良いトラップができたので思い切り打とうと思った。決めなければいけないですね」と悔いる。ただスコアレスドローに終わったこの試合で、最大級の決定機だった。

 松橋を見ているとG大阪戦、磐田戦に限らず毎試合のようにこういう場面がある。今季の甲府は流れの中で4点しかとっていないのだが、そんなチームにあって最も”得点の香りがする男”は松橋かもしれない。

 これにはまず彼が「よく走っている」というシンプルな理由がある。Jリーグが発表しているトラッキングデータを見ると、松橋は磐田戦で両チーム最多となる31回のスプリントを記録していた。彼はJ1屈指の“スプリントマン”で、第9節・ヴィッセル神戸戦で記録した「34本」は、この節の全試合全選手の中で最多。今季はほぼフルタイムで出場(899分)し続けているにもかかわらず、走りの質と量に落ち込みは見られない。もちろん周りのスペースを空ける動きや、松橋の適切な判断もあるのだが、無駄走りも厭わず走っているからこそ彼に決定機は訪れる。

 そんなハードワークについて聞くと、朴訥としたいつもの調子でこう口にする。「多少キツイですけれど、そんなことは言っていられない。頑張るだけです。チームを助けられるような走りをできたらいいと思ってやっている。もっと助けられるように、もっと走れるようにしたい」

 もちろん決定機の数には意味がなく、逆に「松橋が決め損ねた」というもどかしさを感じているサポーターもいるだろう。そこは松橋も磐田戦後に「勿体ない試合でした。決めなければいけないですね」と悔いていた部分だ。しかし見方を変えれば最後の詰めさえ伴えば彼もチームももう一つ上に進めるという”希望を持てる課題”でもある。

 今季の活躍には単なるハードワークで説明できない「プラスアルファ」がある。走力、身体能力は国見高や早稲田大の頃から抜群だった。松橋は城福浩監督が甲府の指揮を執っていた12年にサイドバックへと転向。その後は対人能力の高さから3バックの一角を任されることもあった。一方で13年には出場14試合で3度の退場処分を受けるなど、粗さを露呈したこともある。

 今季の松橋はまだ一度も警告を受けていない。この部分を本人にぶつけると、ちょっと“間”を置いてこういう答えが返ってきた。「そこら辺は何も意識していない。J1だとフリーキックが上手い選手が多いので、自陣ではファウルしないように心がけている。あとは無駄なファウルをしないというくらい」

 本人は「何も意識していない」とのことだったが、チームの連携、彼自身の守備力などで何かしら進歩はあるのだろう。

 シュートの本数は昨季が29試合で5本。今季は10試合ですでに7本と増えている。吉田達磨新監督を迎えて、甲府のスタイルはよりアグレッシブに変化しつつある。この数字はそんな反映だろう。加えて選手たちはスペースを空ける、探す、突くといった部分で「考える」ことも要求されるようになった。

 彼は言う。「そっちで付いていけない部分もあるので…。しっかりついていけるように、日ごろ努力しています。達磨さんの練習は本当に頭を使うし、常に考えておかないと、しっかり準備しておかないといけない」

 松橋は現在32歳で、一般的にはハードワークが厳しくなる年齢だろう。ただ松橋は苦笑いしながらこう口にする。

「42歳の土屋(征夫)さんとか克さん(石原克哉/38歳)とか臣くん(山本英臣/36歳)もいますし、32歳の自分がキツイとは言っていられない。ここから自分も成長できると思っている」

 甲府は”オーバー30”に支えられるクラブだし、過去にも30歳を過ぎてから成長を見せている選手がいた。32歳の松橋が見せている進化はともすると大きな驚きだが、クラブの歴史を振り返ってみれば全く珍しくない現象だ。「ベテランが頑張らないとJ1に生き残れない」という立ち位置が、きっと彼らのやりがいやエネルギーになっている。

 ベテランの頑張り、もう一伸び--。それは松橋に限らず、甲府というクラブを観察する楽しみの一つだ。

文=大島和人

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最終更新:5/11(木) 19:10
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