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マクロン氏のメール漏洩 ハッキング解剖

BBC News 5/11(木) 13:26配信

BBCトレンディング

ソーシャルメディア深掘り

フランスの次期大統領エマニュエル・マクロン氏の電子メールをいったい誰がハッキングしたのか、まだ明らかになっていない。しかし、漏洩メールがインターネットで拡散した経緯は、ハッカーと政治運動の連動について、何を物語っているのだろうか。

メールのリークは、フランスで大統領選の報道規制が始まる直前に飛び込んできた大ニュースだった。しかし、リークされたマクロン氏のメールをネット上に流したのが誰であれ、単独でそれを世界的な話題に仕立てたわけではない。世界中に拡散させたのは、「ボット」や自動化アカウントの力を借りた政治活動家のネットワークで、最終的には内部告発サイト「ウィキリークス」のツイッターアカウントによって一気に広まった。

BBCトレンディングは、流出データを末端のネット掲示板から主要メディアに流した中心人物に取材し、ハッキングされたデータがどうやって表面化したかの流れをたどった。

5月5日の英国時間午後7時(日本時間6日午前3時)の少し前、匿名の文書共有サイト「ペーストビン」に「EMリークス」というタイトルで大量のファイルが出現した。

ファイルは当初、ネット図書館「インターネット・アーカイブ」の複数スレッドに投稿されていた。しかし、該当のスレッドはすでに削除されたため、最初の投稿時間を割り出すことはできない。

この時系列は極めて重要だ。情報の投稿は、フランス国内で選挙前の報道規制が始まるわずか数時間前だったため、報道機関は極めて慎重に動いた。しかし、ネット上でつながる複数人がいち早く流出情報の拡散に動いた。

インターネットの政治議論をウォッチしている人なら、「/pol/」をよく知っているはずだ。「/pol/」は、匿名のネット掲示板「4chan」上にある、無秩序な政治議論の場だ。ビデオのゲーマーやネットカルチャーに取りつかれた人たちが頻繁に出入りする一方で、「/pol/」は極右系の政治活動家が大勢参加するお気に入りのたまり場だ。

5日の英国時間午後7時35分までに、「ペーストビン」ファイルへのリンクが「/pol/」上に登場した。「/pol/」投稿者を特定できる唯一の情報は、コンピューターのIPアドレスの登録国を表す国旗だ。しかし、これは簡単に偽装できる。

ラトビアと関連? 

「/pol/」はこの件で、極めて重要だ。というのも、漏洩データが大量に投下されるという噂は、数日前から「/pol/」で飛び交っていたらしいのだ。メールのリークが発表される2日前の3日、別スレッドのユーザーが、別の漏洩文書を投稿した。マクロン氏がケイマン諸島に秘密の銀行口座を持っていると示唆する内容だった。

書類が改ざんされていたかについて活発な議論があった。マクロン氏の政治組織「前進!」は、書類は偽物だと反発し、ネット上の噂に対して提訴した。

この最初の書類は、ラトビアのIPアドレスを持つユーザーが投稿した。しかし、位置情報を偽装していた可能性が高い。

「このユーザーは恐らくラトビアにいるわけではなく、4chan上で身元を隠すためにプロキシサーバーを使ったのだろう」と、バズフィード・ニュース・フランスのジュール・ダルマナン記者は話す。

ユーザー自身が後に「私はラトビアにはいない」と書いたり、いくつかのプロキシサーバーを使ったと自慢したりしていることからも、ダルマナン記者の説明には根拠がある。

複数のプロキシサーバーを使う仕組みなら、ユーザーがネット上の位置情報を隠したり偽装したりできる。投稿者が「7つのプロキシ」と書いているのは、ネット上で身元を隠すのがいかに簡単かという「4chan」定番のジョークを念頭においているからだ。



5日にマクロン氏のメールを4chanへ流したユーザーの投稿には米国旗がついていたが、もちろんこれもプロキシを使っていた可能性がある。

リークが主要メディアへ

流出データを世間に広めた男性は、データの投下を予想していたし、拡散させるつもりだったと話す。5日に4chanで情報が流れた14分後の英国時間午後7時49分、カナダの極右報道機関「レベル・メディア」のジャック・ポソビエク記者が「#MacronLeaks」というハッシュタグを使ってスレッドへのリンクをツイッターに投稿した。

ポソビエク氏は、反マクロン・リークを最初に行ったラトビアIPアドレスのユーザーが自分に、情報投下がもうすぐあると知らせてきたとBBCトレンディングに語った。

「財務資料を投稿したのと同じ人物が、明日はもっと大きなニュースが出るから注目しておくよう言ってきたので、それから24時間はサイトの更新ボタンを押し続けていた」

ポソビエク氏のツイートはどのようにして、あっという間に拡散したのか?  大西洋評議会デジタル科学捜査研究所のベン・ニモ氏は、ツイートが最初の5分間で87回もリツイートされたらしいと指摘。つまり、ボットに助けられて広まったことを示唆しているという。

ニモ氏はBBCトレンディングにボットについて、「操作する人間が1人もいないツイッター・アカウントだ。プロフィール写真は別人か、山とか鳥の適当な写真だ。コンピューターのプログラムやアルゴリズムが操作し、リスト化されたアカウントから全部リツイートするか、特定の言葉が含まれるツイートをリツイートする。だから完全に自動化されている」と説明する。

複数の完全自動化アカウントが、「#MacronLeaks」のハッシュタグを拡散していた。しかしボットだけでなく、何千もの本物の人間もツイートをシェアした。今回は米国の「オルタナ右翼」運動につながりのある、政治メッセージ発信に特化した複数のアカウントが、ポソビエク氏のツイートをシェアした。拡散行動のほとんどがフランス国外で起きたものだというのは、注目に値する。当初こうしたメッセージをシェアしていた人のほとんどは、フランス語話者ではなく英語話者だった。

ウィキリークス

しかし、一気に拡散した最初のきっかけは、ボットやオルタナ右翼活動家ではなく、ウィキリークスだった。ウィキリークスは公式ツイッターアカウントで、言葉を慎重に選びながら、4chanのリンクを共有した。

これを機にリークは、フランスの極右政党「国民戦線」系の複数の有名アカウントに共有され始めた。フランス語で。3時間のあいだに約4万7000件のツイートが投稿され、「#MacronLeaks」のハッシュタグがフランスでトレンド入りし始めた。6日朝までには、世界中でトレンド入りした。フランスでは報道規制の時間帯に入っていたものの、この話が拡散し続けていたというのが、大事なポイントだ。

ディスコード

この時点ではすでに、非公式につながる世界各地の政治活動家たちが、懸命にこの話を広めようとしていた。ル・ペン氏を支持する英語話者グループは会話アプリ「Discord (ディスコード)」で仲間内だけで相談し、ポソビエク氏のハッシュタグをどうやって拡散させ、マクロン氏の信頼失墜のためネット受けが良いミーム(写真や動画を面白おかしく加工したもの)をどう使ったらいいか話し合っていた(訳注:discordには「不和」の意味もある)。

会話の一部は次の通り――。

DontTreadOnMemes(ミームを踏むな):メール漏洩用のミームはあるか? 

ball:#MacronLeaksはあっても、本人にまずい情報が見つかるまでミームはない。

DontTreadOnMemes:フランスでMacronLeaksをトレンド入りさせた。

orchid_thief:たった今? 

Hextrinity:何かスパム(大量送信)しようか? 

政治的反応

報道規制の開始時間が近づきハッシュタグが爆発的に拡散されるにつれ、両陣営の政治家は慌てて反応した。マリーヌ・ル・ペン氏率いる国民戦線のフロリアン・フィリポ副党首は英国時間(フランス時間午後11時40分)に反応し、「#MacronLeaksで、調査報道がわざと伏せた内容が判明するのか?」とツイートした。

エマニュエル・マクロン氏の選挙スポークスマンのシルバン・フォール氏は、フィリポ氏のツイートに「下劣だ」と反応した。

報道規制開始の5分前、マクロン陣営はリークを非難する声明を発表し、自陣営が「大規模で組織的な権利侵害行為」を受けたと伝えた。

4chan所有者の西村博之氏は「4chanを巻き込まないでほしい」とツイートし、自分たちは関係ないと距離を置こうとした。

首謀者は誰か? 

リークの背後に誰がいるのかは不明なままだ。しかしマクロン陣営は、リークを拡散したサイトの中には「ロシア利権」とつながるものも含まれると指摘している。

同様の疑惑は過去にもあった。2017年3月にはサイバーセキュリティー会社FireEyeのデイビッド・グラウト氏がBBCトレンディングに、「ロシアのハッキング集団APT28、別名ファンシーベアーがフランスの選挙に影響を与えようとしている」らしいと話している。今回の漏洩を受けて、複数のサイバーセキュリティー会社も、APT28の仕業だと見方を固めている。

「ファンシーベアー」はかつて、米大統領選挙の最中に民主党全国委員会(DNC)をサイバー攻撃したと言われている。

ロシア政府は一連の疑惑についてコメントしていない。過去には他国の政治への介入を否定し、外国の選挙には「一度も干渉したことがない」と主張してきた。

今回の情報漏洩や同種のオンライン活動は今後も引き続き、政治的な影響を及ぼすだろう。しかしこれまでのところ、大半の有権者には影響を与えなかったようだ。フランスは7日、マクロン氏を66%の得票率で次期大統領に選んだ。

カナダ人記者ポール・ウェルズ氏は、選挙後にこうツイートした。

「週末の大発見。何も知らない国について、レディット(掲示板サイト)にスパム書き込みしても、支持率24ポイント差は埋められないんだ」

(メガ・モハン、マイク・ウェンドリング)

(c) BBC News

最終更新:5/11(木) 13:34

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