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ロシアのサイバー攻撃に耐えたセキュリティーを継承!異なる産業をデータでつなぐプラネットウェイの壮大な挑戦

アスキー 5/12(金) 7:00配信

スタートアップ×国家セキュリティーによる技術がキーとなる、新たなビジネスへの取り組みについて、Planetway Corporationの代表取締役CEO/ファウンダーの平尾憲映氏に話をうかがった。
 さまざまな企業が持つデータの活用が、AIやIoTの機運もあり、近年改めて重要視されるようになっている。だが、その扱いにはセキュリティー上取り扱いの難しいものも多く、まだまだ十分な活用に至ってはいない。だが、スタートアップ×国家セキュリティーによる技術がキーとなる形で、情報をセキュアな状態で共有し、新たなビジネスを生み出す取り組みがスタートしている。そのコアな部分を手がけているのはプラネットウェイというIoTインフラ創出を狙うスタートアップだ。Planetway Corporationの代表取締役CEO/ファウンダーの平尾憲映氏に取り組みの背景を聞いた。
 

エストニア国家のセキュリティーインフラを継承
 プラネットウェイでは、ヨーロッパのエストニアで開発されたインフラ技術を元にしたシステムを独自に開発している。このインフラ技術は、2007年にエストニアに対して、ロシア各地からのサイバーアタックが発生したとき、その攻撃に耐え、一切の情報漏洩がなかったことで、世界的にセキュリティーの高さが認められたものだ。それこそが事業における一番のポイントだと平尾代表は語る。
 
 「2007年のアタックを受けて無傷だったことで、2008年にNATOサイバー防衛協力センターがエストニアにできた。利用している技術はまさに国家レベルで導入するようなもの。弊社ではそれを独自に、民間用にカスタマイズして提供する」(平尾氏)
 
 エストニアで開発された国家レベルのセキュリティー技術を活用したシステム。それが、プラネットウェイのIoTプラットフォーム『avenue』であり、そのコアテクノロジーが『avenue-cross』だ。
 
 『avenue-cross』では、同社の持つ技術とブロックチェーンなどの先端技術や各種IDソリューションを融合させることで、各企業が持つデータを分散型でつなげて、データの完全性・セキュリティーを担保したうえで、必要な情報だけを参照できるようにするというものだ。
 
 「『クロスインダストリーのデータアクセスプラットホーム』と我々は呼んでいます。これまで、異なる業界同士ではアクセスできなかったデータを、セキュアにアクセスできるようにすることよって、インフラを提供するだけではなく、そこで生まれる新しいサービス設計のところまでお手伝いしたい」
 
 仕組みとしてはたとえばこうだ。『avenue-crossモジュール』をインストールした企業がA・B・C・D、4社いた場合、全社がほかの企業のデータに対してアクセスする権利を持つ。ポイントは、データを持つ企業が、それぞれどこまで開示するかをそれぞれ設定できるということだ。さらに、A社が100のうち10のデータは無料で提供、20のデータを参照する場合は一定の利用料金の設定ができる。これまで自社で眠っていたデータをセキュアな形で他社に販売することができ、新たなビジネス創出が可能となる。
 
 もうひとつのポイントがセキュリティーだ。通常、サイトとデータベースはSQLなどで接続されているが、その部分を『avenue-cross』が受け持つ。このとき、『avenue-cross』のエンジン自体はいっさいのデータを持たないという。行なうのは、誰のデータにどこまでアクセスするかの権限付与とアクセスログ管理のみだ。
 
 あとは、各社のモジュールが必要なデータベースに直接アクセスを行なう仕組み。このとき、必ず、各国で定められる電子署名法に基づいて、その法人が存在していることを確認しながら、タイムスタンプも同時に確認しアクセス許可を出す。モジュール内のデータは抽象化が施されており、さらに分散型であるため、コアとなるデータセンターをアタックされてもデータ自体を残さない。このため、データへの不正アクセスが難しく、さらにトレーサビリティーの高さにより、悪用されにくいという。
 
 また、データの所有者は法人でなく個人であり、個人が自分の意思でどこまで誰に自分のデータを公開していくかをユーザーの許諾ベースで実現する仕組みも取り入れる。
 
 プラネットウェイが採用している、エストニアのテクノロジーは、ソースコードそのものはオープン化されているものだ。大切なのは、その技術をデータベースとどのようにつなぎ、運用していくかというフレームワークを作っていくことにあると平尾氏は語る。プラネットウェイでは日米欧の開発者による独自開発も加えることで、より実用性の高いシステムを作り出しているという。
 
東京海上日動火災保険と医療情報共有の実証実験がスタート
 この堅牢なシステムをベースに、プラネットウェイではいち早く、 実証実験を福岡市でスタートしている。パートナーは、東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)だ。また、福岡市での実証を推進するにあたり、福岡地域戦略推進協議会(FDC)の協力も得ている。
 
 東京海上日動では、年間膨大な数の損害保険支払いを処理している。しかし、処理の大半はいまだに紙ベースで申請、処理が行なわれているという。それを1つずつ保険会社は確認し、医療機関と付き合わせていく。だが、あまりにも量が多いため、すべてのデータを付き合わせることはできず、結果、多くの請求で医療データとの突き合わせができてないのだ。
 
 そこで『avenue-cross』の出番となる。医療データは、センシティブな個人データの塊だ。さらに保険の請求情報も同じく重要な個人情報となる。これらの個人の通院データや怪我の内容などの情報と、保険会社の持つ契約データを、『avenue-cross』を使って連携させるのが実証実験での取り組みだ。
 
 目指すものとしては、被保険者側は手書きで申請書を書く必要がなく、保険金の受け取りが楽になり、保険会社は手続きが簡易になる世界観だ。このような先進的な取り組みが導入された病院があれば、患者側としては優先的に選ぶ対象にもなってくる。
 
 「実際に、エストニアでもこのシステムで一番恩恵を受けているのは病院、そしてヘルスケア関連。今後は、福岡トップクラスの病院との実証実験をスタートしていくという。医療データと保険会社のデータを連係させる、スマートコントラクトの仕組み作りが目的。このほかにも、各業界の最大手と組んで、実証をしていきながら、本技術を全業界へ普及させていきたいと考えている」(平尾氏)
 
保険業界で世界的にもイノベーティブなプロジェクト
 平尾氏が東京海上日動との協業を最初にスタートしたのは、この技術を進めるに当たって、最も秘匿性の高いデータから始めるべきだと考えたからだ。医療カテゴリーでセキュリティー性を実証できれば、ほかのジャンルでも横展開は進めやすい。そう考えていたところに、東京海上日動の担当者との出会いがあり、医療×保険でのシナジーがあることがわかった。大手とスタートアップでのオープンイノベーションとして、医療での実証を果たしたあとはさらにその輪を広げていく算段だ。
 
 すでに、本取り組みは世界的にも評価を得ている。金融商品のイノベーションを推進するために、会員世界130ヵ国に3300社をようするEfmaとAccentureが共催する「Innovation in Insurance Award 2017」において、Connected insurance and ecosystems部での東京海上日動の第1位受賞にPlanetwayは貢献した。
 
 同賞受賞は、今回の取り組みが、保険業界で世界的にもイノベーティブなプロジェクトとして評価されたということだ。評価理由は、保険ビジネスの高度化だけでなく、医療費の高騰という日本の社会的な課題解決も視野に入れて最先端技術を活用している点、また保険会社・地方自治体・ベンチャー企業が一体となって取り組んでいる点、そしてブロックチェーンとavenue-crossを組み合わせることで、オープン性とセキュリティーを同時に実現している点などだという。
 
 「保険もそうだが、ロジスティクスや農業・漁業などのとてつもなく大きな市場をもった第一次産業も想定している。そこで新たなプラットフォームを作っていき、将来的には全業界でセキュリティーを担保しながら、個人が自分の意思で自由自在に、誰に、どこまで、自身のデータを公開するかコントロール可能な、未来型の社会を作っていきたいと思っている。それができたら、Googleさえ超えられると私は思っている。エストニア政府がなぜプラネットウェイに協力してくれるかというと、日本人なのに『Googleを超えられる』などと言っているから。面白がってくれていて、そのビジョンに共感してもらっている」(平尾氏)
 
平尾氏のこれまでと、プラネットウェイのこれから
 平尾代表は、起業前に孫正義氏率いるソフトバンクに在籍していた経歴も持っている。元々、アメリカの大学に進学していた際にソフトバンクと出会い、孫正義氏から直筆のサイン入りの自伝を渡され、ソフトバンクに入社したという。
 
 「(ソフトバンク)常務執行役員の青野さんから入社当時、『孫さんからのメッセージで、超えろって、言われたぞ』と伝えられ、帰国の飛行機では泣きながら自伝を読んだ。その後、ソフトバンクでは最終的に孫さんの直属部隊のようなところで、経験を積ませてもらった」(平尾氏)
 
 ソフトバンクではいくつかのベンチャーの立ち上げに参画するなかで、次世代半導体ベンチャー創設に従事したが、会社清算という失敗も経験する。ソフトバンクを離れ、サーコムやワイヤレスゲートでIoTや製造ノウハウを獲得し、平尾氏自身が3社目として立ち上げたのが、プラネットウェイだ。
 
 創業目前から、AIのコンセプトやIoTプラットフォームというのは頭にはあったという。しかし、タイミングを見計らっていた。なぜなら、想定したビジネスモデルだけでは当初の収益が得られない。創業には、大きなビジョンと目先の利益の両方がないとだめだと考えていた。
 
 そんなときに、ロンドンのIoT関連イベントで出会ったのが、エストニアのTop Connectという会社だった。同社が行なっていたのは、世界200ヵ国で利用でき、さらに国際ローミングよりも安い価格で利用できるSIMカードのビジネスだ。この出会いからたった4ヵ月後に、プラネットウェイはSIMカード「TAKT」として製品化し、ヨドバシカメラで販売するに至る。
 
 「普通なら1年は掛かりそうなことだが、エストニアサイドと対面したのは2回だけ、ほかはスカイプ会議で製品化まで至った。そのなかで、このエストニアという国は凄いと実感した。さらに調べていった中で、エストニアの経済通信省出身の、ラウルという人間と出会えた。彼にやりたいことを話したところ、エストニアにそれを実現する技術があると、提案を受けた。それこそが『avenue-cross』で採用しているエストニアの技術のコア」
 
ユニコーンを目指して
 日本人の平尾氏が代表だが、プラネットウェイは米国・日本・エストニアで開発展開を行なうスタートアップだ。技術的な強みがあるのであれば、米国や欧州での展開も想定されたのでは? と聞いてみると、日本での実証を行なう理由は、その世界有数のインフラにあるという。
 
 エストニア発のセキュリティーのシステムだが、あくまでポイントとなるのは、「セキュリティーだけじゃなく、運用ノウハウ、フレームワーク」と平尾氏は語るとおり、個別の事情にあったレギュレーションを策定し、運用させるその枠組み自体の部分にノウハウがある。
 
 世界的に最も厳しく、なにかと規制の多い日本での成功事例の後に、アジアも含めてグローバルにそのプラットフォームを売り込む想定だという。また導入する企業側でのメリットは、コストの部分もある。クラウドベースなため、非常に安価な設定が可能で、日本であれば数百億円単位レベルのセキュリティー関連のプロジェクトとなるがそれが数億円で実現できるという。
 
 各産業にセキュリティーを担保した形で、データでの横串を差し込んでさらにビジネス活用するというのは、ビジネスモデル自体が壮大でビジョナリーだ。センシングも含めて、兆単位でのデータやり取りが予測される今後の世界で、国家レベルのセキュリティーノウハウを獲得したスタートアップだからこそ実現しうる独自のあり方に期待する部分は大きいだろう。
 
 実証実験がスタートしたことで、プラネットウェイには多くの話が舞い込んできている。しかし、まずは目の前の実証実験をやりこんでいくというのが、平尾氏の考えだ。まずは2017年10月を目処に、東京海上日動のプラットフォームの本番環境を構築し、保険業界での新しい仕組みを作り出す。そこからほかの業界への展開も行なっていく。
 
 「今後、アメリカで100億円の資金調達をして、一気に市場を取っていく。データのクロスインダストリーアクセス、といえばプラネットウェイだ、と名前を知らしめないといけない。企業価値を高めて、ファイナンシャルプロモーションも必要。他社がマネできないだけの速度で成長するためには、それしかないと思っている」(平尾氏)
 
 すでに、IBMからは『avenue-cross』をモジュールにしてパッケージ化する提案も受けているという。しかし、それだけでは、大企業側にのまれてしまうおそれもある。平尾氏は、マイクロソフトのAzureやアマゾンのAWSとの三角関係を作ることで、存在感を示していきたいと語る。
 
 「そのためには、本番環境のエンジンを開発するための費用が必要となる。グローバルなクライアントとも話は進めているので、それを行ないながら、100億円の資金調達を実現させる」と平尾氏は息巻いた。
 
●Planetway Corporation
2015年7月1日設立。本社は米国サンノゼ。東京に支社、エストニアにR&D拠点を持つ。
グローバルIoT向け通信サービス、IoTプラットフォーム「avenue」、IoT向けオープンデータ統合・分析型データベースエンジン(Elixir)を展開する。
スタッフ数は2017年5月時点で4名。グローバルに最先端技術開発に関われる各種エンジニアとビジネスディベロップメント担当者を募集中。
 
 
文● コヤマタカヒロ 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

最終更新:5/12(金) 7:00

アスキー