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復活したビクター初の製品は、たった90万円でスタジオサウンドを持ち運べる画期的商品

アスキー 5/12(金) 15:00配信

スイッチをオンにすると、ヘッドフォンの存在を忘れ、スタジオのリスニングルームと同じ空間が広がる。そんな注目の技術EXOFIELDを応用した新製品登場する。再始動した「ビクターブランド」を冠したWiZMUSICだ。

 ヘッドフォンは、ソースの細かい情報をしっかりと再現できる。しかし唯一の弱点が音場や定位の再現だった。
 
 音源(音楽コンテンツ)は一般的に、前方に置かれたスピーカーで再生するのを前提に作られている。しかしヘッドフォンは真横から音が鳴るため、音像が本来あるべき前方ではなく頭内で定位してしまうのだ。
 
 この問題に取り組み、画期的と言っていい成果を上げたのが、JVCケンウッドの「EXOFIELD」(エクソフィールド)だ。すでに技術発表は済んでいるが、予告通り、この技術を応用した新製品が登場する。再始動した「ビクターブランド」を冠した最初の製品で、「WiZMUSIC」(ウィズミュージック)と名付けている。
 
 WiZMUSICはWizard/WithとMusicの造語だ。魔法に似た感覚が味わえること、発音すると音楽と一緒にいる(With Music)と聴こえることから選ばれた。
 
 製品としては、プレミアムパッケージの「WiZMUSIC90」(300台限定、90万円)とスタンダードパッケージ「WiZMUSIC30」(30万円)がある。WiZMUSIC30は一般販売されるモデルだが、3年で3000台程度の出荷を目指すという。
 
ヘッドフォン再生を超えた、自分専用の持ち運べるリスニングルーム
 EXOFIELDについては過去の記事でも紹介している。
 
 簡単に言うと、ヘッドフォンで再生しているのに、あたかもスピーカーで再生しているかのように音が前から飛んでくる効果が得られる音響処理技術だ。
 
 特殊な「耳内音響マイク」でテスト信号を計測して、個人の耳で聞こえる、室内の音響特性や個人特性を計測。ヘッドフォン再生でもスピーカー再生に近い、自然な音場を楽しめる点をウリにしている。プロファイルは特別なオーディオルームで、使用者ごとの音場特性を調べる必要があるが、その時間は5分程度と短時間で済む。再生時にはこのプロファイルの結果をリアルタイムに反映していくが、スマホアプリへ実装しても問題ない軽負荷となっているのも利点だ。
 
 JVCケンウッドは、WiZMUSICを「コトとモノの業界初のパッケージサービス」と位置づけている。同社はこの特徴を「自分専用の持ち運べるリスニングルーム」と表現している。
 
ビクタースタジオに招待される
 WiZMUSICは新規開発した高音質ヘッドフォンに同社製ヘッドフォンアンプ、そして計測サービスを組み合わせたもので、WiZMUSIC90/30の2種類がある。
 
 プレミアムパッケージのWiZMUSIC90は、計測場所にビクタースタジオのEX Roomを使用。スタジオエンジニアが特別にルームチューニングした部屋となっている。購入者を含め、最大4人分の測定が可能で、製品を受け渡す際には、ビクタースタジオの見学ツアーも体験できる。
 
 さらにエンジニア厳選の高音質音源30曲+170曲をダウンロードできるフリークーポンが付属する。付属するヘッドフォンアンプも実売10万円強の上級機「SU-AX01」となり、バランス駆動用のケーブルも同梱する。ネームを入れた金属プレートにはシリアルナンバーがあしらわれている。
 
 一方、WiZMUSIC30は、測定場所がビクタースタジオではなく、首都圏にあるJVC指定の場所となる。ヘッドフォンアンプも実売5万円程度の「SU-AX7」となるのも違いだ。ヘッドフォン自体はともに新開発の「HA-WM90」で差がない。
 
 音響・装着感・携帯性の3つをテーマにしており、新開発の40mmドライバー、ビンテージ素材のアクアティンバー、ダイレクトマウント方式のドライバーなどを採用している。
装着感にもこだわり、新開発の低反発イヤーパッドの採用に加え、ヘッドバンドの内側にスウェード調の人工皮革素材「ウルトラスエード」(東レ)、外側には本革のシープスキンを採用している。ヘッドバンドは軽量なマグネシウム合金製で、折り畳み機能やケースなども付属する。
 
 ハウジング素材のアクアティンバーは、北米の冷えた湖の底から引き揚げられた14世紀の希少木材をさす。伐採後の運搬中に沈み、約160年間眠っていたものを引き上げた。この木材が生育した時期は、森林伐採が少なかったため、木そのものの成長が遅く、木目は狭くて硬い。これが音響特性上有利に働くという。楽器への採用例も多いそうだ。ドライバーはこのハウジング部に、ダイレクト・マウント方式でがっちりと固定されている。音がまっすぐ前に出るため、非常にクリアな出音になるという。
 
 WiZMUSICのリリースに合わせて、スマホ用再生ソフトの「WIZMUSIC」も新開発した。
 
 標準状態でも通常音源の再生が可能だが、計測した個人データをインストールすると、EXOFIELDのオン/オフに加え、ハイレゾ音源の再生にも対応するそうだ。
 
 WiZMUSIC90は12日から、WiZMUSIC30は6月下旬から、専用サイトで測定サービスの受付を開始する。ともに個人特性の効果を体験してもらってから、購入予約をするシステムになっており、気に入らなければキャンセルができるとのこと。測定/体験会はWiZMUSIC90が先行し、6月24日からビクタースタジオのEX Roomで。WiZMUSIC30は7月下旬にJVCケンウッド監修のリスニングルームで、実施する。測定データは後日EメールおよびUSBメモリーとして提供する。実際に製品が手に入るのは10月上旬で、WiZMUSIC90を購入した人は、手渡しする際に、ビクタースタジオの見学ができる。
 
3つの画期的がつまった製品サービス
 発表会では、ビクタースタジオの秋元氏が登壇。個別に計測が必要なため、試聴の場は設けていないが、その効果には自信をもっているとした。Ex Roomはビクタースタジオの中でも、マスターのチェックや、製品の音質チェックのための部屋で、ビクタースタジオの最終的な音を管理するための場所。フルスペックのマルチメディアに対応した唯一のスタジオ、制作現場とユーザーをつなぐ架け橋であるとした。
 
 ビクタースタジオの音場空間を再現する製品であるため、サウンド空間のサポートは緻密に取り組み、その音場を持ち帰っていただきたいとした。
 
 発表会には麻倉怜士氏も登壇。代表して先行体験したという体で、その効果を率直に述べた。麻倉氏は「お世辞ではなくて、非常に夢がある技術」と評価したうえで、ヘッドフォンでは、1990年代の初頭から音場の再現が課題になったとコメント。「2chのステレオは音場が前に展開するが、ヘッドフォンでは左右80%、頭上20%。音が聞く人に対して垂直に定位して極めて不自然」とした。
 
 その弱点を克服するための「前方定位のテクノロジーは過去にいくつもあったが、音は前からほとんど来ない。頭内定位よりはいいという程度。(EXOFIELDのような頭外定位の技術は)求めていたけれど、絶対できなかったのがこれまでの状況」とした。同時にJVCケンウッドはEXFIELDの開発を2007年に着手しているが、「10年かかってこのシステムを作った点にも感動した」とする。
 
 麻倉氏が画期的なこととして指摘したのは以下の3つだ。
 
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 特に個人特性をとる点に関しては「これまで耳型をとってカスタマイズするイヤフォンなどはあったが、特性そのものを測るサービスはなかった。言ってしまえば、みんなが満足するものを作るのがこれまでの製品。しかしこれからは個人が最大限に満足することを考えないといけない。そのために新しい提案ができるはずだ」と評価した。
 
 JVCケンウッドのグループは、世界的に見ても優れたビクタースタジオを持っており、それをサービスに載せてきたという点もポイントになる。EXOFIELDは計測する場所自体も問題になるが、音源を製作し、チェックするスタジオで測定することの意義は大きいだろう。これらを踏まえて麻倉氏はWiZMUSICを非常に可能性のある製品であるとした。
 
 今回の製品の枠からは外れるが、EXOFIELDの可能性としては、VRへの応用がある。VRではヘッドフォン利用が基本になるし、360度映像であるため音が重要だ。またDolby AtmosやDTS:Xなど半球状に広がる音の再現、音と映像のより密なシンクロなども可能になりそうだ。
 
 環境をそのまま持ってこれるという魅力もある。今回はスタジオでモニターする際の音場やスピーカー位置をそのまま再現する点が特徴だが、例えば「私のような古いオーディオファンとしては、五味康祐のタンノイの音を再現できると言われたらすごく魅力を感じる」(五味康祐氏は小説家で、日本におけるオーディオ評論の草分け的存在)、「ほかには個人特性を配慮した音源自体をEXOFIELDで作っちゃおうといった取り組みも興味深い。ウィーン楽友協会のホールに行って、ウィーンフィルの演奏をあなた用に作れると言われれば、90万円と言わず900万円ぐらいかけても払うサービスにできるのでは?」とコメントしていた。
 
 そのうえで、「オーディオに個人データが入るということは、スピーカー開発にも利用できる。耳のF特にあった音作りとか、部屋のチューニングとか。音楽創造というか。個人データをうまく使って、その人にとっての最大の価値をできる。先の話にはなるが、その取り掛かりになるといい」とコメントを締めくくった。
 
 90万円という価格は普通に考えれば、とてつもなく高価で、限られた人しか関心を示さないかもしれない。ただし、よくよく考えてみると、スタジオクオリティーのリスニングルームを作り、そこでヘッドフォン並みの細かな情報を提供するハイエンドのスピーカー、アンプ、プレーヤーなどを導入しようとしたら、とても100万円以下では済みそうにない。そうかんがえると、皮肉ではなく割安感があるようにも思える。
 
 ただし体験できる場が少ない点や、地方のユーザーが首都圏まで脚を運んで試すには大きなハードルがあるとも感じる。過去の体験からもその効果が高い点を認識しているだけに、限られた人のための技術にならないことを願う。
 
 
文● 小林 久 編集●ASCII

最終更新:5/17(水) 11:19

アスキー