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「研究室が沸き立った」――AIが作詞、アイドル新曲ができるまで 電通大教授に聞く

5/12(金) 10:13配信

ITmedia NEWS

 「にこにこうぱうぱブルーベリー」「白い川と落ち合うバラード 初夏のりんごが憧れそうで」――これは、とあるアイドルの最新曲の歌詞だ。今年4月に曲が発表されると、ネット上では「不思議だけど、どこかすてき」「言葉選びが独特」などの声が上がったが、それもそのはず。作詞者は人間ではない。人工知能(AI)だ。

【画像】AI作詞の元になった、アイドルが描いたイラスト

 曲名は「電☆アドベンチャー」。アイドルグループ「仮面女子」と電気通信大学がタッグを組んで制作した。仮面女子が歌う別の曲「超☆アドベンチャー」をベースに、メンバーが曲をイメージした絵を描き、その色合いからAIが歌詞を付けたという。

 「私が歌詞を考えることはできないが、AI技術を使えば誰でも作詞者になれる」――そう話すのは、電気通信大学の坂本真樹教授。不思議な歌詞はどのように作られたのか、制作の裏側を聞いた。

●きっかけは偶然 感性の研究で「何か面白いことができないか」

 歌詞作りのきっかけは偶然だった。坂本教授が仮面女子と初めて出会ったのは、2016年8月のこと。大学などが研究成果を披露する展示会「イノベーション・ジャパン」で、坂本研究室のブースに仮面女子の月野もあさんが立ち寄ったことが発端だ。

 坂本教授は、人間が感じる「質感」の研究をしている。「サラサラした“布”」「サラサラした“紙”」というように、人は違うものにも共通する特徴を見いだして言葉にする。逆に「“サラサラ”した肌」「“ツルツル”した肌」などと、同じものでも人によって異なる表現をする場合もある。

 人は触ったり見たりしてものの状態を把握し、「高級感」「自然感」なども感じ取れる。そんな感性のプロセスをAIを使って分析できれば、人間が何に価値を見いだしているか、どんな行動選択をするかを明らかにできる――というのだ。

 「研究成果を使って、仮面女子さんとコラボレーションできないか。面白いことができないか」――そう考えた坂本教授が注目したのは「歌詞づくり」だった。

●「桜」→「ピンク」、「人工知能」→「灰色」? 言葉と色を“変換”

 「星、見つけよう!! まぶしい世界」「白い川と落ち合うバラード」――完成した歌詞は、(記者からすると)不思議ではあるが何となく意味を想像でき、曲のリズムから大きく外れている部分も見当たらない。「実は人間が考えたのではないか」と疑ってしまうほどだが、坂本教授によれば「歌詞の当てはめは、AIがほぼ全自動で行った」という。

 では、一体どんな仕組みで歌詞は作られたのか。坂本教授が使ったのは(1)色とオノマトペを互いに変換する技術、(2)色と単語を互いに変換する技術だ。仮面女子のメンバー全員が原曲「超☆アドベンチャー」の担当パートごとにイメージするイラストを描き、その色合いをオノマトペや単語に変換することで、歌詞に仕立てたという。

 (1)の技術は、オノマトペを“数値化”するというものだ。例えば「ふわふわ」というオノマトペを入力すると、「やわらかい」は0.73、「女性的な」は0.40、イメージしやすい色はオレンジ、緑、黄緑、赤、ピンク――というように、定性的な言葉を定量的にできるという。

 どうして数値化できるのか。この技術を支えているのは、被験者実験のデータだ。実験では、約100人の被験者が約300個のオノマトペを評価。例えば「どれくらい暖かく感じるか」「柔らかく感じるか」など、項目ごとに数段階で評価してもらい、その結果をAIが分析した。

 分析の結果、オノマトペに含まれる音が、人間の感覚にどう影響を与えているかが分かった。例えば「ぷにぷに」と「ふわふわ」と比べると、どちらも「ふ」(fu)が最初の音節にあり、「柔らかい」印象に大きく寄与しているという。それに対し「u」だけに注目すると、「ツンツン」「チクチク」など「硬い」と評価されがちな言葉にも使われ、「u」自体は柔らかさとは結び付きにくい――というように、音と音節の関係をデータ化していった。

 このデータを使えば、未知の言葉でも、音と音節の組み合わせから、人が抱く印象を推測できる。例えば「もふもふ」だと、「fu」が入っているが「ふわふわよりも温かみがある」という判定結果になるという。

 もう1つ、要となったのが(2)単語と色を関連付ける技術。例えば「桜」という単語からは「ピンク」――というように、人間が単語ごとに想起する色を作り出す。「人工知能」は「灰色」など、もともと決まった色がない言葉でもイメージできるという。

 なぜそんなことが可能なのか。この仕組みは、約1000語の色のイメージを、約100人の被験者にアンケートした結果を基にしている。例えば「バラ」から赤をイメージした人が20人いれば想起確率は20%、白をイメージした人が10人いれば想起確率は10%というように、1つの単語ごとに、全ての色の想起確率を算出している。

 しかし、これだと取得できるデータは約1000語と限界がある。そこで、例えば「桜」と「春」は同じ文章中に使われる傾向があるので、同じ「ピンク」を想起する確率が高い――というように、実験をしていない単語の色を類推できるようにした。そのために、AIには著作権フリーの文章を大量に読み込ませたという。

 ここまで説明した(1)オノマトペ→質感・色、(2)単語→色の変換プロセスを、歌詞づくりでは“逆転”。月野もあさんが描いた絵の色→オノマトペと単語を生成し、歌詞にすることにした。

 坂本教授は「歌詞を作るポイントは、音符に乗らなければならないこと」とも話す。今回作った「電☆アドベンチャー」は、仮面女子の「超☆アドベンチャー」が原曲。元の歌詞と文字数が同じになるように、生成した言葉をAIが自動的に当てはめたという。

 歌詞の当てはめは、AIがほぼ全自動で行ったという。「特許出願中のため、詳しい内容は明かせないが、人間が置き換えたり並べ換えたりしている部分はない。どうしてもNGになった部分だけは、AIが再び言葉を探索し当てはめている」(坂本教授)。

●不思議なフレーズに「研究室は沸き立った」

 AIが作った歌詞を見て、研究室は沸き立ったという。「白い川と落ち合うバラード 初夏のりんごが憧れそうで」――そんなフレーズを、坂本教授は「どこか詩的で、爽やかで、恋が生まれそうに感じる」と評する。「私が歌詞を考え付くかというと、そういう能力は私はない。しかしAI技術を使えば、誰でも作詞者になれる」。

 「にこにこうぱうぱブルーベリー」。そんな不思議な歌詞も飛び出し「研究室のメンバー全員が大笑いした」(坂本教授)。仮面女子の所属事務所からは「意味不明」「支離滅裂」と厳しい指摘も出たが、坂本教授は「絶対に捨てられないフレーズだった」と振り返る。「この部分を残すか消すかの議論だけで、かなりの数のメールのやり取りをした」。

 何とか削除を免れた「にこにこうぱうぱブルーベリー」は、仮面女子のメンバーにも好評だったという。「レコーディングのとき、仮面女子の皆さんが歌詞を見て笑ってしまい、なかなか歌えなかったと聞いている」(坂本教授)。

 一方、ボツになったフレーズもある。「僕のくるみがはち切れそうで」というものだ。「この歌詞は、歌わせられません」と事務所から要望があったという。坂本教授は「逆に私たちからすると、事務所側がそうNGを出したことが発見で、面白かった」と話す。AIは「くるみ」に“変な意味”を込めたわけではなかったが、人間がそれを勝手に解釈した結果だという。

 歌詞のプロジェクトは「人間の創造力を増幅する」狙いがあるという。坂本教授は「『生みの苦しみ』という言葉があるように、人間が持っている創造力は、必ずしもパーフェクトに発揮できているわけではない」と指摘。AIが人間の代わりに仕事をするのではなく、人間の創作活動をサポートする存在にしたいという。「くるみの例は、AIの提案によって人間が想像力を膨らませた結果だと思う」。

●「愛されるAI」を目指して

 こうした技術は、歌詞づくり以外ではどう生かされるのか。坂本教授は「オノマトペの数値化技術はすでに企業向けに提供しており、新製品の開発に使われている」という。例えば『ぽふぽふ感』など、これまでにない質感を作るとき、水分量や柔らかさを数値化し、製品の材料、分量を探すのをサポートしているという。

 デパートの化粧品売り場などへ導入も見込む。「サラサラとしたファンデーションがほしい」という要望であれば、「サラサラ」という言葉の数値データを基に、化粧品の材料などを調節できるという。

 さらに「サラサラ」「ツルツル」などの言葉を数値化し、互いの数値の差を距離に置き換え、ドットマップのように表示することもできる。ユーザーが「私にとってのサラサラはもう少しツルツル寄り」と思えば、オノマトペの位置を動かして調節し、その人が物体に感じる「質感」をマップ上に再現できるという。このマップを使えば「サラサラ」の個人差を解消でき、よりユーザーに合った商品開発につながる。

 「高齢者の場合、長時間のテストに参加してもらって回答を得るのは難しい。(この技術を使えば)少ないデータで、個人が物体にどう感じるか分かる」(坂本教授)

 「AIは、レコメンドなどの検索・予測技術が得意なために『人間は仕事を奪われる』という方向性の報道が多い」と坂本教授。しかし、坂本教授は「人間の創造力をサポートし、生活が楽しくなる『愛されるAI』を目指している」という。

 「ロボットがものの質感を把握し、人間と一緒に何かを触っているときに『ツルツルだね』と言って寄り添ってくれる……そんな風にロボットと“共感”できるようになるのでは」(坂本教授)

最終更新:5/12(金) 10:13
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