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「オープン・オーガニゼーション」でリーダーに求められることとは――?、ジム・ホワイトハーストCEO

Impress Watch 5/12(金) 11:40配信

 米Red Hatは5月2日~4日(米国時間)に、自社イベント「Red Hat Summit 2017」を米国ボストンのBoston Convention & Exhibition Centerで開催した。

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 2日目のジェネラルセッションには、Red Hat社CEOのJim Whitehurst(ジム・ホワイトハースト)氏が登壇し、著書名にもなった「オープン・オーガニゼーション」、つまりオープンソースのやりかたをビジネスや組織に取り入れ、イノベーションにつなげる方法について講演した。

■Whitehurst氏「“計画”は死んだ」

 Whitehurst氏はまず、去年のRed Hat Summitで「Power of the Participation」と題して「なぜコミュニティへの参加がイノベーションに重要なのか」を論じたことを紹介した。

 そして、今年のテーマとして「Impact of the Individual」(個人のインパクト)を掲げた。「これは個人が参加によって果たす役割を意味している。必要なことを学ぶだけの受動的な参加ではなく、個人が新しいことに挑むときに、コミュニティを巻き込むことについて話したい」とWhitehurst氏。

 Whitehurst氏は、いまイノベーションが重要になっていることを再確認し、「イノベーションは少数の並はずれた個人によりなされることもあるが、多くの場合、特に人類を根本的に変えるようなイノベーションは、たいてい、人々が集まって共同作業することによってなされる」と語った。

 イノベーションのための組織を考えるとき、Whitehurst氏は「いまの企業は、150年前と同じ、工場のための方法をとっている。少数の人が未来を予測して計画を立てて、企業で実行するというものだ」と指摘する。このような組織は変化の少ない環境ではうまくいくが、めまぐるしく変化していくときには向かない、というのが氏の主張だ。

 「人間は未来を予測するのが下手」として、Whitehurst氏は「ロケットは地球の大気圏を脱出できない」「世界のコンピュータ市場は5台ぐらい」「もはや新しく発明されるものはない」といった、19世紀から20世紀前半になされた、未来についての間違った予測を例に挙げた。

 Whitehurst氏は、大企業のCEOなどからデジタル変革やディスラプションについて心配する声を聞き、未来がどうなるか相談されるというが、「私にはそのお手伝いはできない」と言う。大企業はしっかりとした計画を立てて実行に移すが、時間をかけて未来について計画しても、未来はどんどんわからなくなっていくということだ。

 「そこで私はここで論じる。『われわれの知っていた“計画”は死んだ』」というWhitehurst氏の言葉とともに、スクリーンには「PLANNING IS DEAD」(“計画”は死んだ)という言葉が映された。

 そのかわりにWhitehurst氏が掲げたのが、「TRY, LEARN & MODIFY」(試し、学び、修正する)という言葉だ。これはオープンソース開発で言われる「Release early, release often」(早くリリース、何度もリリース)という言葉と共通するもので、まず公開して修正すべき点を見付け、それを直すということだ。「DevOpsもリーンスタートアップもこうした考えだ」(Whitehurst氏)。

 ここでWhitehurst氏は、20世紀のオートバイ産業の歴史をもち出した。米国のオートバイ市場において、1959年代には英国のオートバイが大きなシェアを持っていたが、1973年には約10%に縮小した。

 このとき、日本のホンダがシェアを大きく伸ばしていた。ホンダも米国進出するにあたり綿密に計画を立て、米国市場に合わせて大きくて長距離を走れるオートバイを売ろうとしていた。しかし、ある日、百貨店のシアーズのバイヤーが街を走るスーパーカブを見て気に入り、実際にシアーズで仕入れて売り、劇的にヒットしたという。

 「これは、計画を外れたところで、個人の働きによって新しい市場が作られた例だ」とWhitehurst氏は説明する。

 氏はさらに、「戦争論」著者のクラウゼヴィッツによる「敵に遭遇すれば計画は必ず変わる」という言葉と、ボクサーのマイク・タイソンによる「誰もが作戦を持っている。パンチを食らうまでは」という言葉を引用した。

 「例えばビッグデータやAIのような大きく動いている分野では、誰も大きなロードマップは描けない。たくさんの開発者やたくさんの組織が、それぞれ1ステップずつ進歩しつづけることで、その総体として大きな変化が生まれてている」(Whitehurst氏)。

 さらにWhitehurst氏は、「われわれが今日ここにいるのも、Linus Torvalds氏が1991年に書いた『やあ、趣味のOSを作っているから手伝って』という1本のメールから始まったことだ」と、Red Hatの直接的な例を挙げた。

 では、この場合、組織やリーダーの役割は何か。Whitehurst氏は「CREATE THE CONTEXT FOR INDIVIDUAL ACTION」(個人の行動にコンテキストを作る)という言葉を掲げた。「これからのリーダーは、未来を計画するのではなく方向を決める。どう違うかというと、『コンテキストを作る』ということだ。新しいものを作る人に道を用意し、安全にリスクを取れるようにする」と氏は主張した。

 「例えば、大きな開発コミュニティでは、人々はみな異なる展望を持っている。学者もいれば、実務家も、ベンダーも、パートナーもいる。そうした人々が“よりよい技術を作る”という共通のコンテキストによって共同作業できる」とWhitehurst氏は説明した。

■Open Innovation Labsから生まれた「easiER」

 後半ではWhitehurst氏は、Red Hatの経営理念「to be the catalyst in communities of CUSTOMERS, CONTRIBUTORS, and PARTNERS creating better technology the open source way(顧客やコントリビューター、パートナーとコミュニティの間で触媒となり、オープンソースでよりよいテクノロジーを作り出す)」を挙げ、外部とのコラボレーションについて語った。

 その一つとして、コンサルティングサービス「Red Hat Innovation Labs」の取り組みを、Red HatのJohn Allessio氏(Vice President, Global Services)が紹介した。Innovation Labsは、4~20週間の研修形式でRed Hatに常駐し、Red Hatのエキスパートとの共同作業により、オープンソースやDevOpsの手法を用いて新しいビジネスを生み出すものだ。つまり、Red Hatの方法や文化を企業に伝えて実践させるもので、「Red HatのソフトウェアのDNAを伝える試み」だという。

 Innovation Labsを利用したスタートアップ企業の事例として、スイスの「easiER」が紹介された。名前のとおり、ER(emergency room、救急外来)の利用を助けるサービスの企業だ。

 壇上には同社の共同設立者のAndre Baumgart氏とDorothee Rhein Straub氏が登場し、Innovation Labsの経験について語った。2人は、Open Innovation Labs開始のアナウンスを知ってすぐメールで連絡をとったという。アイルランドとリモートで、計4週間の研修を受けた。「イノベーションの全体的(holistic)なアプローチを学んだ」とのことで、レッドハットの文化やプロセス、製品、テクノロジーなどを学んだ。

 モバイルアプリの開発にはRed Hat Mobile Application Platformを利用。小さなMVP(minimal viable product)の開発から始めて、改善を繰り返してアプリを作り上げていった。

 実際に、iPhoneアプリのデモも行われた。起動すると現在地の近くにある救急外来の候補が表示され、アプリ上で症状などを選んで医療機関と共有する。ここで予約や医療機関へのメッセージ、病院の場所の表示などもできる。

 このOpen Innovation Labs専門のインキュベーション施設のようなオフィスを、ボストンとロンドンに建設中であることも、Allessio氏は紹介した。将来はAPAC地域で、シンガポールにも施設を設けるという。

クラウド Watch,高橋 正和

最終更新:5/12(金) 11:40

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