ここから本文です

ITの“一昔”は1年前、“二昔前”は3年前と心得よ

ITmedia エンタープライズ 5/12(金) 14:36配信

 グーグルの経済学者ハル・バリアンの計算によると、ここ数十年というもの世界全体の情報は、毎年66パーセントの割合で増えている。この爆発的な数字を最も一般的な素材、例えばコンクリートや紙のここ数十年の増加率である毎年平均7パーセントという数字と比べてみればいい。この星のどんな他の製品と比べても10倍速い成長率は、どんな生物的な成長よりも大きなものだ。(『テクニウム』p.384)

 テクノロジーは生物界と同様に、自らが自律的に進化すると説く本書は、テクノロジーの業界に身を置く私にとって実感として受け止めています。そんな時代だからこそ、この膨大な情報にどのような脈絡があるのかを、私たちは自ら探し求めていかなければなりません。

 私は、「IT」という言葉がなく「コンピュータ」だったころからこの業界に身を置き、2017年で35年がたちました。その間のテクノロジーの変遷は、日常の一部でした。

 22年前、IBMを卒業したころ、この業界は、ダウンサイジングとクライアントサーバという大きなパラダイムシフトに直面していました。また、「Windows 95」登場の年でもあり、インターネットという言葉がとても新鮮な響きを放っていました。「○×株式会社がホームページを作りました」という記事が日経新聞に掲載される時代でもあったのです。

 私がIBMで営業として働いていたころは、IBMのメインフレームがITをけん引し、その周辺に新しいテクノロジーが登場するといった時代でしたから、それを追いかけてさえいれば、テクノロジーの大枠を抑えることができたのです。

 しかし、時代は大きく変わりました。インターネット、クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータ、IoT、人工知能など、新しい言葉が次々と登場し、それらが複雑に影響を及ぼし、折り重なりながらテクノロジーのトレンドを作り上げています。かつてのような「メインフレームからミニコンやオフコン、PCへのダウンサイジング」、あるいは「集中処理から分散処理やクライアントサーバへの処理形態の変化」といった、単純さはありません。この多様さと複雑さこそが、いまのテクノロジーのトレンドの姿であり、ITビジネスの未来を考えることを難しくしています。

 だからといって、この現実に向き合うことを諦めてしまっては、この業界で役割を果たすことはできません。そんな想いから始めたのが、ITソリューション塾でした。

 2009年から、IT企業やユーザー企業の情報システム部門の皆さんを対象に行っているこの研修は、毎週水曜日の夜、3カ月で1期という単位で開催しています。

・「ITに関わる仕事をしているにもかかわらずITを体系的に理解できていない」
・「自社製品のことは分かっているがITの世の中の動きについては分からない」
・「自社の扱う製品の機能や性能なら説明はできるが、お客さまの価値は語れない」

 このような人が多いという現実に直面し、危機感を抱いたことも1つの理由でした。これでは、IT活用の健全な発展は望めません。ただ、この背景には、テクノロジーが、多様で複雑になったことがあります。

 もちろん、テクノロジーやそのトレンドを学ぶ方法はいくらでもあります。しかし、それには覚悟と自助努力が必要です。そのきっかけを提供し、テクノロジーを学ぶインデックスとリンクを提供しようと始めたのが、このITソリューション塾でした。

 新しいキーワードを追いかけ、言葉を覚えても、テクノロジーの全体構造や脈絡は分かりません。それが生まれた歴史的背景やビジネス価値を踏まえて、俯瞰的かつ体系的にトレンドの構造を理解することが大切です。そんなことをモットーにやってきた塾なのです。

 もちろん座学で学んだだけでは、知識は定着しません。自らの言葉で他人に説明してはじめて、知識は自分のものになります。そこで、講義に使った図表全てのパワーポイントのソフトコピーをロイヤリティフリーで受講者に提供しています。受講者にこの図表を、お客さまへの提案や研修、社内での勉強会などで活用してもらいたいからです。

 そんなことを8年もやってきました。現在、ITソリューション塾は、第24期を迎え、60人が学んでいます。そして、そのおよそ1/3が自費でのご参加です。

 あらためて、そういう時代なのだと思います。会社が与えてくれるものだけに頼っていては生き残れません。なぜなら、会社自体が時代の変化に翻弄(ほんろう)されているからです。このような時代にどうやって生き残るかの答えは、自分で見つけるしかないのです。

●ITの“一昔”は1年前、“二昔”は3年前と心得よ

 特に、ITにおける変化は、冒頭でも述べたように、とても多様で複雑です。ビジネスの常識もどんどん変わります。その変化の脈絡と構造を理解することに感心を持てないとすれば、生き残ることはできないのです。

 私は、そういうことを若い世代にしっかりと教えなければいけないと思っています。彼らが、未来を作り、将来の会社を支えていくのです。しかし、現実には、それを怠っている企業は少なくないようです。

 例えば、新入社員研修で「情報処理の基礎」は教えます。しかし、「最新のトレンド」は教えません。確かに基礎は大切です。しかし、仮想化やクラウドの記述さえまともになく、仮にあったとしても、“一昔”あるいは“二昔前”の出来事がさらりと語られているに過ぎません。IoTや人工知能について教えているところはほぼ聞いたことがありません。

 ITの“一昔”とは1年前、“二昔”とは3年前といったところでしょうか。このスピードこそが、この業界の特性でもあるとすれば、常に最新を伝えること、それを学び続けることの大切さと方法は、新人研修にはなくてはならないことなのです。そして、彼らの仕事の可能性にわくわくさせられなければ、自ら学ぼうという意欲を引き出すことはできないでしょう。IT企業の新入社員研修にとって、この点を譲ってはいけないと信じています。

 この問題については、長年の鬱積(うっせき)となっていました。何かできることはないだろうか。そして自分なりの答えが、『【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド』の執筆でした。2015年に出した初版は4刷を数えるまでになりましたが、もはや“一昔”を超えてしまいました、そこで、内容を一新し、「増強改訂版」として、2017年5月10日に出版します。

 これまで、ITソリューション塾や新人研修で伝えてきたこと、あるいはブログで語ってきたことなどの中から、若い人たち、例えば新入社員やIT業界に入社しようという内定者に、ITの価値や最先端を伝え、その可能性に興味を持ってもらいたいという想いを形にしようという試みです。ITソリューション塾同様、パワーポイントのプレゼンテーションをダウンロードできるようにしました。それは、誰かに伝え、知識や言葉を自分のモノにするきっかけも提供したいと思ったからです。

 もちろん「単語は知っているけど、そのつながりや全体像がいまひとつ整理できていない」という現職の人たちの役にも立つでしょう。また「ITをもっと使って新しいビジネスを作りたい、競争力を高めたい。でも、IT部門やベンダーに聞いても最新の動きがよく分からない」と業を煮やしている事業部門の方や経営者にも役立つかもしれません。何よりも頭の柔らかい若い人たちにこそ、読んでもらいたいと願っています。

 ITは、私たちに変化を促しています。いや、「変化しないと生き残れないぞ!」とテクノロジーの進化は、私たちを脅しているのかもしれません。私は、その片棒を担いでいきたいと思っています。

 もう50年も前の話です。私が小学校へ上がるとき、その入学式で上級生の鼓笛隊が演奏していたのが「鉄腕アトム」のテーマ曲でした。いまでもはっきりと覚えています。残念ながら、まだ「鉄腕アトム」の時代にはなってはいませんが、そんな未来も現実に近づきつつあります。

 なんともますます面白い時代になりました。わくわくします。その思いを若い世代に引き継いでいきたいものです。

最終更新:5/12(金) 14:36

ITmedia エンタープライズ