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改憲判断を迫られるこの時期 ヒントをくれる53人のコラム集

ニュースソクラ 5/12(金) 11:00配信

書評・私にとっての憲法(岩波書店)

 安倍首相は日本国憲法施行からちょうど70年の2017年5月3日(憲法記念日)に「2020年には改正憲法を施行したい」と表明した。2018年末の衆院の任期満了までに国民投票を実施する能性が濃厚となった。改憲案が今秋にまとまってもおかしくない日程だ。投票権のあるすべての日本人にとって真剣に憲法を考える時期が来たといえる。

 そんななか、岩波書店が4月21日に単行本「私にとっての憲法」を発刊した。政治家からミュージシャン(憲法学者はいない)まで、53人の方々の憲法に関するコラムを集めたものだ。

 ひとつひとつは、平均5ページの短いコラムだ。多くの論点や論理とともに、戦争体験(近親者からのものも多い)と、おのおのの憲法体験が綴られている。興味のある方やテーマから読めばいい。すき間時間にも読める入りやすい本だ。

 だが、内容は侮れない。こうした多数の意見を集めた本に関しては、2,3人の興味深い論考があれば良しとしなければならないことが少なくないが、この本は違う。読後の印象に濃淡はあるとはいえ、読んで損したというコラムはなかった。何らかのヒントを得られた。

 「憲法」の持つ論点の奥の深さや、大切さがこの本に反映しているのだろう。国内外の社会環境が変わり目にあることも影響していると思う。

 本の編集部によると、依頼した人の9割が出稿に応じたという。多くの人が、いま憲法を語ることの大切さを意識している数字だ。結果として集まった文章には冷静な「熱」がある。

 10年前であれば多くの人にとって、憲法は護憲か改憲か、すなわち9条と前文の「平和主義」が唯一に近いポイントだった。だが、本書のテーマは多岐にわたる。平和主義以外では、人権に関する主張や論点が多い。世界で「独裁」的な政治家が存在感を増しているなかで、危機を感じる人が増えていることの反映でもあるのだろう。

 53人も集めながら、テーマや論考がほとんどかぶっていない。読みやすさもある。人選などの点での編集者の力量を感じる。

 あえて言えば、憲法発布時にくらべ異次元の進化をとげた通信に関して、憲法21条にある「通信の秘密はこれを侵してはならない」に関し論考が読みたかった。また、両院がねじれた場合の解決策など国会や司法にみえる制度疲労などにも触れられていないのはちょっぴり残念だった。だがそれは、53人を集めてもなお、憲法の奥深さにはついていけないということなのだろう。

 とはいえ、佳境を迎える改憲作業を点検するうえで、また自分自身をみつめるうえでもヒントがたくさんある。手元に置いて時々読み返したい本である。(1700円プラス消費税)

■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:5/12(金) 11:00

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