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いまも続く大阪都構想をめぐる攻防

ニュースソクラ 5/12(金) 12:00配信

2018年秋に再び住民投票のスケジュール

 5月17日、大阪は大阪都構想の住民投票から丸2年を迎える。大阪市を廃止して五つの特別区に分割することに賛否を問うた住民投票は、僅差で反対多数となり、大阪市の存続が決まった。しかし、住民投票から半年後、2015年11月の大阪府知事、大阪市長のダブル選挙で、いずれも「大阪維新の会」の候補が勝利し、両首長は「大阪都構想に再度チャレンジする」と政策として復活させた。2018年秋にまた住民投票を行うスケジュールで、現在は大都市地域特別区設置法に基づく法定協議会の設置が大阪府市両議会に提案されるなど、時計の針が4年ほど前に逆戻りした状況になっている。

 これに対し、大阪都構想、すなわち大阪市廃止に反対する市民団体などの集会や署名運動が、最近また活発になって来た。住民投票を目前にした2015年3月、大阪都構想に反対する1000人規模の市民集会が開催された大阪市中央公会堂では、今年の5月17日午後6時半から「大阪の問題を考える」との趣旨で、2年前と同規模の集会が「市民大集会」と銘打って予定されている。

 大阪都構想だけでなく、思想家の内田樹・神戸女学院大名誉教授の講演を皮切りに、大阪市の市営事業民営化路線や市民病院の廃止など多岐に渡る問題を取り上げる。橋下徹・前大阪市長と松井一郎・大阪府知事が中心になって、2010年4月に旗揚げした地域政党「大阪維新の会」が大阪で推し進める「維新政治」を全般的に問う内容だ。
 この中で、大阪府の職員2人が登壇する。大阪府では2012年4月、「職員基本条例」が施行された。条例には「任命権者は、最少の経費で最大の効果を挙げるために、簡素で効率的な組織の運営に努めるものとする」とあり、これに基づいて2013年度~2018年度に毎年職員数を2%ずつ減らすことが決まった。2013年度に約8000人だった職員は現在約7800人。大阪府関係職員労働組合の有田洋明・執行委員長は「職場の業務が限界になり、府の人事当局は今年度の削減を見送った」と話す。中央公会堂の市民大集会で声を上げる府職員2人は、子ども家庭センター(児童相談所)と保健所に勤務する中堅職員だ。どちらの職場も人の命に係わり、緊急性を要する事態が頻繁に発生する。
 子ども家庭センターで児童福祉司をしている40代の男性の方は、「児童虐待への市民の意識が高くなったこともあって、通報件数が増えている。それ自体はいいことなのだが、府内6か所のセンターで年間約1万件の通告受付があり、1人の児童福祉司が100件を超える事案に対応している。年間の残業時間が1400時間を超える人もいる」と話す。通告に対しては48時間以内に複数の態勢で現地に行って確認しなくてはならず、「今、忙しいから」と後回しにはできない。「予定していた面接をキャンセルしなくてはならないことも多く、定期的に対応が必要な子どものケアが不十分になる」と子どもへの影響を心配する。
 昨年の児童福祉法の改正で、児童福祉司の配置数の基準が決まった。この基準に照らすと、2019年4月までに大阪府の6センター合計で児童福祉司を70数人増員する必要がある。しかし、大阪府は職員基本条例で職員数の削減が決まっており、子ども家庭センターで増員すれば、他の所を減員することになる。有田委員長は「職員基本条例の職員削減は実行不可能で破たんしている」と指摘する。
 もう1人の登壇者、保健所で精神保健福祉相談員として勤務する40代の女性は「保健所の支所を統合して人は減ったのに、保健所の業務は増える一方」と言う。食中毒や感染症など衛生関係の仕事に加え、生活苦や過労の相談、自殺防止など仕事の守備範囲が拡大しており、ギリギリの職員数で緊急時の対応余力がない。昼間は相談電話に掛かり切りで、記録などの書類作成は夜になってからしかできず、午後9時前後まで働く時もあり、休日出勤も当たり前だという。「相模原市の障害者施設で起こった事件をきっかけに、保健所が措置入院した人の退院後のフォローをするという話も出ているが、今の態勢ではとてもそこまで対応できない」と明かす。
 大阪府の職員基本条例は、橋下・前大阪市長が府知事時代に「税金の使い方を見直す」という政治姿勢を示し、松井知事になって成立した。「大阪維新の会」は、「税金の無駄遣い」を公務員バッシングに結び付けて有権者の支持を集め、公務員の給与カットや締め付けを強めながら選挙で議員数を増やして勢力を拡大した。
 大阪府と大阪市の職員基本条例では、職員の人事評価を五段階で「相対評価」することも決められており、必ず一定数が下位評価を受けるようにして、職員間に「競争」のムチを入れる仕組みになっている。ムチを入れられ、低賃金で競争させられる――。これで公務員の「全体の奉仕者」としてのモチベーションが上がるわけがない。公務員が疲弊し、さらに優秀な人材が集まらず、公共が弱るマイナスは、必ず一般市民に跳ね返って来るはずだ。維新政治の公務員バッシングは、実は大阪府民バッシングだと市民が気付いた時はもう手遅れではないだろうか。

■幸田 泉(ジャーナリスト)
立命館大学理工学部卒業。1989年に大手新聞に入社。大阪本社社会部で大阪府警、大阪地検など担当。東京本社社会部では警察庁などを担当。2012年から2年間、記者職を離れて大阪本社販売局に勤務。2014年に退社し、販売局での体験をベースに書いた『小説・新聞社販売局』(2015年9月、講談社)がその赤裸々さゆえにベストセラーに。

最終更新:5/12(金) 12:00

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