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キャラクターの“心の声”を伝える。ディズニー『美女と野獣』吹替版のこだわり

5/12(金) 18:00配信

ぴあ映画生活

ディズニーの新作映画『美女と野獣』が日本でも圧倒的なスピードで動員を伸ばしている。本作は字幕版だけでなく、昆夏美、山崎育三郎らをキャストに迎えたプレミアム吹替版も公開されており、作品の世界観やキャラクターの感情を損なわないよう丁寧に翻訳作業が行われた。

『美女と野獣』その他画像

本作には主題歌『美女と野獣』や『朝の風景』など、登場人物の感情を伝え、ストーリーを語るミュージカルナンバーが次々に登場する。高橋知伽江は『アナと雪の女王』『モアナと伝説の海』などでも観客の記憶に残る訳詞を多く残した才人で、本作では「アニメ版、舞台版と比べて、実写版はキャラクターの背景や想いがていねいに描写されています。その分、ご覧になるお客様もキャラクターに感情移入しやすくなっていると思います。私もキャラクターの想いに深く入り込んで訳詞をしました」と語る。

高橋の想いが最も表れているのが、主題歌『美女と野獣』の訳詞だ。オリジナルの歌詞は、主人公ベルと野獣の恋の物語を外部の視点から歌ったものだが、高橋は「この歌は、野獣とベルが初めてふたりで踊る美しいシーンで歌われます。ふたりの胸も高鳴っていますが、お客様も胸をときめかせてご覧になるところです。ですので、原語の意味を損なわない程度に、映像にしっくりくる言葉を選んでみました」と振り返る。「冬が去って春に花が咲くように、野獣とベルの心も堅いつぼみがほころんで開いていきます。歌詞はそんなふたりの心の変化を、季節の変化にやんわりと重ね合わせています。そして、その愛が咲きほこってほしいというポット夫人たちの願いで、歌は締めくくられます。直接的ではないけれど、客観的すぎもしない歌詞をねらって考えました」

その歌を誰が、どんな状況で、どんな想いで歌うのか? 映画の冒頭でベルやガストン、村の人々が交互に歌い継ぐ『朝の風景』を聴くと、いかに細やかに訳詞がつけられているかわかるだろう。「複数のキャラクターが歌い継いでいく場合、ひとりの歌はかなり短くなります。しかし、限られた音符数でも伝えねばならないことは確実に訳さねばなりませんし、次に歌う人の歌詞とのつながりも考えねばなりません。また、個性をだすための言葉遣いなども歌詞に反映しようとすると、ますます難しくなります。ある意味、長いソロを訳すより、技術を要求されるところです」

単に言語を移し変えるのではなく、キャラクターの口調や想いを観客に“伝える”ことに注力する。スタジオ・エコー所属のいずみつかさは、これまでにも数多くのディズニー作品のセリフの翻訳を手がけてきたが「翻訳をする上で、キャラクター作りはとても大きな部分を占めています」と説明する。「私個人のやり方ですが、まず作品を2、3回見て登場人物のキャラクターを把握します。年齢や地位といった具体的な属性や、性格の特徴、作品中で果たす役割などです。その後、日本の文化的背景から見て違和感のない一人称と語尾を考えます。例えば、ガストンのようなマッチョなタイプは“俺”で“~だ”。ベルは意志の強い自立した女性なので“あたし”ではなく“わたし”。語尾は昔のプリンセス風の“~だわ”や“~よ”などは多用せず、現代女性のようにきちんと言い切る…等です。セリフにリアリティがあれば『美女と野獣』というおとぎ話の世界に自然に入り込み、登場人物と心を通わせて楽しむことができると思いながら翻訳しました」

ちなみに本作は、1991年製作のアニメーション版が基になっているが、セリフの約9割が、実写版のために新たに書かれたものだ。「実写版という新しい作品である以上、セリフが違うのは当然ですし、25年経てば英語や日本語の喋り口調も変わっているでしょう。ですからオリジナルに固執する必要はありませんが、オリジナルと同じ世界観を持ち、なおかつ現代に通用するセリフを書きたい。そのような思いで翻訳しました」

たまに、大きな身振りやダンス、抑揚の大きいセリフ回しがミュージカルの必須条件だと勘違いしている人がいるが、本作では大きな身振りや派手なダンスを登場させずとも、キャラクターの感情がまずセリフや表情で表現され、その気持ちが高まってメロディを伴って歌になり、またセリフや細やかな表情で感情が表現される“円環”をつくることで素晴らしいミュージカルシーンが実現している。

「実写版で足された新しい楽曲を聞いたとき、とてもミュージカルらしい曲だという印象をもちました」という高橋は「ミュージカルでは、歌詞はセリフと同じです。『ひとりぼっちの晩餐会』のようなショーアップされた曲もありますが、基本的には、歌が物語の流れの中で突出することなく、自然にとけこんでいることが大事です。ベルの父親の独り言のような『時は永遠に』、野獣がベルへの想いを切々とうたう『ひそかな夢』など、どれもミュージカルならではの曲、心の声がそのまま歌詞となっている曲です。こうした曲のおかげで、お客様はキャラクターによりいっそう親近感をもてますし、『美女と野獣』がいっそう密度の高い人間ドラマになったと感じています」と分析する。

また、いずみも「過剰なセリフはキャラクターの特徴を印象づけ、作品に勢いを与える上で悪いものではないと思いますが、やはり現実から離れた感じを与えることは否めません。作りのしっかりしたディズニー作品でこれをやると演出過剰になり、かえって作品に入り込みにくくなるのではないでしょうか。もちろん、コメディ作品やクセのある役では多少大げさにするなどケース・バイ・ケースですが、できるだけ自然な会話になるよう心がけております」という。

登場人物の“心の声”を丁寧に伝えるように紡がれた言葉たちが、セリフとして、メロディを伴った歌詞として表現され、物語を通じて美しい円環を作り出す。字幕を見ずともダイレクトに言葉が伝わるプレミアム吹替版では、ミュージカルの魅力をより深く感じられるのではないだろうか。

『美女と野獣』
公開中

最終更新:5/12(金) 18:00
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