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フェイスブックが中国の検閲から学べること

ウォール・ストリート・ジャーナル 5/12(金) 13:12配信

 米交流サイト(SNS)のフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、同サイトの中国でのアクセス解禁を目指してあらゆることを試みてきた。中国指導部に働きかけたり、スモッグに覆われた天安門広場前でランニングしてみたり。ただ最近、暴力的な動画がフェイスブックに投稿されるという難題に直面したことで、中国でサイトを運営するとはどういうことなのかを少しは感じ取っているかもしれない。

 最近問題になったのは、タイに住む男が生後11カ月の娘を殺害している様子を撮影したライブ動画で、削除されるまで24時間ネット上に放置された。これを受けてフェイスブックは先週、コンテンツの監視員を3000人増やし、計7500人にすると発表した。

 中国のソーシャルメディアではこのニュースに対する反応が相次ぎ、中国の検閲経験からフェイスブックから学べるものは多いと指摘するコメントが少なくなかった。ミニブログサイト「微博(ウェイボー)」には「われわれのところに学びに来い」という投稿もあった。

 偽ニュースや暴力的な動画を排除する試みと、独裁的な政府が課す厳しい検閲との間には極めて大きな違いがある。中国で禁止されているコンテンツは暴力やポルノにとどまらず、政治的に容認できないものも含まれる。中国の洗練された検閲システムではフィルタリング技術や実在の警察集団が活用されている。民間企業には自主検閲の義務が課され、従わない企業は事業認可をはく奪される。

 もしザッカーバーグ氏が中国でのアクセス解禁を本気で望んでいるのなら、中国の同業他社から助言を受けたほうがいいかもしれない。中国のように制限された環境で生き延びるのには何が必要かを教えてもらうのだ。

 フェイスブックの広報担当者は、同社が引き続き中国に関心を持っているとし、「中国に対するわが社のアプローチについては、まだ何の決断も下していない」と話す。

中国なら動画監視に2万人必要

 中国在住企業幹部によると、インターネット上の効率的な監視に必要なことは三つある。多くの人員、多重の監視、そして人工知能(AI)の支援だ。

 フェイスブックが今回発表した7500人というコンテンツ監視員の数は大量の資源投入に聞こえるかもしれないが、中国企業幹部に言わせると、中国政府の基準を満たすには程遠い。 中国の動画配信アプリの映客(Inke)には、ライブ動画を監視するフルタイムの従業員が1000人いる。コンサートなどの大規模イベントから、女性が独りで麺を食べている様子に至るまで、あらゆる動画をチェックしている。創業2年の同社は現在のアクティブユーザー数を公表していないが、1年前には5000万人がアプリをダウンロードしてアカウントを有効にしたと述べていた。

 一方でフェイスブックの月間アクティブユーザー数は19億人いる。映客の創業者でCEOの奉佑生氏は「フェイスブックが中国にあれば、動画の監視員だけで少なくとも2万人を雇う必要があるだろう」と話す。中国のソーシャルメディアのように写真や文章も監視しなければならないとしたら、その何倍もの人員が必要になるという。

 動画配信アプリの斗魚(Douyu)の陳少杰CEOによると、監視のアウトソーシング(外部委託)の方が安くつく(フェイスブックも部分的に行っている)が、斗魚の監視員800人は全て自社スタッフだ。厳しい監視を確実に行うためだという。斗魚に集まる視聴者は1日平均で約2000万人、動画配信者は5万人を超える。ピークを迎える午後7~11時の間は、監視チームが2万点を超えるライブ動画をほぼ同時に監視している。

 陳氏によると、中国中部の都市・武漢にある斗魚の監視センターでは、各監視員が10台ものスクリーンを監視する。各スクリーンには別々のライブ動画が流れている。監視員が5秒ごとにコンピューターのマウスをクリックすると、スクリーン10台の動画が一斉に切り替わる。

 こうした作業はあらゆるネットコンテンツ会社にとって大きな負担となる。斗魚は監視員(大半は大学の新卒者)に対し月平均3000~5000元(約5万~8万3000円)の給料を支払う。このほかにオフィスの賃料や給与税などの費用がかかる。

フェイスブックをうらやむ中国企業

 人工知能は人間による監視を補完する。斗魚の陳氏によると、同社が最初に行うのは、画像認識技術でポルノ画像やその他の問題画像を選別することだ。斗魚に投資しているソーシャルメディア・ゲーム大手の騰訊控股(テンセント)は、同社傘下のメッセージサービスであるQQや微信に投稿される動画向けに技術を開発した。両サービスのアクティブアカウントは計17億5000万件。フェイスブックに匹敵する数だ。

 この技術はまだ初期の段階にある。陳氏によれば、疑わしい動画を認識するのに2分以上かかる場合がある。動画配信を中止する決断は全て人間の監視員が下すという。

 テンセントは、米カリフォルニア州サンディエゴの新興企業「Kneron」と連携し、感情や行動を検知できるソフトウエアを開発中だ。Kneronの創業者である劉峻誠氏が明らかにした。同氏はクアルコムやサムスンで働いた経験を持つAI科学者だ。テンセントはコメントを差し控えた。

 テンセントが設定した課題で最も難しかったものの一つは、誰かが抗議の旗を掲げたときに検知するプログラムの精度を95%から98%に上げることだった。劉氏は「ほぼ2カ月かかった」と語る。

 フェイスブックはどんなコンテンツをどのように取り締まるかを自由に決められる。中国企業の幹部はそれをうらやましく思っている。彼らにとってコンテンツの検閲は事業の存続に関わる問題だ。

 映客の奉氏は、中国企業には豊富な経験があるため、フェイスブックは監視作業の国外移転を検討すべきだと話す。「フェイスブックは監視チームを中国に置けば良い。われわれは手助けできる。彼らの監視作業はわれわれの作業よりずっと簡単だ」

By Li Yuan

最終更新:5/12(金) 13:12

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