ここから本文です

曲がり角を迎える“キャリアの戦略” KDDIとソフトバンクの決算を読み解く

ITmedia Mobile 5/13(土) 6:25配信

 4月に発表していたドコモに続き、KDDI、ソフトバンクも通期決算が出そろった。2社とも増収増益で、ソフトバンクについては、純利益が1兆円の大台を超えるなど、好調さを維持している。一方で、KDDI、ソフトバンクの2社とも、モバイル事業では、2016年4月に施行された端末販売適正化のガイドラインの影響がボディーブローのように効いているようだ。契約者数を増やし、1人辺りからの収益であるARPUを上げる戦略が、曲がり角を迎えていることがうかがえる。

【ソフトバンクの契約数】

●MVNOやサブブランドを含めての純増維持に方針を転換

 KDDI、ソフトバンクとも、年間を通して純増を維持した。KDDIはauの契約者数とMVNOの契約数を足した「モバイルID」数が、2602万を突破。ソフトバンクも、スマートフォンやタブレットなどの「主要回線」に絞った契約者数が3240万を超え、年間で36万の純増を記録した。「累積ユーザー数は、着実ではあるが、安定的に伸びている」というのが、ソフトバンクグループの孫正義社長の見方だ。

 一方で、純増数の“内訳”を見ると、かつてのように、右肩上がりの成長にはブレーキがかかっていることが分かる。KDDIは、モバイルID数は増加を維持できたが、auの減少分をMVNOの増加分がカバーした格好だ。傘下のUQ mobileが端末や料金プランを整備し、本格展開を開始したことに加え、ドコモのネットワークでMVNO事業を行うビッグローブを買収したことで、MVNO契約数は2016年の6月の16.3万から、2017年3月には87.4万に急増している。ガイドラインの影響を問われたKDDIの田中孝司社長も「市場全体で見ると、MNO間の競争はほぼ膠着化していて、ほとんど流動が出ていない。逆に言うと、MNO以外、MVNOに向けての流出が顕著に出ている」と危機感をのぞかせた。

 こうした現状を踏まえ、KDDIは「MVNOの普及が拡大している現状を踏まえて変革する」(田中氏)といい、先に挙げたモバイルID数という概念を導入。au単独での成長から、UQ mobile、J:COM MOBILE、BIGLOBEといった傘下のMVNOを含めた成長に、方針を転換。「ID数は(auとMVNOの)両方で見ていき、ARPA(1契約ではなく名寄せした1人あたりからの通信料収入)はできるだけ維持する。さらに付加価値ARPAを増やし、全体で増収を目指す」(同)ことを目標に据えた。

 通期では純増を維持できたソフトバンクも、懐事情はKDDIと大きく変わらない。ソフトバンクの場合、MVNOの立ち上がりが遅れ、3月にようやく日本通信やU-NEXTが同社の回線を使ったサービスを始めたばかりだ。そのぶん、自社で直接運営するY!mobileが好調で、ユーザー数を伸ばしている。孫氏もこれを認め、「(純増は)Y!mobileを足しての話」と語る。ARPUを見ても、下落傾向が顕著に出ている。2015年度は通信ARPUとサービスARPUを合算した総合ARPUが4700円だったのに対し、2016年度は4500円と200円低下した。

これは、「(ソフトバンクに比べて料金の安いY!mobileは)ARPUが少ないので、引っ張られがちになる」(同)ためだ。

●Yahoo!連携を強化するソフトバンク、ライフデザイン事業を本格化させるKDDI

 ARPUが低下している現状に対し、孫氏は「当然増益させなければいけないし、それはやる」と語り、「そこで光ファイバーのバンドルによる、1ユーザーあたりの売り上げを増やす。コンテンツやサービスをトータルで増やすことを一生懸命やっていく」という方針を明かす。実際、ソフトバンクは、NTT東西の光コラボレーションを活用した「ソフトバンク光」が359万契約(モバイル回線のSoftbank Air含む)を超えており、2015度の172万契約から倍増以上の成長を見せている。

 サービスでは、「Yahoo!JAPANとのシナジーもさらに出していく」(孫氏)と言うように、ソフトバンクとの連携を強化しているところだ。Y!mobile向けに実施していたYahoo!プレミアムの無料化を、メインブランドのソフトバンクにも導入するのは、その一環とみていいだろう。Yahoo!JAPANは、ショッピングに注力しており、ストア数は51万にまで拡大した。ポイント還元を強化することで、ソフトバンクユーザーの利用はさらに増えていくことになりそうだ。そのYahoo!JAPAN自体も、増収増益(アスクル子会社化も含む)を果たしており、ソフトバンクの業績に貢献している。

 固定回線や、上位レイヤーのサービスで、トータルの収益を稼いでいくという大枠での方針は、KDDIも同じだ。KDDIは、中継経営戦略として、ライフデザイン戦略を掲げており、コマース、生保損保、住宅ローン、IoTなどに事業領域を拡大している。今期については、戦略的投資も行う予定で、ライフデザイン企業の足腰となる販売チャネル改革に150億円、ライフデザイン関連事業そのものの100億円をつぎ込んでいく方針だ。非通信領域に関しては、M&Aも加速させており、DeNAからショッピング事業を取得し、2017年からWowma!を開始。さらに「足元では、IoT時代を見越した出資、提携も進めていく」(田中氏)という。

 もっとも、非通信領域の対象はauユーザーが対象となっており、auのネットワークを使うMVNOとの連携がまだ十分取れていない。KDDIが定義するところの付加価値ARPAを上げるには、au IDの開放などのオープン化戦略が必要になってくるはずだ。田中氏も、「今期の予想には入っていないが、考えていかなければいけない」と語っており、今後は、ドコモやソフトバンクと同様、上位レイヤーをネットワークと切り離していく可能性もありそうだ。

 非通信領域での収益性を上げていくのは、大手3社に共通した戦略だ。一方、前回の連載で指摘した通り、ガイドライン施行後の競争環境は、ドコモにとって有利に働いている。au、ソフトバンクがともに、メインブランドのユーザー数を減らす中、ドコモはMVNOを除いた単独での純増も維持。

 端末の販売台数も横ばいで、各種料金施策が功を奏した結果、ドコモの解約率も0.59%と、3社の中で最低水準となっている。これに対し、KDDIやソフトバンクは、基盤となる通信事業にもMVNOやサブブランドの影響が出ていることが浮き彫りになった。MVNOの拡大や、総務省のガイドラインを契機に、競争環境が変わりつつあることがうかがえる。

●「5G」でのネットワーク競争に備えるソフトバンク、KDDIも設備投資を継続

 さらに、2020年には「5G」が商用化され、競争軸がもう一段変化する可能性もある。ソフトバンクは、ここに向けた戦略も披露した。同社と傘下の米Sprintは、決算説明会に合わせ、Qualcommとの発表を行った。合意内容は、2.5GHz帯(Band 41)を活用した5Gの技術開発について。「個別の設計のところは、まさに今日からがキックオフになる」(孫氏)ため、明かされなかったが、モデムの共同開発を行っていくのかという質問については、「なかなかいいところをついている」(同)と答えた。

 2.5GHz帯では、ソフトバンクとSprintの双方が、TD-LTE(AXGP)を運用している。LTEの中では高い周波数帯だが、Sprintは、電波の出力を上げ、このエリアを広げるHPUE(ハイ・パワー・ユーザー・エクイップメント)を導入した。HPUEは、2016年のMobile World Congressで、孫氏がTD-LTEの業界団体であるGTIに提案した規格。これが採用され、Sprintに導入したところ、1.9GHz帯と99%同じエリアをカバーできたという。

 さらに、Sprintは「Magic Box」や「Femto」など、さまざまな小型基地局を導入。孫氏が「これは5Gのネットワークの前哨戦だ」と語っていたように、現状のネットワークを改善するだけでなく、5Gに向けた先行投資という意味合いもある。Qualcommとの合意は、ここにつながってくるというわけだ。

 同じ2.5GHz帯を運用しているだけに、ソフトバンクへのシナジー効果も期待できるかもしれない。もともと孫氏は、Sprintの経営再建のために、「ある意味、ソフトバンクが日本で培ったノウハウを全部導入した」(同)。一方で、HPUEなどは、ソフトバンクではなくSprintが先行導入している。「Sprintが今抱えている問題を解決するために、新たな道具で世界に先駆けた開発を行っている」(同)からだ。今では、「Sprintとソフトバンクはお互いに技術で刺激し合う」関係になっているというのが、孫氏の見方だ。

 ネットワークや5Gについては多くを語らなかったKDDIだが、設備投資については、2017年度に5300億円を予定している。2016年度から100億円程度増やし、「700MHz帯、3.5GHz帯の4G投資に使う」(田中氏)方針だ。5Gのトライアルも徐々に進めており、2020年に向け、徐々にネットワークを進化させていく。前回の連載で取り上げたように、ドコモも5月に5Gのトライアルサイトを開始し、複数企業と実験を行う予定。5Gをベースにした「beyond宣言」も打ち出しており、3年後に向け、ネットワーク競争も徐々に過熱していくことになりそうだ。

最終更新:5/13(土) 6:25

ITmedia Mobile