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詩のボクシング描く「ポエトリーエンジェル」ヒロインには武田玲奈 飯塚俊光監督「若いころの自分に向けて作りたい」

産経新聞 5/13(土) 9:36配信

 この人もまた、異色の映画監督と言っていいかもしれない。5月20日に公開される「ポエトリーエンジェル」の飯塚俊光監督(36)は、大学卒業後、ウェブ制作会社に勤務するかたわら、夜間の学校で映画を勉強。各地の映画祭で認められて、劇場用作品を手がけるに至ったという経歴の持ち主だ。会社員時代はコンピューターのプログラムに携わっていた飯塚監督は「ある種のロジックで物事に向かっていく感覚はシナリオ作りにも似ている」と語る。

■梅農家の息子が詩のボクシングと出合い…

 「Aが何かを経てBになるときの過程をプログラムで書くことと、Aがどういう話でBに変化するかは、すごく似ている気がする。作家の伊坂幸太郎さんも元システムエンジニアなんですけど、何か分かるんですよね。なんていうと怒られるかもしれませんが」

 こう笑う飯塚監督の新作「ポエトリーエンジェル」は、詩のボクシングを題材にした青春映画だ。詩のボクシングとは、1対1でオリジナルの詩を朗読し、どちらの言葉がより聞き手に響いたかを判定して勝敗を決める“声の格闘技”で、飯塚監督は高校生のころにテレビで見て、独特の世界観が強く印象に残っていた。

 舞台は和歌山県田辺市。高校を卒業して実家の梅農家を手伝いながらも満たされない毎日を送っていた玉置勤(岡山天音)は、ふとしたきっかけで詩のボクシングの教室に通うようになるが、女子高校生との練習試合でこてんぱんに負かされてしまう。一方、勤と毎朝顔を合わせながら挨拶ができない高校生の杏(武田玲奈)は、ボクシングのトレーニングに汗を流す日々だった…。

 田辺市で開かれている「田辺・弁慶映画祭」(主催・同映画祭実行委員会)が昨年第10回を迎え、その記念作品として、それまでの受賞者から企画を募集。飯塚監督の案が採用されて、映画化が実現した。

 「企画は前からあったんですが、面白いねといわれても、具体化には至らなかった。今回は田辺をいかした話にするという制約があり、そのおかげでプロットが自分の中で整備された感じがする。それがよかったのかもしれません」

■実際の真剣勝負をカメラで活写

 撮影は昨年の夏、田辺市を中心に、わずか8日間で行われた。意思の疎通、親子の葛藤、仲間との団結など幅広いテーマを描きながら、エキストラも大量動員して詩のボクシングというライブ感あふれる題材を8日間で撮るとは驚きだが、「もう1つのびっくりポイントとして、最後の詩のボクシングはシナリオでは勝ち負けを書いていないんです」と飯塚監督。

 ネタバレになるので詳しくは書けないが、クライマックスの詩のボクシングのシーンは、出演者が真剣勝負で詩を朗読し、審査員役が自分の感覚で判定したものを、そのままカメラに収めた。監督でさえ、結末がどうなるかは分からなかった。

 「決めごとなしでやっていますから、撮影しながら、『お、映画的になってきたね』とか言っていたのを覚えています。役者さんも大変だったと思う。途中で撮影を止めても、ずっと涙が止まらなくなるくらい役に入り過ぎていた人もいましたね」

 神奈川県相模原市出身の飯塚監督が映画に目覚めたのは、ちょうど詩のボクシングを初めて知ったのと同じ高校生のころのことだ。北野武監督や仙頭武則プロデューサーらの単館系の作品が話題を集めていた時期で、映画からさまざまなものを教わったという。

 「今も、あのころに自分が経験した感覚を大事にしている部分があって、どこかそのときの自分に向けて映画を作りたいという気持ちがある。だから若い人の話になってしまうことが多いんです」と話すが、当時は映画を作るなんて全く頭になかった。

 「食いっぱぐれないために」と、専修大学に進学して情報処理の分野を専攻。ウェブ制作会社に就職するが、3年くらい働いたときに映画学校のニューシネマワークショップに通うようになる。「好きなことをやらないと終わってしまうんじゃないかと思った」と振り返るが、先々のことをそれほど深く考えていたわけではなかった。

■「面白かったよ」は魔法の言葉

 「勤めたのは、映画を撮りたいと言ったら許してくれるような会社でした。もっとも最初のうちは、自分はなぜ映画を撮っているのだろうという感じでした」と振り返るが、少しずつ変わっていった。

 「2010年に『行けよ、千葉。』という作品を撮ったとき、『めっちゃ好きだ』といってくれる人がいた。ほかにも、僕の作品に出たいと言ってきた俳優さんもいたりして、すると感覚がちょっと変わってくるんですよね。小っちゃい自信がどんどん膨らんでいったという感じです」

 12年に群馬県の「伊参(いさま)スタジオ映画祭」(同映画祭実行委員会)でシナリオ大賞を受賞した「独裁者、古賀。」は、翌年に映画化すると、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードや田辺・弁慶映画祭などで高い評価を獲得。劇場公開も実現する。ここから、田辺・弁慶映画祭の第10回記念作品に「ポエトリーエンジェル」が選ばれる道につながっていった。

 会社は4~5年前に退職し、現在はウェブ映像や企業広告などの仕事も請け負っているが、最もやりたいものは映画だと断言する。

 映画の魅力とは何か。そう尋ねると、「難しいな」と沈思黙考した後、「映画は自分のことを、さらけ出していく感じがする」と答える。

 「駄作を撮ったら駄作なりの、いい作品を撮ったらいい作品なりの反応があるのが、映画ならではかなと思います。作っているときはつらいことも多いけど、『面白かったよ』といわれるだけで、やってよかったなと思える。魔法の言葉ですよね、『面白かったよ』は」と言ってほほ笑んだ。(文化部 藤井克郎)



 「ポエトリーエンジェル」は、5月20日から東京・テアトル新宿、和歌山・ジストシネマ田辺、27日から大阪・シネ・リーブル梅田、兵庫・OSシネマズ神戸ハーバーランド、6月3日から東京・キネカ大森など全国順次公開。



■詩のボクシング 映像作家で音声詩人の楠(くすのき)かつのり氏が、1997年10月に日本朗読ボクシング協会(JRBA)を発足させ、「詩のボクシング」と銘打って2人の朗読ボクサーが交互に10ラウンド朗読して闘うタイトルマッチを行ったのが、その始まり。

 ボクシングリングに見立てたステージ上で、2人の朗読ボクサーが交互に自分のオリジナル作品を声に出して表現し、観客あるいは観客の代表であるジャッジがどちらの声と言葉がより聞き手の心に届いたかを判定する。

 「詩のボクシング」トーナメンは、全国の小、中、高校、大学などの教育現場でも実践されている。(「詩のボクシング」公式サイトから引用)

最終更新:5/13(土) 9:36

産経新聞