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ピース又吉「みんなの期待に応える能力はない」新作「劇場」で思い知らされた苦悩

スポーツ報知 5/13(土) 12:01配信

芥川賞作「火花」より先だった

 お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹(36)の小説第2弾「劇場」(新潮社、1404円)の単行本が11日、刊行された。初版は、2015年に芥川賞を受賞したデビュー作「火花」(文芸春秋)の倍となる異例の30万部。又吉は、このほどスポーツ報知のインタビューに応じ、「火花」を執筆する前に「劇場」を原稿用紙60枚ほど書き始めていたが中断した経緯を明かし、芥川賞作家として新作を書く苦悩を語った。(江畑 康二郎)

 「劇場」は、幻の小説第1号だった。12年頃、最初に新潮社が小説執筆の話を持ちかけた。又吉は、14年の夏に原稿用紙60枚ほどを書き上げたが、筆が進まず中断。先に文芸春秋から「火花」を刊行する形となった。
 「小説を書いたことがなかったので、『火花』の若者の衝動的な部分や粗削りな部分、ちょっとズレてる感覚とか短時間で書いた方がいいと思った。今の僕の視点で、『火花』の登場人物の行動を審査してしまったら、格好つけてしまうというか、良い意味でのダサさみたいなものを排除してしまう」

 結局、「劇場」執筆を再開したのは昨春からだった。
 「僕と一緒に仕事している皆さんは話題になることより、作品のクオリティーをしっかり上げるという考えが強い。今思えば、確かに不義理やったんかなとか考えるけど、『劇場』では変化を作ったり、時間の流れを表現するのが難しかった。ゆっくり時間をかけて作った方がいいと思った。そこはご理解いただけていると思います」

重圧は予想外だった

 新人作家の最高峰である芥川賞を芸人として初めて受賞した「火花」は累計311万部(10日現在)を突破する大ベストセラーになった。同時に新作にかかる重圧は想像を超え、恐ろしいほどだった。
 「芥川賞はすごい賞だけど、あれだけ話題になったら、芥川賞どうこうではない。『芥川賞作家として、初めての作品を書け』と誰も思っていない。『又吉直樹として2作目をちゃんと書けたんか』という感じで見られている」

 世間の強烈な好奇のまなざし。一度書いた原稿を見返し、「これじゃ難しすぎる」と書き直した。必要以上に読者におもねりそうになった時、ふと思い出した。
 「僕は子供の頃から皆に愛される人間ではなかったなと。急に『火花』で注目を浴びてみんなの期待に応えようとしすぎている。そんな能力はない。努力はするけど結局は自分の思うものを作るしかないと、当たり前のことに気付いた」

 「劇場」は売れない劇作家・永田が女優志望の大学生・沙希と織り成す恋愛物語。自身の恋愛経験も踏まえ、理想と現実のはざまで葛藤する姿や大切な人への切実な思いを描いた。
 「永田というキャラクターや内面の部分は、僕の若い頃に似ている部分もある。僕も恋愛は得意な方ではなかった。例えば、(永田が)クレープを一口食べたら差し歯が抜けて、『歯入ってたで』と(沙希が)笑う部分。あれは僕が高校生の時の話に近い」

 作中で、自分本位な永田を沙希は笑顔で優しく包み込む。その恋愛模様に、又吉の“男女観”がにじみ出る。
 「自分勝手な男とそれを支える女性の組み合わせって、すごく古い昭和のように感じるかもしれないけど、今もものすごい数が存在している。そういう人たちをこの時代にいなかったことにしていいのかなという思いがあって、永田と沙希を掘り下げたいと思った」

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最終更新:5/13(土) 12:01

スポーツ報知