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株価にかかる靄(もや)の正体 「血気」なき企業が停滞招く

産経新聞 5/15(月) 10:15配信

 米国をはじめ、世界の株価は国際政治情勢の激変をものともせずに上げ潮に乗っている。欧州市場は昨年6月の英国の欧州連合(EU)離脱決定に震撼(しんかん)させられたことをすっかり忘れている。韓国株式市場は北朝鮮の軍事挑発を平時のごとくみなして沸き立つありさまだ。(編集委員・田村秀男)

 ならば、日本の株式市場の展望も良好となるはずだが、いまひとつすっきりしない。うっすらとした靄(もや)がかかったままなのだ。「日経平均株価2万円の壁」を引き合いに出して、そう見なすわけではない。投資家心理というものはうつろいやすいもので、表面的な相場のありさまに振り回されてはならない。

 トランプ米政権の円安警戒はどうか。確かにこれまで日本の株価は円安で高くなり、円高で下がってきた。それでも、トランプ大統領が円高・ドル安に向け、「口先介入」したところで、効き目はつかの間だ。トランプ氏の保護貿易主義もドル高要因だ。トランプ政策目玉の大型減税やインフラ投資計画が米議会で受け入れられれば、米景気回復にはずみがつき、海外からのドル資産買いが急増し、ドル高、すなわち円安に振れるだろう。ただ、政治的イベントが引き起こす市場現象が長続きするはずはない。

 「日本株の靄」は、株式市場を支える土台から発しており、短い期間で一掃できない、根深い構造要因である。グラフは、1980年代後半のバブル経済期以降の金融業を除く日本企業全体の税引き前利益、設備投資動向である。年ごとのデコボコをならして長期的なトレンドを浮き上がらせるために、各年までの10年分を合計し、各年のその値の10年前との増減額をグラフ化した。

 判明したのは、2002年までは経常利益増加額以上の設備投資が増えていたが、03年以降は逆転し、05年以降は設備投資が10年前の水準を下回る点だ。対照的に、経常利益は急増し、その増加幅はバブル期をしのいでいる。

 節目になった02、03年には小泉純一郎政権(当時)の構造改革路線による株主重視型の米国型資本主義への移行が始まった。90年代のバブル崩壊期に企業収益減と連動して株価は下落を続けてきた。企業は設備投資を抑制して、リストラを進め、収益力の回復に努めたことがうかがわれる。その結果、株価は持ち直したが、08年9月のリーマンショックのあおりで急落し、底をはった。12年12月発足の第2次安倍晋三政権によるアベノミクス開始後、株価は異次元金融緩和に伴う円安と企業収益増とともに急速に持ち直した。

 日本の株価は上述した通り、円相場動向に振り回される。企業収益は大幅に改善しているのに、株価を押し上げる決定要因にはならない脆(ぜい)弱(じゃく)さがつきまとう。それこが現在の株式市場の実相である。

 よくよく考えてみれば、もたつく株価は嘘をついているわけではない。経済実体を反映している。資本主義国家のダイナミズムは本来、「アニマルスピリッツ」(血気)と呼ばれる企業家の設備投資意欲から生まれる。現代経済学の祖、J・M・ケインズの「一般理論」が説く世界では、投資に伴う予想収益率が高く、しかも金利が低ければ、血気が企業者の間に沸き起こるはずなのだが、今の日本では設備投資を見送り利益を増やして株主におもねる企業が大多数を占める。

 国内景気は、ここにきてようやく14年4月からの消費税増税によるデフレ圧力が和らいでおり、一部業種では人手不足が深刻化している。株価は上がって資産家は潤っても、景気には無縁、賃金は上がらず、格差社会だ。庶民感覚からすれば好景気の実感はない。事実、実質経済成長率は16年で1%に過ぎない。企業は依然として正規雇用者に対する賃上げに慎重だ。設備投資をせず、利益の内部留保を増やす経営姿勢がそうさせるのだ。

 投資不足は、日本産業力の縮小均衡を意味する。製造業の場合、高収益を稼ぎ出している企業が多いとはいえ、肝心の国内では成長部門への投資が後回しにされている。東芝のように米ウエスチングハウス(WH)の大型買収に余剰資金をつぎ込んだ揚げ句に、買収した海外子会社で巨額の損失を出した。

 米国はどうか。本グラフと同様の手法で10年単位で企業利益と設備投資をチェックしてみたら、リーマン後から利益増加額が設備投資を上回っている。日本と違うのは、投資は増勢基調を持続している点だ。企業家の血気は衰えてはいない。米株価が上がるのも無理はない。

最終更新:5/15(月) 10:15

産経新聞