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救済遠い「損害賠償命令」 刑事裁判中に請求 長崎県内わずか12件

長崎新聞 5/14(日) 9:32配信

 犯罪被害者支援の一環で2008年12月に始まった「損害賠償命令制度」の利用が低調だ。開始以降、長崎県内の裁判所への申立件数は12件にとどまる。被害者が民事訴訟を起こさなくても、刑事裁判中に被告に賠償請求できる仕組みだが、「命令」を受けても加害者側が賠償に応じないケースも少なくなく、専門家は「被害者の救済につながっていない」と指摘する。

 同制度は、裁判所が刑事裁判の判決後、引き続き損害賠償についても審理する仕組み。殺人や傷害、強制わいせつなど故意による一部の犯罪が対象。被害者が刑事裁判中に申し立てる必要がある。

 刑事裁判の訴訟記録を証拠として活用でき、手数料は2千円。原則4回以内の審理で裁判所が決定を出す。それまで、被害者が損害賠償を請求するには刑事裁判後、金銭を工面し労力を払って民事訴訟を起こさなければならなかったため、被害者の負担軽減につながると期待された。

 最高裁によると、全国では同制度で毎年200~300件ずつ何らかの結果が出ているが、本県での利用は広がっていない。

 長崎地裁によると、09年以降の申立件数は計12件。ここ数年は1件あるかないかで推移している。罪種は強制わいせつが5件、傷害4件、婦女暴行2件、殺人1件。9件で被害者側の請求が認められたり、和解が成立したりした。民事訴訟に移ったのが2件。被害者側の取り下げも1件あった。

 利用が低調な理由の一つは、賠償命令が出ても加害者側に支払い能力がない場合、賠償金を回収できる見通しが立たないことだ。

 長崎県弁護士会犯罪被害者支援特別委員会副委員長の飯田直樹弁護士が関わった事例では数年前、殺人未遂事件の被害女性が同制度を利用。加害者側に約350万円の賠償命令が出たが、支払いは滞りがちで、いまだに300万円以上の残額があるという。

 飯田弁護士は「加害者に支払い能力があれば、少しでも量刑を軽くするため、刑事裁判中に示談金を用意するもの。加害者に資産がない場合、損害賠償命令が出ても空手形になりがちだ」と話す。

 犯罪被害者に対する賠償金の支払いが放置される問題はかねて指摘されてきた。01年に諫早市で起きた女児誘拐殺害事件の被害者遺族は03年、加害者に損害賠償を求めて提訴。裁判所は05年に約7千万円の支払いを命じたが、全く支払われないまま民法上の時効(判決確定から10年)を迎え、被害者遺族は15年10月、再提訴を迫られた。

 女児の父親川原冨由紀さん(62)は「国が賠償金を立て替える制度が必要ではないか」と訴える。

 常磐大大学院の諸澤英道元教授(刑事法)は「欧米諸国では『国家が国民を守る義務がある』との考え方の下に犯罪被害者に一定額の賠償金を支払っている。日本にも犯罪被害給付制度があるが、被害に照らすと少額で、あくまで『見舞金』という位置付け。本格的な救済制度をつくるべきだ」と指摘する。

長崎新聞社

最終更新:5/14(日) 9:32

長崎新聞