ここから本文です

磯崎キリン社長、「キリンはいいことしているなと思ってもらえればいい」

5/14(日) 17:30配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 磯崎功典キリンホールディングス社長(2)

――社会的課題を解決することよって経済的価値を追求するというCSV(クリエーティング・シェアード・バリュー)を経営の基軸にするとの方針は、社員にはきれいごとに聞こえて、なかなか理解されないのではないですか。

 簡単にはいきません。CSVに取り組み始めて、社員との対話集会を驚くほどたくさんやりました。それで声を一生分使ったと思います。

 昔のように美声が出なくなりまして、カラオケに行って歌うと、声が引っかかる感じです(笑)。喉を検査しても、ポリープも何もできていないので、やはり使い過ぎです。

 2012年にキリンビール(ビール部門の事業会社)の社長になってからキリンホールディングスの社長に就任した15年まで、あちこちを回って対話集会をずっと続けました。話の半分くらいはCSVについてです。CSR(企業の社会的責任)活動との違いから話しました。

 社外で講演をするときも、CSVの話をしました。新聞社などの主催だと、記事で紹介されて、それを社員が読みますからね。私の話もいいけど、活字になると素直に信用する傾向があるでしょう。家内も「お父さんが言っているのは、こういうことなのね」ですよ。「いつも言っているじゃないか」と言うんですがね(笑)。

 しかし言葉だけで形にしないと、イメージがわかないので、一つひとつ、やっています。「47都道府県の一番搾り」の発想はまさにそれです。

――都道府県ごとにご当地ビールの「一番搾り」をつくって、地域おこしに役立て、同時に地元の人たちに宣伝してもらえば、広告費も節約できるというやつですね。

 これも結構、宣伝費がかかっているんですよ(笑)。地方では反響が大きくて、特に地方紙の人は驚いているらしいですよ。例えば山形県で、アイドルグループの嵐が出る広告を載せたら、新聞がその日に売り切れました。お客さんは嵐を買いに来たのかどうかわかりませんけどね。

 各都道府県に支社、支店がありますから、「47都道府県の一番搾り」は、多くの社員がみんなでやっているんです。実際に携われば、これがCSVなのかとわかります。

 「お客さんに感謝されました」「何で感謝されたの?」「地元のことを取り上げてくれて有難うと言われました」「で、ビールの販売は?」「売れました」「それだよ。それがCSVなんだよ」

 こういう具合に、社員に皮膚感覚で理解してもらうには、時間がかかります。お客さんには「CSV」なんて言葉を知ってもらわなくてもいいのです。「キリンは何かいいことをしているようだ」と感じてくだされば十分です。

 社員みんなが意識せずに当たり前のようにできるようになれば本物です。でも最初は意識してやらないと、本物になりません。

――キリングループ全体のCSVは、どのようになっていますか。

 「環境」によいことは、どこの会社もやりますから、当社も当然、取り組んでいます。「地域」とのコミュニケーションは、その一つが「47都道府県の一番搾り」で、キリンらしい取り組みを目指しています。酒類、飲料、医薬のメーカーとして、重要なのは「健康」関連の分野です。

 ビール類では糖質やプリン体をカットした製品を出したり、飲料ならば砂糖類の量を減らしたりしています。協和発酵キリンは医薬メーカーですから、「健康」関連は本業です。

 海外でも、例えばオーストラリアは肥満が最大の悩みなのです。向こうの方は、総じて高カロリー、高脂質・糖質の食品、飲み物を摂りますからね。私どもはビールや乳製品をやっていますので、カロリーを抑えた製品を政府と一緒になって広めようとしています。

 既存の事業をCSVの発想に基づいて進めていくのはもちろんですが、私の夢はもっと壮大なんです。頭の中で考えていることは、とてつもなく大きくて、それを言うと妄想のように思われかねないので、まずは一歩一歩、実績を積んでいこうと思っているわけです。

――その大きなこととは何ですか。

 事業のポートフォリオを変えることです。もちろん10年後、20年後も、ビールやワイン、飲料をしっかりやって行きます。さらに加えて健康領域で大きな事業ができないかと、昨年4月に事業創造部を設けて、今必死に努力しているところです。

 例えば、まだ病気ではないが、放っておくと病気になるかもしれない、いわゆる未病の領域です。病気を防ぐための要素はいくつかありまして、腸や皮膚の健康を保つのもそうですね。うちには、それに役立つ相当いいものがあるんです。マーケティングをきちんとやって、商品化して行かなければと考えています。

 未病向けでは、既にプラズマ乳酸菌というのがあって、錠剤を私と家内は毎日飲んでいます。要するに健康食品で、飲料などでも販売しています。ウィルスへの免疫効果を高めるので、私はインフルエンザにかかりませんよ。これも大きなビジネスにしなければならないと思っています。

 健康関連の開発には、協和発酵バイオ、協和発酵キリン、それにキリンももとからありますから、グループの総力を結集して、さらに足りなければ、他社とのオープンイノベーションもやります。将来、事業のポートフォリオは大幅に変わりますよ。CSV経営の究極の目標です。

 しかし正直なところ、まだ海のものとも山のものともわかりませんので、株価には反映されていません。投資家に夢を話すと「磯崎さん、わかった。それはできた時に言ってくれ。今の話を聞きましょう」と言われてしまうのですがね(笑)。
(次号に続く)

■聞き手 森 一夫:「わが経営」を語る(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:5/14(日) 17:30
ニュースソクラ

Yahoo!ニュースからのお知らせ