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「あなたにはスキルがない」と言われたら――感情コントロール「ステップ5 感情を活かす」

@IT 5/15(月) 7:10配信

 「あなたにはスキルがない」。

 私がSEだったころ、A氏から言われて、すごく頭に来た言葉です。もし、A氏が優れたエンジニアだったら、「まぁ、仕方がないな」と諦めも付いたのでしょうが、彼はプログラムを組めない管理職でした。

 一緒にシステム開発をしていた仲間や顧客からは評価されていましたし、技術力にも自信がありました。それだけに、A氏の言葉を聞いたときは、もう悔しくて悔しくて。トイレに行って泣きましたよ。そして、悔しさはだんだん怒りに変わり、思ったんです。「あの野郎、今に見てろよ!」と。

 あなたは強い怒りの感情を抱いたことはありませんか? 机を「ドン!」とたたいて大声で怒鳴ったり、モノを投げつけて壊したりした経験もあるかもしれません。いや、それができればいい方です。立場的に、態度にはあからさまに出せず、グッと飲み込んだ経験の方が多いかもしれません。

 あの、悔しさや怒りの感情が持つエネルギーは、かなり強力ですよね。

 ネガティブな感情が持つエネルギーは、外に出すと破壊的に作用したり、内に溜めると精神的に落ちたりするので、あまり好ましくありません。しかし、もしこのエネルギーを、物事を前に進める原動力に変えられたら、良いと思いませんか?

 本連載ではこれまで、仕事で生じるさまざまな感情をコントロールするすべを、「概論」「1 気付く」「2 受け入れる」「3 鎮める」「4 切り替える」というステップで見てきました。

 最終回となる今回は、感情を「5 活かす」方法を考えます。

●原動力に変える一般的な方法は「悔しさをバネにする」

 ネガティブな感情をポジティブな原動力に変えるには、「あの野郎、今に見てろよ!」のように「悔しさをバネにする」のが、よく使われる方法です。

 私自身、これまで何度も悔しさをバネにしてきたので、この方法が決して悪いとは思いませんし、今も「全くしていない」と言ったらウソになります。

 けれども、この方法には欠点もあります。自分を鼓舞するたびに、あの悔しい体験や嫌な気分を思い出してしまうのです。

 あまり嫌な気分にならずに、物事を前に進める原動力に変える方法はないものでしょうか。

●「事実」と「解釈」に分けて、事実に新しい解釈を付ける

 今、私はネガティブな気持ちになったとき、「リフレーミング」という方法を使って、ネガティブな感情をポジティブな原動力に変えています。

 リフレーミングは、ひと言で説明すれば、「ネガティブな出来事を『事実』と『解釈』に分けて、事実に新しいポジティブな解釈を付ける」という方法です。

 例えば、「A氏に『あなたはスキルがない』と言われてすごく悔しかった」という出来事をリフレーミングするなら、まず「A氏に『あなたはスキルがない』と言われた」という事実と、「その結果、私はすごく悔しかった」という解釈に分けます。

 その後、解釈の部分を「私は、誰もが認めるエンジニアになりたい」「エンジニアとしての力を付けたい」のように、ポジティブな解釈に変えるのです。

 「A氏に『あなたはスキルがない』と言われた」という事実を変えることはできませんが、解釈なら変えられる可能性があります。

●「解釈の書き換え」は、困難を乗り越えるための働き

 実はこの「解釈を変える」という行為は、それほど特別なことではありません。私たちは無意識で、何度もそれをやってきています。

 仕事の失敗や人間関係のいざこざなど、ネガティブな体験は誰もが経験したことがあるでしょう。その時はすごく悔み、嫌な思いもしたけれど、今、改めて振り返ってみると、「あの経験があったおかげで、今があるんだな」と思うことはありませんか?

 これは、体験自体は何も変わっていないのに、その後の経験や時間経過によって解釈が変わった例です。

 リフレーミングは、これを「意識的にやる」と思ってください。

 もちろん、感情的になっているときには、すぐにリフレーミングできないかもしれません。けれども、事実と解釈を分けて、別の解釈を付ける習慣を付けると、一時的には感情的になっても、「あの野郎!」と相手を呪い続けることは少なくなります。

●ポジティブな解釈を付けて悔しさを乗り越えた実体験

 詳細は省きますが、最近、立ち上げから関わっていた仕事を突然切られるという経験をしました。その理由が理不尽だったので、正直とても悔しく、残念な気持ちになりました。

 かつての私だったら、相手を「あの野郎!」と憎み、恨み節になったことでしょう。ひょっとしたら、「私の何がいけなかったのだろう?」と意識を過去に向けて、ネガティブ思考のループに入っていたかもしれません。

 けれども、今回は違いました。比較的落ち着いていて、「まぁ、ダメになったものは仕方がない」と事実を受け入れ、「これも、次に行けっていう合図かもしれないな」と、未来志向の解釈を付けることにしました。

 だからといって、悔しさがゼロになったわけではもちろんありません。しかし、少なくとも、過去に引きずられ、感情的になった時間は、かつてに比べると少なかったような気がします。また、「今、やるべきことは何か」を考えて、前向きな行動へとつなげることもできました。

●ポジティブな解釈を付けるシンプルな方法

 ネガティブだと思っている出来事に、ポジティブな解釈を付ける方法は、それほど難しくありません。体験した出来事に、次の言葉をつなげて考えてみてください。

「××のおかげで」
「××だからこそ」

 例えば、先に紹介した「今まで一生懸命取り組んできた仕事を突然切られて、すごく悔しい」なら、「今まで一生懸命取り組んできた仕事を突然切られた」という事実と、「すごく悔しい」の解釈に分けた後、次のように考えてみます。

「今まで一生懸命取り組んできた仕事を先方の都合で突然切られたおかげで……」
「今まで一生懸命取り組んできた仕事を先方の都合で突然切られたからこそ……」

 だからといって、気持ちがサクッと前向きにポジティブになるわけではありませんし(怒りの感情が強いときほどそうですよね)、「感情的になっているときに、そんなこと考えられるわけがないだろう」と思うかもしれませんが、「事実」と「解釈」を分けるだけでも、「別に、自分が悪いわけではないな」と少し冷静になれます。

 また、「おかげで」や「だからこそ」は、意識を過去から未来に向ける効果があります。感情は意識と連動して変化するので、ネガティブな感情をポジティブな原動力に変えるきっかけになります。

●事実は変えられないが、解釈なら変えられる

 仕事をしていると、嫌なことや苦しいことがたくさんありますよね。

 そういうことがないのが1番良いけれど、ゼロにするのは現実的に難しい。また、起こってしまった出来事をなかったことにはできません。

 しかし、事実に対する解釈なら、変えられる可能性があります。だからこそ、どんなネガティブな出来事にも可能性を見いだせるのです。

 ストレスフルな職場でエンジニアが心穏やかに働くための感情コントロールについて、6回にわたって説明してきました。

 私自身、感情的になることはしばしばあります。なかなかいい状態を取り戻せないこともたくさんあります。

 けれども私は、感情を抱くことを悪いことだとは思いません。感情を抱くからこそ、「喜び」を感じられるのですし、ネガティブな感情を抱くということは、その背景に「本当は○○だったらいいのにな」という「理想」が必ずあるはずだからです。

 感情的になったときは、「本当は何がしたいんだろう?」「本当はどうありたいのだろう?」とよく考えます。それが、自分自身を知るきっかけになっています。

 また、感情を拒否する姿勢から受け入れる姿勢に変えることで、自分とうまく付き合えるようになりました。ストレス耐性も上がり、心が強く、柔軟にもなりました。

 感情コントロールは、自分を良い状態に保ち、整えるための術です。仕事は毎日の営み。感情コントロールができれば、良い気分で働く時間が増えるし、仕事もうまくいくと思います。

 皆さんに楽しく働いてほしいと願って、筆を置きます。

●書籍紹介
感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。
竹内義晴著 すばる舎 1566円(税込み)
自分の「感情スイッチ」を探し、より実践しやすい感情スイッチの切り替え方を、[気付く→受け入れる→鎮める→切り替える→活かす]の5つのステップで紹介していく
書籍「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。」では他にも、感情コントロールの理論と実践しやすい方法を紹介しています。

本連載は、書籍「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。」(竹内義晴著、すばる舎)を基に、出版社の許可を得て、筆者自身が@IT読者向けに再構成したものです。

●筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。

最終更新:5/15(月) 7:10

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