ここから本文です

「科学が進歩すると、それはそれで疲れる」――2026年描く「劇場版 ソードアート・オンライン」伊藤監督の“未来観”

5/15(月) 7:25配信

ITmedia NEWS

 「科学が進歩すると、それはそれで疲れるんじゃないか」。近未来の技術を描いたアニメ映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」の伊藤智彦監督は、そんな考えを語る。

【画像】「劇場版 SAO」の名場面

 映画の舞台は2026年。個々人の食生活データが収集され、人工知能(AI)が分析して好みを把握、それぞれの舌に合ったスイーツをおすすめする――というシーンがあるなど、日常にAIが溶け込んだ世界を描いている。そうした技術がさらに発達することを、伊藤監督はどのように思っているのか。

●伊藤監督インタビュー(前編)

ARをアニメで表現する難しさ――「劇場版ソードアート・オンライン」制作裏話、伊藤監督に聞く

近未来のAR・VR技術を題材にしたアニメ映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」。昨年から今年にかけてスマートフォンゲーム「Pokemon GO」が社会現象になるなど、AR技術は身近になりつつある。しかし、進化した近未来の技術を想像し、アニメの世界で描くのは容易ではないはず。架空のガジェットや技術はどう描かれたのか、その制作裏話を伊藤智彦監督に聞いた(※ストーリーの核心に迫るネタバレはなし)。

●「効率化なるものには異を唱えています」

――「劇場版SAO」は、AIなどの技術がテーマになっている。こうした技術が今後発展していく中で、伊藤監督はどんな社会になってほしいと考えているか。

伊藤監督 基本的にそうした技術は、人がやることを楽にするために作られているはず。作業時間がそれまでより短くなったことで生まれる余裕を使って、考える作業をするというのが、科学進歩の歴史だったと思います。ただ、それはそれで疲れるんじゃないかなと。そんなに楽をしなくてもいいんじゃないかというのが、最近の俺の中の考えです。

 例えば、通販サイトのサジェスト機能で、商品をおすすめされても「別にいいよ」と思ってしまう。ちょっと過剰なサービスなんじゃないかと。ビッグデータとして個々人の情報を仕入れて何をしたがっているのか。可能性としては現実シミュレーションを作りたいのかもしれませんが、そこまで誰かに行動を予測されたくはないです。

――劇中では、AIが登場人物の好みを把握し、それぞれに合ったスイーツをおすすめするシーンがある。本人たちは「便利」と話していたが、伊藤監督の考えは。

伊藤監督 あのシーンは「たまたまケーキの好みが当たった」「嫌いじゃないよ」くらいの、間尺が短い瞬間だから喜べると思うんです。だから、それ以上におすすめをされると、はずれを選ばないことが「そんなによいのか」と。例えば「この映画が面白いよ」とおすすめされても「いやいや、たまには面白くない映画だって見たい」と思うんです。はずれもひっくるめて経験にしたいんです。

 効率よく何かを得るというのは、忙しい人にはいいかもしれないが、そうでないものも混ぜて体験したいなと俺は思うので、効率化なるものには異を唱えています。主題がずれてしまうので、「劇場版 SAO」の中ではそういう場面は描いていませんが。

●技術進歩で混乱……アニメ制作現場でも?

――ここまで、日常生活と技術進歩の関わりを話していただいた。伊藤監督が普段働いているアニメ制作現場でも技術進歩は起こっているのか。

伊藤監督 10年くらい前からアニメ作画のデジタル化が進んでいて、作業環境の変化は起きています。

――アニメ制作現場は「忙しい」などと言われるが、技術進歩で改善されてほしいところ、ほしくないところはあるか。

伊藤監督 改善はされていますが、そのために作業が複雑化して、やや散らかっている部分もあります。

 ネックとなっているのは“思考のデジタル化”です。ここ10年くらいで作業環境のデジタル化が進んだことで、長時間をかけて直し続けたり、最後にドカッとまとめて撮影したりしても(締め切りに)間に合わせるのが、アナログ時代に比べると可能になり、ボトルネックをボトルネックのまま放置できるようになってしまっています。デジタル化によって「なんとか間に合うでしょ」という雰囲気がより助長されたといいますか……。

 アニメーターはルーズな人が多いので、そのマインドを変えないと効率化は望めないと思います。逆に言うと、そのルーズさが日本のアニメ界の多様性を生んでいた面でもあるので、一概に手出しできない部分でもあると思いますが。

 それから、アニメ作画のセクションでは、ペンタブレットなどを使ってデジタルで描く人と、紙などにアナログで描く人が混在していると、ワークフローが2通りになってしまいます。

 全員がデジタルで描けるようになれば工程もスムーズです。しかし、アナログで描いている人がいれば、デジタルの絵とアナログの絵を合わせるときに、デジタルで描いたものを紙に印刷して、タップ(※)に貼らないといけなくなります。

(※)タップ……紙に描いた何枚もの絵を貼り合わせ、パラパラとめくることで動画になるかを確認する道具。

 例えば、アニメーターがデジタルで描いて演出家もデジタルでチェックするが、作画監督がデジタル作画を扱えない場合は、作画監督がアナログで直せるように印刷して、さらにチェックしたものを再度スキャンする……という流れになります。従来はなかった作業が出てきて、現場は混乱していますね。

●日本のアニメ映画は“柔らかい” 伊藤監督「そこに勝ち目」

――「劇場版 SAO」を見た人の中には、テクノロジーが好きな人もいるかと思う。そうした人に伝えたいメッセージは。

伊藤監督 昨年から今年にかけて、アニメ映画のヒット作が相次いでいます。「劇場版 SAO」は、主題がポピュラーという意識はないし、ヒット作を踏襲するものでもありませんが、そうしたアニメブームの流れがあってか、さまざまな方に見ていただいているようです。初めて「SAO」シリーズを見るという人でも、主人公の名前さえ知っていれば、何となく見られると思います。

 SF作品というと見るのにハードルを感じる人もいます。ハリウッドのSF映画だと“硬くなる”傾向にあると思うのですが、日本のアニメ映画は、そうした未来話を柔らかく、見やすくできると思っています。そこに勝ち目を見出したいですね。

最終更新:5/15(月) 7:25
ITmedia NEWS