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<長時間労働>“表向きホワイト企業”でもパワハラ横行の闇

毎日新聞 5/15(月) 9:30配信

 厚生労働省が10日、違法な長時間労働や賃金未払い、最低賃金法違反など、労働基準関係法令に違反した疑いで書類送検された全国の企業334件を一覧表にして、ホームページで公開しました。いわゆるブラック企業の公表ですが、表向きは“ホワイト企業”であっても、酷い働き方を強いる企業があります。藤田結子・明治大商学部教授(社会学)が、20代会社員への聞き取りを基に報告します。【毎日新聞経済プレミア】

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 新緑がまぶしい5月。新入社員は働き始めて1カ月が過ぎたころでしょう。職場になじめない「五月病」を感じる人がいるかもしれません。しかしその「なじめない」感じは、必ずしも本人だけの問題ではないかもしれません。中には、職場や上司の側に問題があるケースも見られます。

 20代男性たちに入社1年目の経験を聞き取っていると、いわゆるブラック企業でなくとも、過酷な働き方をさせられている実態が聞こえてきます。いくつかのケースを見てみましょう。

 ◇毎日深夜1時まで無意味な付き合い残業

 康平さん(20代男性、仮名)は東京に本社がある大企業に正社員として就職し、1年目は支店に配属されました。彼は上司の指示で毎朝7時ごろには出勤し、オフィスの掃除をしています。毎日の帰宅時間も遅く、サービス残業で深夜1時ごろまで職場にいます。月の残業時間は軽く100時間を超えます。

 といっても、新人の康平さんに特別な仕事があるわけではありません。上司が帰らせてくれないので、机に向かってパソコンで暇をつぶしながら、付き合い残業をしているだけです。

 職場での付き合い残業のほかに、取引先との接待もあります。康平さんは飲み会の間、酒瓶を持ち、ずっと立っていなければなりません。その間、何も口に入れることはできませんが、数千円の代金は毎回自腹です。

 康平さんは、「いつか結婚して子供がほしい」と思っています。が、長時間労働なので余暇が少なく、女性と出会う暇もありません。異動がなく、同じ部署に長くいる可能性もあるため、この生活がいつまで続くかわからず、将来の見通しを立てられないでいます。

 ◇パワハラは「指導」、セクハラは「文化」

 智也さん(20代男性)は、有名な大企業に正社員として就職しました。智也さんは入社当初の研修で失敗し、人事部に目をつけられてしまいました。その結果、「パワハラ四天王」と呼ばれる男性上司がいる営業所に配属されました。

 「パワハラ上司」は毎日、数十人いる社員たちの前で、新入社員の智也さんを大声で怒鳴りつけます。上司は智也さんに仕事のやり方を教えもしないのに、「○○もできないのか!」「○○しろっていってんだろうが!」と大声で怒鳴ります。

 そのうえ、仕事の内容以外にも、智也さんのことをほかの社員と比較して、「お前はダメなやつだ」「ヘラヘラしやがって」と、人格を否定するような言葉で繰り返し叱責するのです。

 智也さんはストレスがたまり、うつ状態に陥りました。1年目の夏にはもう転職を考えましたが、将来安定して暮らしていけそうな転職先は見つからず、毎日耐え続けるしかありませんでした。

 大樹さん(20代男性)も人気の大企業に正社員として就職しました。大樹さんが配属された部署ではほぼ毎日、夜遅くまで取引先との飲み会があります。どんなに疲れていても帰れず、飲み会後にまた会社に戻って仕事をすることすらあります。

 大樹さんはある時、仕事の飲み会の席で、下半身裸になって「芸」をするよう強要されました。学生のとき、周囲がどんなに羽目を外してもそこまでした経験はありません。とても恥ずかしいと感じましたが、職場の先輩たちに「嫌だ」とはいえない状況。泣く泣く言うとおりにしました。大樹さんは入社して半年後には、仕事をつらいと感じ、自信も失い始めたそうです。

 智也さん、大樹さんの上司たちは、人前で人格を批判することを「指導」、裸にすることを「文化」だと信じているようです。しかし、それは紛れもなくパワハラ、セクハラです。

 ◇若い男性にもワーク・ライフ・バランスを

 上記のケースの企業は、「ブラック企業」のレッテルが貼られていない、イメージの良い大企業です。3社とも「子育てサポート企業」として厚労相の認定を受けた「くるみんマーク」を取得しています。しかし若手男性社員には、長時間労働や過酷な働き方をさせています。

 各種の調査では、多くの20代男性が、将来的に子育てに積極的に関わりたいと答えています。しかし、このような企業の働かせ方や文化が変わらなければ、彼らの願いはかなえられないでしょう。

 子育ては女性だけの問題ではありません。国や企業は若い男性たちの人生を考えて、彼らの過酷な働き方を改善すべきです。本気で長時間労働を解消し、ワーク・ライフ・バランスを促進するときです。

最終更新:5/15(月) 11:27

毎日新聞