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トヨタの決算発表に見える未来

5/15(月) 7:14配信

ITmedia ビジネスオンライン

 5月10日、トヨタ自動車は2017年3月期通期の決算発表会を開催した。まずは大外の枠組みから徐々に詳細な説明へという流れでレビューしていこう。

【連結営業利益の増減要因】

 5年振りの減収減益である。良かったのか悪かったのかと言えば、「結果が全て」という見方の中では悪かったということになるのだろう。売上高が落ちて、営業利益も減った(図1)。数字を追ってみる。売上高は27兆6000億円。営業利益が2兆円。それぞれ前期に比べてマイナス2.8%、マイナス30.1%となった。

 しかしクルマは売れている。こちらは前年の868万1000台から897万1000台へと伸ばしている(図2)。となれば、クルマが売れているのになぜ減収減益なのかが問題の焦点になってくる。

 増減の要因は図3を見れば分かる。マイナス要因は、為替変動の9400億円と経費増加の5300億円。この2つが原価改善によるプラス4400億円と営業によるプラス2100億円を飲み込んで、営業利益を前年比マイナス30.1%にしているのだ。

 現実的な話として、為替は天災みたいなもので、企業努力ではどうにもならない。仮に前年から次年度の為替が円高に振れることが分かっていても打てる手はほぼない。長期的なトレンドであれば、国外生産を増やす手があるが、それは工場建設という途方もない先行投資と長い準備期間が必要であり、年単位の調整のために取れる手段ではないからだ。

 もちろん内外生産比率をうまくバランスさせれば、相互に損得をある程度打ち消して為替変動の影響をニュートラルに近づけることはできる。しかしながら、生産はともかくとしても、主たる開発拠点や管理部門が日本に集中することは変えられないし、加えて生産拠点を増やすことによる維持費や運営費の増加、カントリーリスクを織り込んで余りあるかと言えば、それはそう簡単な話ではないのだ。

 決算発表の談話の中で豊田章男社長は、「今回の決算は、為替の追い風も向い風もない中で、まさに現在の等身大の実力が素直に表れたものだと感じております」と発言しているが、マイナス要因の約3分の2が為替要因であるにもかかわらずそう表現しているのは、比較対象となる前年の為替が強い追い風によるできすぎであり、豊田社長自身の言葉によれば「追い風参考記録」であったためである。

 前述のように、為替変動には打つ手がほぼないので、トヨタがこの一年に何をしたかに関しては、経費増加の5300億円こそがキーになるだろう。これが例えばクルマの売り上げを水増しするための値引き原資や、リコール対応など状況悪化の出血を止めるための措置、つまり将来収益につながらない用途に使われているならば、トヨタの決算の減収減益は要注意と言うことになる。

 結論から言えば、トヨタは2017年3月期決算の純利益の最大化よりも、長期的な戦略を重視して、投資を優先した。豊田社長は特に研究開発費の重要性を強調する。

 「今回の決算は、目先の利益確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくというトヨタの意志が表れた決算でもあったと思います。現在の自動車産業はパラダイムシフトが求められており、特にAI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しい領域が重要なカギを握ると考えております。こうした時代だからこそ、『未来』を創造する技術力と志を持った企業を育てていくことが必要だと考え、昨年1月にTRIを設立いたしました。今後も10年先、20年先を見据えた種まきを続けていきたいと思っております。こうした種まきは私たちだけでなく、ITなどの異業種や新興自動車メーカーなど、さまざまなプレーヤーも行っており、クルマそのものはもちろん、未来の自動車産業も従来とは全く違った世界になるかもしれません」

 新時代のパラダイムシフトに向けて、誰がいち早く技術を確立するかという競争こそが、自動車産業の未来を変え、その競争の最大のタイミングが今であると考えている様子が見受けられる。それが図4左の右肩上がりの研究開発費に現れている。

 そういう現状認識の中でトヨタが進めているのがTNGA(Toyota New Global Architecture)で、その根底には従来のトヨタの自己否定がある。TNGAはハードウェアのみならずトヨタの自動車事業の全てを包括して進化させる改革だ。変えるべき現状がなければ改革の必要はない。

 TNGAは2015年3月にその取り組みが発表されて以来、トヨタの最重要事項として進められてきた。同年の年末にはTNGA時代の幕開けを告げる4代目プリウスが登場、その後C-HR、カムリと順調にリリースを重ねており、2020年までに新時代シャシーを全生産数の5割まで拡大するとアナウンスされている。

 もちろんこのための研究開発費は重要だ。しかし研究開発費だけではTNGAは進まない。TNGAが自動車事業全ての改革である以上、生産設備を新時代に対応させていかなくては計画が実現できない。そこで図4右の通り設備投資も研究開発費同様に右肩上がりで増加させている。

 TNGA改革によって、全世界トータルでの工場の稼働効率は、2009年の70%から2013年は90%まで向上した。しかも高い生産柔軟性によってモデルチェンジでの設備の入れ替えを減らすことに成功し、モデルチェンジに際する設備投資費用を2008年比で50%に削減したという。卑近な話に例えれば、白熱電球をLED電球に変えるようなもので、初期コストをかけても、長期的なコスト低減でそれを十分に回収できるということだ。

 こうした研究開発費と設備投資について豊田社長は「強靱(きょうじん)な財務基盤を造り上げ、どのようなときでもブレることなく投資を進める準備もできています」と語る。

 この4月から始まった2018年3月期の見通しも、今回同様、減収減益となっている。質疑応答でメディアから2期連続の減収減益について所感を求められた豊田社長だったが、それを自ら名乗り出て答えたのは、今年4月に新たに副社長兼CFO(最高財務責任者)に就任したばかりの永田理氏だった。

 「先ほどの豊田の説明の中で、今期17年3月期の決算は、為替の追い風向かい風のない中での等身大の実力と申し上げましたが、18年3月期の見通しにつきましても大変厳しい数字になっておりまして、これが等身大の実力だと思うと私としては大変悔しい思いをしております。これでは絶対いけないと思っております。収益向上のための施策を強力に推進いたしまして、最大限の挽回に努めたいと思います。もう少し突っ込んで申し上げますと、作る人も売る人もお金をもっと賢く使うように徹底したいと思います。他社さんの取り組まれていることをいろいろと勉強させていただきますと、例えば製品を見たり、アライアンスから学んだことの物差しに照らしてみますと、まだまだやれることはあると思います」

 こういうところはトヨタの面白いところで、豊田章男というスーパースターに集中する質問を、新任副社長がポーンとさらって明確な意思を打ち出す、そして、アライアンス先から学ぶのだとはっきり言う。いつか訪れるポスト章男時代に備えればこういう人がどんどん気を吐かなくてはいけない。

 ダイハツもスバルもマツダもスズキも、規模としてはトヨタととても並べるサイズではない。だがしかしそこでおごりを持たずに学ぶ姿勢を持ち続けるのは生半なことではない。

 筆者が知る限り、性能を大幅に進化させながらより低コスト化するコモンアーキテクチャー戦略において最先端にあるのはマツダで、恐らくトヨタにとって最も学ぶことが多いのはマツダだろう。

 また良品廉価のコンパクトカー作りにおいてはダイハツとスズキが世界のトップである。これもまた学ぶに値するはずである。昨年導入したカンパニー制によって立ち上げたトヨタ・コンパクトカー・カンパニーにとって、吸収すべき課題は山のようにあるはずだ。ここ数年トヨタが進めてきた巨大アライアンスの構築が、トヨタに不足しているものを補い、強靱化するという目的の下に成されているとしたら、それはそれで恐ろしいばかりの深謀遠慮である。

 豊田社長は言う。「経営にとって一番問題なのは、課題があるということよりも、課題があるのかないのか、あるとすれば、今どれだけあるのかが分からないでいることです」

 今期の決算は確かに減収減益だ。来期の見通しもまた減収減益である。しかし、この決算発表を見る限り、トヨタは利益を出しながら研究開発費と設備投資を途切れさせず、課題を把握して経営を改善していくという絶対目標はしっかり達成できているようである。

(池田直渡)