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ワクワクを活力に伸びるVR市場、ところでVRとARとMRは何が違うの?

MONOist 5/15(月) 10:55配信

 デルの日本法人は2017年4月24日、名古屋市内で自動車製造関連業向けVR(Virtual Reality)セミナー「どうやってVRを実現する?」を開催した。同イベントはエヌビディアとの共催。基調講演ではデル 最高技術責任者 黒田晴彦氏が「VR 新時代にむけた Dell Technologies の取り組み - クリエイターのためのプラットフォームとVRの民主化」と題して、VRのこれまでの歴史や現状の技術、今後予想できる動きについて語った。本稿ではその内容を紹介する。

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 PCやサーバの大手であるデルだが、現在はVRに対応したワークステーションシリーズ「Dell Precision」を開発・販売しており、マイクロソフトのスマートグラス「Microsoft HoloLens」の技術パートナーでもある。現時点は米国拠点のみではある、大学の研究機関や企業と組んでVRについて共同研究するパートナープログラムにも取り組む。

 デルは2016年9月にはストレージ機器大手のEMCの買収を完了。EMCはDell Technologies傘下の独立子会社となり、「Dell EMC」という名称となった。同社のサーバ「PowerEdge」を組み合わせたVRシステムも提供する。PowerEdgeはVR用に大量に生成されたデータの保管・配信などの総合サービス構築に最適だとしている。

 デルはハイエンド機種だけではなく、立ち上がったばかりのVR市場をより広げるべく安価なエントリー機種の開発・投入にも意欲を見せる。

 同社は、2017年1月に開催されたコンシューマーエレクトロニクスショー「CES 2017」でもVR製品を展示した。「CES 2017では、『Gaming and Virtual Reality』が非常に注目された。その後、4月に開催されたドイツの『CeBIT 2017』でもVRが主役となっていた」(黒田氏)。

●大きなブームが2回あった、VRの歴史

 黒田氏はまず、VRの過去について振り返った。

 VRという言葉が登場したのが1989年のこと。当時、米国航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究センターとVRシステムを共同開発をしていた、VPL Researchの創業者であるJaron Lanier氏が最初に使ったとされている。以降、VRシステムを発表する企業が次々と現れ、その言葉はだんだん一般的になっていく。そうとはいえ、まだ一部の研究機関で使われるような高級なシステムだった時代である。

 1995年は「第一次 VRブーム」と呼ばれ、一般消費者向け製品が登場する。日本市場においても、任天堂のモノクロ3Dゲーム機「Virtual Boy」、ソニーのHMD「Glasstron」といったVR製品や、三井物産の仮想空間ショッピングモール「CURIO CITY」というVRのコンセプトに基づいたシステムが登場した。ただ、製品やシステムも限定的なものが多く、このブームは徐々に下火となっていった。

 その後、再びVRが脚光を浴びだしたのが、それから10年近くたった2014年のこと。「第二次 VRブーム」に火が付きはじめた。2012年に初のプロトタイプが登場し、少しずつ改良が重ねられていた広視野角のHMD「Oculus Rift」への注目度が高まってきたころである。2014年3月、正式な製品すら出していなかったOculus Riftの開発元をSNSの大手 Facebookが20億ドルという巨額を投じて買収したことも衝撃的であると話題となった。その年の「Google I/O 2014」では、紙製の簡易HMDである「Google Cardboard」の試作機が、来場者にノベルティーとして配布された。さらに日本でもこの年、スマートフォンにセットして使え、「1000円くらいで買えるVR」として「ハコスコ」が登場した。「日本もアメリカも、VRに対して“ザワザワっとした”ようなタイミングだった」(黒田氏)。

 そして2016年は「VR元年」と呼ばれたほど、VRの話題が大いに盛り上がりを見せ、ゲームや技術系の展示会などでも関連展示が非常に目立った。この年の3月にはOculus Riftがいよいよ一般向けに販売開始され、続いて同年4月には「HTC Vive」が、10月には「PlayStation VR」が登場した。さらに同年にはGoogleが、「Works with Google Cardboard certification」(WWGC)という認証精度を開始している。

 「2016年は、世の中の皆が、『これは面白い』と具体的な製品を見て、体験した年」(黒田氏)。

●VRの用語・定義、意義

 黒田氏はVRに関連する用語について、以下のように区別して説明する。

・HMDなどのディスプレイを利用して没入する、閉じられたデジタルの世界=VR
・「Pokemon GO」のような、デジタル情報が挿入された現実の世界=AR(Augmented Reality)
・上の2つを合わせた、ハイブリッドな世界=MR(Mixed Reality、※)

※:ARは現実空間の視界に、文字や画像などので現実空間を説明、補助する情報を付加するものであり、MRは現実空間に本来そこにはない仮想の3D情報を登場させ、なおかつ現実空間の3D形状情報を仮想の3D情報と相互作用させるものである(参考:「VR=仮想現実感」は誤訳!? VRの定義、「製造業VR」の現状と課題」)。

 「VRはかつてゲームから始まったが、現在は小売りや娯楽産業の他、さらにエンジニアリングやデータ分析、教育、医療といったB to B(ビジネス)にまで適用範囲が広がっている」(黒田氏)

 米国の学校でVRを用いた授業が既に実施されていることも紹介した。例えば、人体や宇宙空間など、現実の世界で触れることが困難なものについて学習するのにVRが適していると黒田氏は説明する。「写真で見るよりも、実際に(仮想の)宇宙空間に出ていった方が、よほどピンとくる」(黒田氏)。

 技術者のトレーニングにおける活用については、航空機のゲートリングの例を示した。人命を預かる、「1回のミスが命取りになる」ようなオペレーションであるため熟練しているに越したことがないが、実機での訓練は機会が限られてしまう。そこでVRを活用すれば、十分訓練が積めるというわけだ。

 航空宇宙分野のエンジニアリングにおいては、人工衛星などの実機が宇宙空間でどのような挙動をするかどうか、実験する機会を得られない。また、設計開発している段階では、実機のイメージがわきづらい部分もある。HMDからのぞく仮想世界の中であれば、設計開発の段階から実機の挙動を体験できる。

 「子どもの頃の想像力が非常にたくましく、心もみずみずしい。子どものころに、おとぎ話を聞いて『あー面白いな!』と思って、いろいろなイメージを膨らませるが、だんだん大人になっていくと、話を聞いても『いや、それは作り話だし……』とイメージがわかなくなってくる」(黒田氏)

 子どもの頃に素直に感じていた純粋なワクワク感が、さまざまな経験を重ねて大人になるにつれて、現実世界は自分が知っていることばかりになって、日々の生活の中でワクワク感がしぼんでいってしまう。

 「VRコンテンツを通して、仮想現実の中に入り込んで体験する」ということが、再びワクワク感を呼び戻すことになると黒田氏は話す。それは、自分のこれまでの経験から知りつくした現実を超えるからだ。そして、そういうVRコンテンツで味わえるワクワク感が、今、VRブームやビジネスを動かしている力であると同氏は言う。

 ワクワクすれば集中力が増す。また購買意欲、改善意欲、学習意欲といった、さまざまなシーンでの意欲が増す。VRの持つそういう要素が、ビジネスに新たな活力を生んでいると黒田氏は説明した。

●コンテンツの制作方法や技術

 VRの制作においては、プランナーやディレクター、CGクリエイター、写真家、映像編集者、技術者とさまざまな分野の人が携わる。それを全て1人でこなしてしまうような人もいれば、組織で作り上げる場合もある。

 従来のように3D CGから作り上げる方法もあるが、現在は3D CAD側がVRでの活用を考慮した機能を実装してきており、そのデータを基にする方法も出てきている。安価な360度カメラで撮影した写真なども利用できる。

 仮想世界をリアルに表現するためのレンダリングはコンピュータ・パワーを非常に費やす処理である。例えば第1次VRブームの頃は、Virtual Boyでモノクロで表現するのが限界であったような時代だった。当時よりはるかに高性能なPCが存在する現在では、フルカラー表示は当然ながら、リアルタイムレンダリングも可能になっている。

 現在のVRのゴーグルはエントリーモデルからハイエンドモデルまで性能が幅広い。必要なマシンスペックはそれぞれで異なってくる。ハイエンドモデルでは推奨スペックが細かく定められていたり、利用するマシンが決められていたりする。一方、エントリーモデルでは、安価なHMDを利用して、手元にあるスマートフォンを用いて利用することが可能だ。サムスンの「Galaxy Gear VR」はスペック的にその中間に位置する存在であり、同社のスマートフォン「Galaxy」シリーズの対応機種での利用に限られる。

 VRコンテンツにおいて自然な見え方(精度)の指標として、2種類の「レート」が存在する。「フレームレート」は、「1秒間に表示する映像のフレーム数」である。当然、細やかであるほど滑らかな表示になる。「現在のVRシステムでは30fps(1秒当たり30フレーム表示)が多いが、60~90fps(1秒当たり60~90フレーム表示)くらいあると望ましい」(黒田氏)。

 VRコンテンツを体験した際、特に下方から上方へ大きく仰いでみた時などに気分が悪くなる、いわゆる「VR酔い」を感じることがある。こちらに影響するのが「リフレッシュレート」(垂直同期周波数。1秒当たりの映像を更新する回数)だ。リフレッシュレートを高くすることで描画の遅延を20ms以内に抑えれば、緩和できるといわれている。

●「できたらいいな」と思っていることは?

 それではVRをビジネスの分野においてどのように応用していけばよいのか。VRは仮想世界に没入することで現実と隔離された気分になる。黒田氏は、そんなVRの力を有効に活用できるのは、「できたらいいな」「だけど無理だよね?」と思うようなことだという。

 つまりビジネスにおいて、「行けないと思っていたけれど、行けた」「見えたらいいのに……と思っていたものが、見えた」「できないと思っていたと思っていたけれど、できた」という体験をVRでユーザーに提供することである。

 逆に、「現実世界で当たり前に体験しているようなことには向かない」と黒田氏は説明する。

 またVRと、AR・MRとでは、技術は似ていても、活用の仕方が大きく異なると黒田氏は述べる。VRは現実の世界が見えないことに対し、ARとMRは現実の世界が見えているという大きな違いがあるからだ。

 「街中のとある地点に行くと、『ここであなたにお知らせです』と文字や音声、映像などの情報が飛び込んでくるような仕組みが、ARやMRの効果的な活用の1つである」(黒田氏)。VRは現実の場所とは関係なく利用して情報を得るものである一方、ARとMRは現実の場所やそこでのオペレーションにひもづいた情報を提供できる。しかも、人、モノ、場所など条件を組み合わせ、それらに応じて提供する情報を変えることも可能である。

 VRであれば社内の教育やトレーニングのコンテンツや宣伝イベントなどで活用ができ、ARやMRは実際の作業現場における作業指示・作業効率化などに有効である。

「会社で作られた製品はやがてユーザーの手元に行く。つまり会社の外に出ていく。VRであれば、ユーザーがどこにいようとも情報を提供できる。例えば自動車であれば、VRでは仮想空間でユーザーに“面白い使い方”などの提案ができる。またIoT(モノのインターネット)で収集した情報とVRを組み合わせることで、ユーザーに必要な保守の情報を提供できる。ARやMRなら、実車のさまざまな箇所とユーザーをひもづけた情報を提供することが可能だ」(黒田氏)。

 「大規模な仕組みをいきなり作ったけれど、効果が出なかった」ということにならないために、黒田氏は「POC(Proof of Concept、概念実証)」の考え方を提案する。POCとは、要は「本格的なものではなくてよいので、簡単なコンセプトを企画して、作って試して、レビューすることを何回も繰り返すこと」(黒田氏)である。言葉で語るだけではなく、実体験を積み重ねることが大事であるという。「現在は、安価なVRシステムがいろいろ登場してきているので、POCが実行しやすくなっている」(黒田氏)。

 黒田氏は、「VRやARの市場は2017年以降の5年間で飛躍的に伸びる」というデルによる市場予測を紹介した。「現在、市場を大きく占めるのが、娯楽やコンシューマーの分野だが、将来は、教育や設計分野も大きく伸びていき、ARコンテンツ作成ビジネスそのものも伸びるだろう」ということだ。

「今後のVRはIoTともどんどんつながっていくだろう。Kinectなどモーションキャプチャーから取得する情報を活用するVRの事例も出てきている。VRとARは現時点では使用するHMDが異なって活用法も違うが、その境目が、将来だんだんなくなっていき、組み合わさったものになっていくだろうと考えている」(黒田氏)。

(取材協力:デル)

最終更新:5/15(月) 10:55

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