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次世代有機EL材料、発光メカニズムの謎が解明

5/15(月) 11:40配信

スマートジャパン

■TADFを出す分子の発光メカニズムを解明

 産業技術総合研究所(産総研)と九州大学は共同で、次世代型有機EL素子の発光材料として注目される熱活性化遅延蛍光(TADF)を出す分子の発光メカニズムを解明した。発光効率を大幅に高める分子構造の特徴を突き止めたとしており、低コストで高効率な有機ELディスプレイ、照明などの普及に貢献することが期待される。

【有機ELの発光メカニズム】

 有機ELは電流によって発生する有機分子の励起状態からの発光を利用したもので、励起状態には蛍光を放出する一重項状態と、りん光を放出する三重項状態がある*)。発光効率を高めるには、両方の励起状態を発光に変換する必要があるという。

*)一重項状態では2つのスピンが逆向きで、三重項状態では同じ向きにそろっている。有機EL材料が電流により励起されると、25%が一重項状態、75%が三重項状態になるとする。一般的に三重項状態のエネルギーは、一重項状態より低い。それぞれ基底状態に戻る際に発する光を蛍光、りん光と呼ぶ。

 市販されている有機ELディスプレイは一重項状態を三重項状態に変換させ、全ての励起状態の分子からりん光を放出させる材料が採用されている。りん光材量はイリジウムや白金などの希少金属を用いる必要があり、コストが掛かる上に資源的にも不利だ。

 希少金属原子を分子に取り込むための構造も考慮しなければならず、演色性を向上させるための分子設計が制約を受ける。そのため希少金属が不要で分子設計にも制約を受けない、高効率で低コストの有機EL材料の開発が望まれていたという。

■ΔESTとTADFの発光効率に相関

 九州大学はこれまで、熱で三重項状態を一重項状態に逆変換して蛍光を放出するTADF分子を開発。炭素と窒素、水素からなる有機化合物で、100%に近い発光効率を示すTADF分子を2012年に初めて開発した。しかし、2012年の段階では高い発光効率を実現できたのが緑色蛍光のみで、その発光メカニズムの詳細も不明となっていた。

 産総研は電子材料の光機能のメカニズム解明を目指し、研究を行ってきた。励起状態における光吸収を100フェムト秒からミリ秒までの領域で、紫外光から可視光、赤外光までの広い波長領域で測定できる「ポンププローブ過渡吸収分光法」の開発である。

 両者では九州大学が開発した有機分子について、ポンププローブ過渡吸収分光法を用いて発光メカニズムを詳細に解明するため、研究を行ったという。

 研究で用いた8種類の分子(図1)について有機ELの発光量を調ると、(1)4CzIPNと(2)2CzPNでは、エネルギー差(ΔEST)が室温での熱エネルギー程度と小さい(1)は発光効率が高く、ΔESTが大きい(2)では発光効率が著しく低い。

 ΔESTとTADFの発光効率の間に相関が見られたことになる。しかし、CzBNと称する6種類の分子群(3)~(8)はΔESTがTADFを示すのに困難なほど大きな値を示したが、(3)para-3CzBNと(4)4CzBN、(5)5CzBNはTADFを発光したという。

 これらの結果に基づいてTADFの有無で分子を分類すると、TADFを強く発光する分子群は全てパラ体であり、この分子構造がTADFの発光に関与することを示唆している。パラ体とは異性体のうち、置換基がパラ位に位置した構造の分子のことだ。

■過渡吸収分光法で状態の変化を観測

 九州大学と産総研では、8種類の分子に超短パルスレーザーを照射して励起したのち、その状態の時間変化を過渡吸収分光法により観測した(図2)。その結果、TADFを強く発光した分子群にのみ、プラスの電荷であるホールが分子内で自由に移動できる「電荷非局在励起種」が生成。TADFを発光しない、弱く発光する分子群ではホールが自由に移動できない「電荷局在励起種」や「中性励起種」しか観測されなかったという

 つまりTADFの発光には、電荷非局在励起種が関係していることを示している。

 過渡吸収スペクトルをさらに考察すると、三重項状態から一重項状態への逆変換は、三重項状態の一種である中性励起種が、一重項状態の励起種とエネルギー的に近いと生じることが分かったとする(図3)。この一重項状態と三重項状態の変換と逆変換は、電荷の分布状態が異なる励起種の間でしか起こらない量子力学の法則にのっとっている。

 「つまり逆変換が室温で起こるかどうかは、一重項状態と三重項状態の電荷分布が異なる励起種間のエネルギー差に着目する必要があり、従来のΔESTの値だけを考えてきたTADFの発光メカニズムの再考を促すものである」(両社)

 また、一重項状態のエネルギーを三重項状態の中性励起種のエネルギーに近づけるには、分子にパラ体構造を導入して電荷非局在励起種を形成することが有効という。

 TADF分子の設計では、パラ体構造を導入することが高効率なTADF発光につながる。今回得られた知見に基づいて、さまざまな発光色で高い発光効率と材料の耐久性を兼ね備えた高性能なTADF分子を作製できると考えられる。有機ELデバイスの大幅な低コスト化、有機半導体レーザーなどの次世代光デバイスの実現が期待できるとした。

 今後は過渡吸収分光装置の高度化と並行して、より詳細な観察を進め、励起状態の変換が高効率に起こるTADF分子の体系的な設計指針を構築する。TADF分子の設計にフィードバックし、高い発光効率と耐久性を持つ材料開発も支援するとした。なお今回の成果は産総研 ナノ分光計測研究グループ の細貝拓也氏と松崎弘幸氏、九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センターの中野谷一氏、安達千波矢氏らによるものである。