ここから本文です

【イマドキの仕事人】仮面のヒーロー、アクション極める!“夢の職”に

スポニチアネックス 5/15(月) 6:01配信

 特撮ヒーローなどのスーツを着て、アクションと演技を担当する役者がいる。仮面で顔を隠し、声も出さないため、かつては裏方とみられていたが、今は人気職業の一つになっている。“クールジャパン”の一つとして世界に注目される特撮を支える、物言わぬヒーローの声を聞いた。

 東京ドームシティ(東京都文京区)には“ヒーローの聖地”がある。特撮ヒーローショー準専用劇場「シアターGロッソ」だ。家族連れでにぎわう大型連休の舞台では「宇宙戦隊キュウレンジャー」のショーが行われていた。色とりどりのヒーローと怪人、戦闘員が戦う舞台に向け「頑張れー!」と子供たちの声が飛ぶ。舞台下手から「オオカミブルー」が宙返りして現れた。着地間際に敵をつかんでなぎ倒すと、子供たちは「うおぉぉ」と目を輝かせた。

 この日の舞台は計4回。幕あいにブルーを演じる古屋貴士(22)を訪ねた。あどけなさの残る顔と裏腹に、肌に張り付くようなスーツを剥がした上半身は分厚い筋肉に覆われていた。汗のにおいに混じり、鎮痛消炎剤の香りがツンと鼻を突く。「スーツを着てアクションするのは暑いので使っています」。体温を下げるため、着用前に全身に塗るのだという。

 汗の滴るスーツを大きな換気扇の前に掛けた。1時間半後には次の舞台が始まる。「何とか乾くと思います。少し湿っていても、生地が伸びて逆に良かったりします」と笑った。

 埼玉県戸田市出身。「勉強もスポーツも特に目立つ存在ではなかった」という少年は、中学校の体育の授業でバック転をできる自分が珍しいと気付いた。「武器を手に入れたようでうれしかった」という。級友たちの前で、模範演技する自分が誇らしかった。「人前で主張するのは、今も苦手」と言うが、自分に自信を持てるようになった。

 仲間と、漫画や映画などの格闘シーンを演じて遊び「こういう仕事をしていけたらいいな」と考える中で「スーツアクター」を知った。高校に入ると日本を代表するスーツアクターの一人、岩上弘数(40)が代表を務めるアクション教室「B.O.S」(東京都板橋区)の門を叩いた。すぐに身体能力の高さを見込まれB.O.Sのスタントチームに抜てきされた。学業と並行してGロッソや各地の遊園地、住宅展示場などでショーに出演。卒業後、本格的に仕事を始めた。時には怪人や戦闘員役でテレビや映画にも登場する。

 仮面を外し、顔と名前を世間に知られたい欲はない。「マスクを着けていたらアクションもできますが、素顔で演技なんて…」と苦笑いする。

 “ヒーローや怪人の衣装を着て演技する仕事”自体は、特撮ドラマが始まった1950年代からあった。だが、顔を隠し名前を世に知られることもないため裏方のイメージが強く、明確な名称もなかった。アクション俳優やスタントマンを夢見る者の“通過点”だったという。一方で特撮が今も愛されるコンテンツとなったのは、この物言わぬヒーローの活躍があったからだ。00年代半ば特撮専門誌が「スーツアクター」と命名すると、ファンに浸透。仕事自体が一般にも知られてきた。

 それでも、まだこの仕事一本で食べられるのは一握りの厳しい世界。「収入は現場の回数で変わり、安定しない。同世代より多い月も少ない月もある」。体を鍛えるのも仕事のうち。B.O.Sの先輩と週3回、合同練習し、自主的に筋トレもこなす。ケガは“トモダチ”で「肩は上がりづらく、足首はひねりやすくなった。かかとの骨が折れたまま出演し続けたこともある」と顔をしかめる。

 原動力となるのは、ゴーグル越しに見る子供の反応。「彼らにウソは通じない。駄目なときは“格好悪い”“何で滑ったの?”と容赦ない。でも良いアクションをしたら、目をキラキラ輝かせて応援してくれる」と自身も目を輝かせる。「怪人でも戦闘員でもいい。ヒーローの世界に携わっていきたい。体を鍛え、技を磨き、本物のアクションを見せてあげたい」。子供の頃大好きだったヒーローになり、子供たちに元気をあげ、自分ももらっている。

 全身で感情を表す「面の演技」の奥深さも分かってきた。「岩上社長のライダーは最強に格好いい。アクションもですが、面の角度や立ち方。今はあらゆる先輩たちの動きを研究しています」。顔を隠し、声を出さなくとも人の心を震わせる仕事だ。かつて“通過点”だった仕事を“夢の場所”とする若者がいる。 =敬称略=

最終更新:5/15(月) 6:01

スポニチアネックス