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「使命感だけで引き受けた」5000遺体、“声なき声”拾う警察医 37年、事件発見も

西日本新聞 5/15(月) 10:19配信

 変死体が見つかった際、警察の依頼を受けて死因を調べる「警察医」。福岡市早良区の大木整形・リハビリ医院院長、大木實(みのる)さん(69)は本業の傍ら、37年にわたって引き受けている。検視した遺体は5千体を超え、全国でも群を抜く。今年で70歳になるが「まだ通過点」。さらに法医学を学び、遺体が訴える“声なき声”に耳を傾ける。

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 「長い間、お疲れさまでした」。大木さんの検視は遺体に語り掛けることから始まる。物言えぬ死者に代わり、一つ一つの傷から死因を判定し、死体検案書を書く。過去には、警察が病死と判断した遺体に骨折跡を見つけ、傷害致死事件に発展したこともあった。

「使命感だけで引き受けた」

 警察医になったのは1980年10月。福岡西署(現早良署)近くに医院を開業したのがきっかけだった。「使命感だけで引き受けた」。医師なら誰でも資格がある警察医。だが遺体が見つかれば昼夜を問わずに呼び出されるため「本業に支障をきたす」と敬遠する医師は少なくない。そんな中で緊張感を持ち、わずかな遺体の異変も見逃さないよう努力を続け「気付いたら37年もたっていた」。

 心に刻んできたのは「診察の延長であり、死者の最期の声を拾い上げてあげたい」という思い。自殺した男性の自宅には、映画俳優と一緒に撮った写真が飾られていた。餓死した別の男性の遺書には「生活保護はプライドが許さない。あと数カ月すれば年金が支給されるが…」と苦悩が記されていた。

 「どんな人でも輝いていた時期があった。最期の場面に立ち会わせてもらうと、『この人の分まで生きなければ』と思う」

「大木先生がいなければ闇に葬られた事件もあった。」

 診るのは遺体だけではない。ドメスティックバイオレンス(DV)の被害女性、親に虐待された子…。傷やあざの写真が警察から持ち込まれると医学的にくまなく調べ、経験も踏まえて事件性をかぎ分ける。「大木先生がいなければ闇に葬られた事件もあった。助けられている」と福岡県警の信頼も厚い。さらに知識を深めようと、九州大大学院医学研究院で法医学の勉強をしたいと意気込む。

 検視をした5千体目の遺体は、今年3月中旬に福岡市のマンションで見つかった1人暮らしの高齢男性だった。警察医として活動する中で「生と死」がつながっていることを強く実感する。だからこそ聞かずにはいられない。「どんな人生でしたか?」。大木さんはこれからも遺体に語りかける。

=2017/05/15付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞社

最終更新:5/15(月) 13:38

西日本新聞