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平幕力士が虎視眈々 稀勢の里を追い詰める1824万円懸賞金

日刊ゲンダイDIGITAL 5/16(火) 15:14配信

 手負いの横綱に「初日」が出た。

 15日、横綱稀勢の里(30)が隠岐の海を下し、5月場所初白星を挙げた。左上半身のケガの影響か、消極的な相撲だった初日の嘉風戦とは打って変わって、この日はしつこく得意の左から攻めた。左おっつけからの左差しで、土俵際に強い隠岐の海を無難に寄り切った。

 支度部屋では「左から攻める意識? まあ、そうっすね。いいんじゃないですか。左の状態? 問題ないっす」と、普段通り淡々と語った。土俵下で待機中、玉鷲に押し出されて転落した187キロの照ノ富士の尻が左腕に落ちてくるハプニングもあったが、「まあ、いろいろあるんじゃない。大丈夫ですよ。気が紛れた」と、この日は軽口を叩く余裕も見せた。

 とはいえ、この勝利で「不安払拭」とみるのは早計だ。なにせ、本場所は残り13日。初日の相撲を見る限り、左上半身が万全でないのは明らか。この日は連敗を避けるため、痛めている左腕を渋々使ったという見方もできる。左上半身がいまだ弱点であることに変わりはない。

■故障の対戦相手「気になってやりにくかった」

 こうなると、注目すべきは対戦相手の攻め方だ。

 相撲で相手の弱点を狙うのは常套手段。まして、稀勢の里は左おっつけ、左差しが生命線の力士である。ここで痛めた左腕を狙わずしてどうするのか――と、言いたいところだが、負傷箇所を攻めにくいのも、また人情というものだ。

 ちょうど16年前、01年5月場所のことだ。当時優勝を争っていた貴乃花(現理事)と武蔵丸(現武蔵川親方)の両横綱。千秋楽の時点で貴乃花は13勝1敗、武蔵丸は12勝2敗。前日の取組で右ひざ半月板を損傷していた貴乃花は本割であっさり負けるも、共に2敗で並んだ優勝決定戦では、上手投げで勝利。自身最後となった賜杯を手にした。

 これが小泉純一郎総理(当時)の「痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!」という、あのコメントを生んだわけだが、負けた武蔵丸は後に「(相手の)ケガが気になって、やりにくかった」と述懐している。

 ただでさえ、稀勢の里は角界が待望した19年ぶりの和製横綱。先場所、左上腕と左大胸筋を痛めたことは、日本中に知れ渡っている。対戦する力士の脳裏に「自分との取組が引退の引き金になったら……」と、雑念がよぎったとしても不思議ではない。

■初日の懸賞は162万円

 だがしかし、目の前に多額の現ナマがぶら下がっているとなれば、そんな雑念も吹き飛ぶ。

 今場所、稀勢の里への指定懸賞は608本。懸賞は1本に3万円の現金(手取り)が入っているので、総額なんと1824万円。1日平均40本とすれば、稀勢の里に勝てばその場で120万円を獲得できるわけだ。これは平幕力士の月給とほぼ同額。初日に稀勢の里に勝った嘉風が手にした懸賞は54本。162万円もの大金だ。これでやる気を出さない方が、どうかしている。

 かつて「ガチンコの実力者」と周囲から一目置かれていた高見盛(現振分親方)が小結止まりだったのも、「人気力士だけに常に懸賞が出されており、他の力士の標的にされていたことが大きい」(相撲記者)と言われている。カネの力は大きいのだ。

 しかも平幕力士が横綱に勝てば金星で、給料アップのチャンス。金星1つにつき4万円が、場所ごとに支給される褒賞金に上乗せされる。つまり、1度横綱に勝てば年収が24万円アップ。これが引退するまで続くのだ。

 年収アップに月給並みのボーナスも付いてくるとなれば、平幕力士が遠慮する理由などない。勝ち星と現ナマに飢える“獣たち”にとって稀勢の里は差し出された生肉と同じだ。手負いの横綱を追い詰めるのは、史上最多の懸賞金かもしれない。

最終更新:5/16(火) 15:14

日刊ゲンダイDIGITAL