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「読売新聞読んで」発言への抗議が、不毛なワケ

ITmedia ビジネスオンライン 5/16(火) 8:20配信

 先週、安倍晋三首相が衆院予算委員会で野党から憲法改正の真意を問われ、「自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてある。ぜひそれを熟読していただいてもいい」と答弁をして大騒ぎになった。

【議論の機会を奪うことも「国会軽視」ではないか】

 マスコミやネットでは「さすがにこれはひどい」「自民党総裁と首相の立場を使い分けるのは卑怯」「国会軽視だ!」なんて否定的な意見が溢れかえったのもまだ記憶に新しいが、その一方で「ああゆう言い方しかないだろ」と擁護(ようご)する声も少なくない。

 マスコミではあまり取り上げられていないが、実はあの発言を引き出した長妻昭衆議院議員はこのように聞いている。

 『次にですね、自衛隊、まあ憲法の問題でございますけれでも、総理がですね、私からするとちょっと唐突感があった訳でございますけれども、2020年までに新憲法施行というふうにおっしゃった訳でございますが、これの真意をおっしゃっていただければと思います』

 丁寧なもの言いではあるが、改憲派が催した集会に寄せたビデオメッセージや『読売新聞』で語っていることをここでもう一度リピートしなさいよ、というわけなのだが実はこれは「トラップ質問」だったのだ。

 予算委員会は基本的に「政府に対する質疑」だ。安倍首相は「政府の代表」という立場で答弁するので、現行憲法への不満などはすべてNGワードとなる。「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という憲法第99条のからみがあるからだ。

 つまり、もしあの場で安倍首相が『読売新聞』の紙面でうれしそうに語っていたことと同じような内容を少しでも口走ってしまった途端、蓮舫さんたちは「あーっ! 憲法擁護してないじゃん! はい、違憲! 国民のみなさーん、こいつ首相なのに憲法99条違反してますよ!」と狂喜乱舞し、「VR蓮舫」ばりの厳しい追及がスタートしてしまっていたのだ。

●「地雷」を踏まないための「逃げの答弁」

 そのような「地雷」をどうしても踏んでもらいたい民進党は、安倍首相に憲法改正の真意を執拗(しつよう)に問い質して「誘導」を行なっていた。一方、安倍首相はそれにのらないよう「内閣総理大臣としての責任における答弁に限定させていただきたい」とかわしていたが、最終的にはこらえきれなくなって『読売新聞』を出してしまったという「攻防」があったわけだ。

 なんてことを言うと、「そんなのは安倍信者たちの屁理屈だ!」「ウソだ! ヒトラー安倍は議会無視の独裁者だ!」という怒りに震える方たちも多いかもしれないが、これはなにも安倍首相だけに見られる傾向ではない。

 例えば、昔ある官房長官が参院予算委員会で、野党議員から新聞記事を引き合いに出して、「この記事は事実か」と質問された。その記事に書かれていることは政府に大きなダメージを与えるネタだったので、それについて官房長官が言及すればドツボにはまる。つまり、今回の安倍首相と同じく、どうにかしてかわすしかなかったのだ。そこで秀逸なのは、この官房長官がひねりだした答弁である。

 「新聞記事を確認する質問なんて聞いたことがない」

 もちろん、野党は大激怒し、予算委員会の審議は中断。その官房長官は謝罪に追い込まれている。

 情報番組さながらのフリップを持ち出し、「新聞によりますと」「この報道では」といった前口上で日々、安倍政権の腐敗ぶりを追及していらっしゃる民進党のみなさんからすると、「そうそう、自民党の議員は昔からこういう国会軽視答弁の常習犯だったんだ」という反応になるかもしれないが、実はこの御仁、自民党ではない。

 勘のいい方はもうお気付きだろう。民主党政権時の仙谷由人官房長官である。

 尖閣諸島沖で中国の漁船と海上保安庁の船が衝突をした際の政府の混乱ぶりを報じた新聞記事に関して、自民党の山本一太参議員議員から質問され、以下のように答弁をして野党・自民党が猛反発したのだ。

 『1年生議員のとき、先輩から「この記事は事実か」という聞き方は最も稚拙な質問方法で、やらないようにと教育を受けた』(日本経済新聞 2010年10月15日)

 もちろん、これは仙谷さんが議会軽視の独裁者だったわけではなく、単純に先の安倍首相と同じく、「地雷」を踏まないためのいたしかない「逃げの答弁」であることは言うまでもない。事実、野党時代の仙谷さんといえば、「この記事は事実か」の厳しい追及で名を馳せた論客だった。

●「読売新聞読んで問題」は次元の低い不毛な争い

 2004年10月18日の予算委員会で、仙谷さんは小泉純一郎首相や南野知惠子法相に対して、日歯連の迂回献金疑惑の捜査状況を問いただし、山本一太さんと同様、記事を片手に意気揚々とこんな質問をしている。

 「迂回献金のひとつの端的な例として、佐藤勉さんという人が300万とか500万円迂回献金でもらったということが、少なくとも新聞報道にある。それで佐藤さんを取り調べたという話がある。取り調べたのかどうなのか答えてほしい」(仙谷由人公式Webサイト 国会発言集より)

 断っておくが、仙谷さんをdisっているわけではない。民主党であろうと、民進党であろうと、そして自民党であろうとも、政府の一員となった国会議員はポジショントークを強いられる運命にあり、今回の「読売新聞読んで」問題も目くそ鼻くそを笑う、という次元の低い不毛な争いだということを申し上げたいのだ。

 「政府=与党」という議会政治では、どうしても閣僚は個人的な「政治信条」と「政治的立場」を使い分けなくてはいけない。当然、過去の発言と整合性がつかなくなる。では、そういう「穴」を野党から突かれてどうするかというと、「答えない」もしくは「当たり障りのない答弁でお茶をにごす」と相場が決まっているのだ。

 そのあたりの本質を的確に言い表したのが、ある法務大臣が地元に帰って、気のおけない身内を集めた会合で語ったという以下の言葉だ。

 『法相は2つ覚えておけばいい。「個別事案は答えを差し控える」と「法と証拠に基づいて適切に対処する」だ。』(日本経済新聞 2010年11月18日)

 「議会軽視の極み」だと蓮舫さんの厳しい叱責が飛んできそうだが、これも自民党ではなくて、現・民進党の柳田稔参議院議員のお言葉である。

 民進党のみなさんも政権をとっていた時に閣僚を経験された方たちはボロカスに叩かれた。野党から揚げ足をとられ、なにかしゃべっては謝罪、弁明するとさらにドツボ、という負のスパイラルに陥った。

 日本経済新聞の坂本英二編集委員によると、当時、民主党の閣僚からこんな言葉が漏れ伝わってきたという。

 『衆参で延々と同じ質問をして首相の耐久テストをしているようなものだ』(日本経済新聞 2013年11月3日)

●議論の機会を奪うことも「国会軽視」である

 この構造は、テストに耐えるメンツが変わっただけでなにも分からない。やっている本人たちはもしかしたらそれなりに「ああ、俺たちって国を動かしているな」という充実感があるのかもしれないが、一般国民からするとこれほど苦痛なものはない。

 激しく論争しているように見えるが、よくよく聞いてみると、実は「お前の言い方が気に食わない」「俺たちをバカにしているのか」というどうでもいい罵り合いに多くの時間が費やされ、ああだこうだと理由をつけて本質的な議論が1ミリたりとも進まないからだ。

 この状況をたとえるのなら、「グダグダのプロレス」である。技をかける方も下手、受ける方も下手で、観客は飽き飽きしているが、やっている本人たちはウケていると思っているのか、派手な雄叫びをあげながら攻守を切り替えて似たような技の応酬を延々と続けている。

 「読売新聞読んで」発言で、待ってましたといわんばかりに盛り上がった蓮舫さんたちは、5月11日に開催される予定だった憲法審査会をボイコットした。

 『首相の発言を受け、野党筆頭幹事の武正公一氏(民進)が与党筆頭幹事の中谷元・前防衛相(自民)に対し「国対に憲法審査会を開かないよう指示されている」と伝えた』(産経ニュース 5月10日)という。

 本当に安倍首相を叩きのめしたいのなら憲法審査会を開催して、憲法に自衛隊を明記することが国民の不利益になることをしっかりと列挙し、改憲派を「論破」するのが筋である。

 「とにかくあいつらひどいんですよ」というパフォーマンスで国会前に人を集める手法が毎回通用するとは限らないのだ。

 ポジショントークから逸脱できない官僚的な言い逃れ答弁は確かに問題だが、議論の機会を奪うことも「国会軽視」ではないのか。

(窪田順生)

最終更新:5/16(火) 8:20

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