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今度こそAIがホンモノになる? 富士通がAIブランド「Zinrai」の戦略を説明

Impress Watch 5/16(火) 12:48配信

 富士通株式会社は16日、同社のAI「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」(以下、Zinrai)に関するビジネス戦略について説明。現時点で約500件の商談が進んでいることを示したほか、現在は700人のAI技術者を、2018年までに1500人体制へと倍増する考えを示した。

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 また、NVIDIAの最新GPUを搭載した世界最速のディープラーニング基盤システム「FUJITSU AIソリューション Zinraiディープラーニングシステム」や、Zinraiを活用したコールセンター向け自動応答サービスなどを発表した。さらに同社では、2017年夏にも、最新の計算機アーキテクチャ「デジタルアニーラ」をZinraiに適用することも明らかにした。

 富士通 取締役 執行役員副社長 グローバルサービスインテグレーション部門長の谷口典彦氏は、「過去のAIブームでは、AIエンジンが優れていても、それを実行する環境が整っていなかった。だが、そうした制約が取り払われてきた。今度こそ、AIが本物になるといわれる理由はそこにある」と前置き。

 「富士通は、これまで30年以上培ってきたAIに関する知見、技術群を体系化。200件を超えるAI関連特許を出願し、日本のITベンダーではトップの実績を持つ」などと述べている。

■着実に進展するZinrai

 富士通では、2015年11月にAIブランドとしてZinraiを発表。2017年4月には、Zinraiプラットフォームサービスとして、9種類のAPIを提供することを発表している。今年度中には30種類のAPIを提供する予定だという。

 現在、Zinraiに関する約500件の商談のうち、コールセンターが20%、ものづくり・保守保全が17%、ナレッジ活用が14%、FinTechが8%、需要予測・デジタルマーケティングが7%、ヘルスケアが5%という構成比になっている。

 理化学研究所とは理研AIP-富士通連携センターを設立したほか、GRID、ユニロボット、1QBitなどのスタートアップ企業と協業。野村證券やサンカルロス医療研究所、川崎地質などでのAI導入事例などがあり、「人を助けるAIとして活用。顧客とのCo-Creationや、スタートアップとのエコシステムを着実に推進している」という。

 富士通では、AI戦略の4つの柱として、「お客さまとのCo-Creation(協創)を拡大し、オープンなAIを目指す(AIによる知見をお客さまと共有)」、「社内実践のさらなる推進」、「グローバル展開の加速」、「AI技術のエコシステムの確立(富士通のAI技術とオープン、ベンチャー技術の組み合わせ)」を掲げるとともに、「蓄積した技術と知見をつなぎ、サービスとして価値を提供する、サービスオリエンテッドカンパニーを目指す」としている。

 会見で富士通のミスターAIと紹介された富士通 執行役員 デジタルサービス部門AIサービス事業本部担当の原裕貴氏は、「Zinraiの強みは、顧客との協創や社内実践で培った業務、業種ノウハウがあり、これをAPIとして提供できること、30年にわたるAI研究と、スパコンの京で培った世界最速クラスのディープラーニング技術などを持つこと、1500人のAI専門技術者と2000人のデジタルフロントSEによる人材にある。技術面では、画像認識、グラフデータ分析を可能していることや、自然に対話を自動で生成する自然言語処理技術、知識処理技術を持つこと、世界最大規模の知識ベース構築および検索技術と、高度な数学を活用した数理技術を持つことが特徴である」とした。

 世界初のグラフデータの学習技術「Deep Tensor」を開発。グラフデータから新たな知見を導くことができるほか、これにスパコン技術を組み合わせることで、シミュレーションやグラフ処理を高速に行い、AIの成長を加速することができる点も強調した。

 また、富士通では、2018年を目標に、ディープラーニング処理向けプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)」を開発。約10倍の電力あたり性能を発揮することができるようになる。これも、AIの学習の高速化に寄与できるとしている。

 富士通 執行役員 サービスプラットフォーム部門AI基盤事業本部長の吉澤尚子氏は、「顧客に話を聞くと、AIの適用方法がわからないという声が48.9%に達しているほか、教師データ作成が難しいという声も46.8%に達している。また、もっと速く学習したいという声も44.7%にのぼっている。富士通の技術によって、こうした課題を解決できる」とした。

 一方、Zinraiの具体的な導入成果として、スペインのサンカルロス医療研究所では、3万6000件の患者データと、100万件以上のオープンデータをAIが分析し、数秒で患者の健康リスクを提示できるようになったほか、川崎地質では、道路陥没を防ぐ路面下空洞探査にAIを活用し、少ない教師データから富士通独自の技術により拡張することで認識率を向上させたという。

 さらに富士通の社内実践では、AIを活用して蓄積された過去の提案書を再利用し、高品質な提案書を効率よく作成。キーワード検索から、提案書スライドを一覧で表示し、そこから絞り込み検索によりスライドを抽出して収集する。これにより、2時間かかっていた作業が14分で完了するといった例も出ているという。また、フランスのINRIAとAI技術の共同研究を開始している例も紹介した。

■“世界最速”のディープラーニング基盤システム

 富士通が世界最速とするディープラーニング基盤システム「FUJITSU AIソリューション Zinraiディープラーニングシステム」は、NVIDIAの最新GPUを搭載したディープラーニング専用サーバーと、動作検証済みのストレージ、ソフトウェアをシステムとして提供。オンプレミスでのディープラーニングを活用したシステム構築のほか、ディープラーニング基盤をクラウドで提供する「FUJITSU Cloud Service K5 ZinraiプラットフォームサービスZinraiディープラーニング」と組み合わせたハイブリッド環境も実現できるという。

 「クラウドと同様に、速く、使いやすく、高品質の環境をオンプレミスで提供できる。液浸オプションも提供することになる」とした。

 価格は、3570万円から。2020年までに累計で1900システムの販売を目指す。

■AIを活用したコールセンター向け自動応答サービス

 Zinraiを活用したコールセンター向け自動応答サービス「FUJITSU Business Application Operational Data Management & Analytics(ODMA)デジタルエージェント for コールセンター」は、コールセンターに寄せられる利用者からの問い合わせを、AIがチャット形式で自動応答するクラウドサービス。

 問い合わせの入力文を高精度に理解し、的確な回答を導き出すほか、対話履歴から自動的に自然に対話を学習する。コールセンターが抱える人手不足や教育コストの増大といった課題を解決。24時間365日の対応も可能になる。同サービスは、PC事業を担う富士通クライアントコンピューティングのサポート窓口に導入。2017年度第2四半期から運用する予定だという。

 また、野村證券に分析用AIを導入することを発表。実際のデータとAIを用いた自律的な分析アプローチにより、いつもと違う状態を見つけることにより、従来の品質担保手法ではデータ品質確保に限界があった領域における、データ品質の向上を図るという。「数千万件から数億件規模のレコードから、数十件のアノマリ(いつもと違う)パターンを発見し、業務有識者でも気がつかなかったアノマリパターンを検出できた」(富士通の原執行役員)という。

 今後、富士通では、この技術をほかの業種にも提供していく予定であり、システム間の不整合の検知、システムテストにおける不具合の検出などで運用が可能だとしている。

■デジタルアニーラをZinraiへ適用

 一方で、今後の先端技術への取り組みのひとつとして、2017年夏に、デジタルアニーラのZinraiへの適用することを明らかにした。

 吉澤は、「富士通は、量子コンピューティングの技術もAIに活用したいと考えている。デジタルアニーラは、量子コンピューティングそのものではないが、量子のふるまいをデジタル回路で実現し、組み合わせ最適解を高速に得ることができる。現時点で1024ビットであり、デジタルアニーラならではの安定的な動作により、この実用規模で現実社会の問題に適用が可能であると判断している。新たにAIのできることを提供できる」とコメント。「富士通は、HPC、ディープラーニング、量子コンピューティングという世界最先端の3つの技術を融合して、顧客の事業拡大に貢献したい」などと述べた。

 なお、この日の会見の司会は、同社のメディエイタロボットであるロボピンが行った。

クラウド Watch,大河原 克行

最終更新:5/16(火) 12:48

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