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暴力団対処の論法が一般人にも 「共謀罪」で溝口敦さん

朝日新聞デジタル 5/16(火) 23:16配信

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が国会で議論されている。政府は「テロ対策に必要」との立場だが、捜査当局による乱用や「表現の自由」などの侵害を危惧する声もある。

【写真】「共謀罪」について語る溝口敦さん=4日、東京都内、仙波理撮影

 「裏社会」を長く取材し、暴力団に襲われた経験もあるジャーナリストの溝口敦さん(74)は、テロや組織犯罪を計画段階で取り締まる、という法案に厳しい目を向ける。


 犯罪組織に対する厳しい姿勢。一般市民には無縁なのか――。

 暴力団を長い間追ってきた私は、かつて出版物をめぐって脅迫を受け、何者かに脇腹を刺されて重傷を負った。結局、犯人は逮捕されなかった。「共謀罪」法案が成立し、こうした組織的犯罪への規制が強まるのを歓迎する声もあるが、私はそうは思わない。

 暴力団犯罪では、「○○をやれ」といった明確な指示がないことがよくある。それでも現場の人間は説明を求めず、上層部の意向を忖度(そんたく)し、実行する。だから犯罪計画への認識があいまいなことも少なくない。

 3月、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた指定暴力団工藤会(北九州市)の元組員に判決が出た。銃撃を実行した仲間をバイクで送迎したなどとして、懲役18年8カ月(控訴中)となった。元組員は「銃撃計画は知らなかった」と主張したが、裁判所は10年以上の組員歴などをもとに「認識していた」と認定した。

 私は暴力団の味方ではないが、今回の元組員への判決は単なる運転手役という役割に比べて重すぎると思う。それでも、警察や裁判所が暴力団にいくら厳しく対処しても、国民から不満が出ることはない。彼らが社会に与えてきた影響が深刻だからだろう。

 政府は法案をテロ対策としているが、肝心のテロの定義すらあいまいだ。ある日突然、一般の団体が「組織的犯罪集団」とされる可能性もある。これまで「暴力団だから」と見過ごされていた論理・論法が、一般人にも広く使われるようになるかもしれない。犯罪を計画段階で取り締まる共謀罪では、客観的な証拠が乏しくなる。内心を恣意(しい)的に推し量って捜査したり、裁判所がそれを追認したりすることになりかねない。

 テロや重大犯罪の脅威が高まっているのは事実だ。だが、問題点が多い共謀罪を創設するのではなく、防犯カメラやGPS(全地球測位システム)などを適切に活用して捜査を強化していくべきだ。千葉で起きたベトナム女児の殺害事件でも、カメラの映像が容疑者の特定につながったとされている。プライバシー侵害に抵抗がある人もいるが、地域の絆が薄れて情報収集が難しくなるなか、積極的な機器の活用も必要だ。

 共謀罪法案をめぐる国会論議では、矛盾が露呈している。法務相が「一般人は対象にならない」と説明したのに、別の人が「対象にならないことはない」という趣旨の発言をした。楽観的なとらえ方をせず、「対象になる」と考えるのが知恵ある国民の態度ではないだろうか。

 そもそも、内心の自由を奪いかねない法律をつくろうという考えが信じられない。国民の反発がそれほど強くないのは、他人事だと思っているからだろう。一般人が警官におびえるような状況がいいのか。安倍政権の支持率が落ちないのはふがいない野党と比較した「消去法」のため。共謀罪についても同じような土壌、国民の気分が支えているように思えてならない。(聞き手・岩崎生之助)


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 〈みぞぐち・あつし〉 出版社を経てフリーライター。暴力団、新興宗教などを取材。作品に「食肉の帝王」「山口組動乱!!」など。

朝日新聞社

最終更新:5/16(火) 23:16

朝日新聞デジタル