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温厚ゾウなぜ飼育員を襲ったか? 原因不明の死亡事故でアドベンチャーワールド苦悩

産経新聞 5/17(水) 9:04配信

 和歌山県白浜町のレジャー施設「アドベンチャーワールド」で3月、男性飼育員(37)が雌のアジアゾウに襲われ死亡する事故が起きた。同施設には他に約10頭のゾウがいるが、事故後は飼育員がおりに入らず餌を与えるなど飼育方法を変更し、ゾウと触れ合う人気イベントも中止した。ゾウはトラやライオンなどと異なり、調教すれば間近で観察できる数少ない動物で、イベントを集客の要とする動物園も多い。しかし同施設は安全面を最優先で考慮。温厚とみられたゾウが飼育員を襲った原因は不明で、イベント再開のメドは立っていない。

 事故が起きたのは3月12日午前9時15分ごろ。タイ国籍の男性飼育員が鉄製のおり(高さ4メートル、縦6メートル、横18メートル)の中で、40歳の雌のアジアゾウのラリー(高さ約2・8メートル、体重3・5トン)に襲われた。

 男性飼育員はもう一人の飼育員とともに午前9時ごろからホースでラリーに水をかける作業をしていたところ、ラリーが突然立ち上がり、鼻を使って襲ってきたという。男性飼育員は鼻の直撃を受け、鉄製のおりで頭部などを強打。もう一人の飼育員が救助したが、搬送先の病院で死亡が確認された。開園前で来園客はいなかった。

 男性飼育員はタイで10年以上ゾウを飼育した経験があり、専門の調教技術も持ち、信頼が厚かったという。施設の広報担当者は「(ラリーが)人を襲うようなことは過去になく、原因は分からない」と話す。

 なぜ、こんなことが起きたのか。「ベテラン飼育員でも、油断すると命を落とす危険がある」。上野動物園(東京都)の井内岳志学芸員はゾウ飼育の難しさを指摘する。「ゾウに人を襲う気がなくても、少し振り回した鼻が直撃するだけで人間にとってはひとたまりもない」

 同園でも約10年前、飼育員がゾウに襲われ死亡する事故があった。事故を受けて同園は、繁殖期になると気性が荒くなる傾向がある雄は飼育員が号令などで誘導し、柵やおり越しに世話をする「準間接飼育」に飼育方法を変更。雌の場合のみ飼育員がおりの中に入り、触れ合いながら世話をする「直接飼育」を行っている。

 一方、10頭以上のゾウを飼育する千葉県市原市の動物園「市原ぞうの国」は、ゾウが出演する迫力満点のショーや直接触れ合うイベントが売り物で、雄・雌とも直接飼育にこだわっている。直接飼育は、飼育員が事故に巻き込まれる危険性が大きくなるが、ゾウと深い信頼関係を築くことができ、けがの有無や日々の体調、機嫌の善しあしなどに気付きやすいというメリットがある。

 広報担当者は「飼育員が触れることができない動物に来園者を乗せたり、餌を与えるため来園者を近づけさせることはできない」と話し、飼育員が安全と判断したゾウのみイベントに参加させるなど、来園者への安全対策も徹底している。

 アドベンチャーワールドは事故後、飼育員の安全確保と負担軽減のため、直接飼育を準間接飼育に切り替えた。ゾウの展示は続けているが、来園者が餌をあげたり、背中に乗ったりするイベントは中止した。

 ゾウのイベントは人気があっただけに、再開してほしいという要望もあるが、同施設は「飼育員と来園者の安全が第一で、再発防止策が決まるまで、方針を決めることはできない」(広報担当者)とする。

 岐阜大学の土井守教授(動物繁殖生理学)は、「ゾウが優しい動物だというイメージは動物園が育んできたもの。事故が続き、イメージが損なわれないよう、飼育上の問題点がないか、常に見直し続けることが求められる」と話す。温厚で、人慣れしていたゾウによる死亡事故。施設側には原因を把握し、教訓をどう生かしていくかが問われている。

最終更新:5/17(水) 9:04

産経新聞