ここから本文です

<大学新テスト>民間試験は経済負担重く 都市格差を懸念

毎日新聞 5/17(水) 8:30配信

 大学入試センター試験に代わる新テスト「大学入学共通テスト(仮称)」の実施方針案を文部科学省が16日公表した。「脱知識偏重」を目指す約30年ぶりの入試改革の柱は、英語の民間検定試験活用と、国語、数学への記述式問題の導入だ。政府の教育再生実行会議が新テストを提言してから3年半。高校や大学から反発を受け、実施方針案は双方に配慮した方法に落ち着いたが、2020年度の実施に向けて課題は多い。

【大学入学共通テスト(仮称)の国語、数学の問題と解答】

 「新たな時代を切り開く人材が育成される」。松野博一文科相は16日の記者会見で、新テストの効果への期待を示した。

 新テスト構想が浮上したのは、13年10月。安倍晋三首相の肝煎りで設置された教育再生実行会議が、マークシート式で「知識偏重」「1点刻み」のセンター試験から、グローバル社会で求められる思考力・判断力・表現力を評価するテストへの切り替えを提言した。これを受け、文科相の諮問機関「中央教育審議会(中教審)」が14年10月、英語の4技能(読む・聞く・話す・書く)を測るための民間検定試験の活用と、柔軟な思考や表現力が求められる記述式の導入を打ち出した。

 改革の方向性に反対する高校、大学関係者は少ない。しかし、センター試験が50万人規模の受験生を公平に評価するのに妥当な手法だったことも事実で、変更点の多い新テストへの拒否反応も小さくなかった。

 英語の民間活用は、高校側の反発が強かった。文科省が実施方針案で候補に挙げた10試験でも、1回の検定料は3000~2万5000円と幅がある。試験会場も12~約1万7000カ所と差があり、実施時期も異なる。複数回受けるのが難しい低所得世帯や、試験会場まで遠い地方の受験生と、経済的に余裕のある大都市の受験生との間に格差が生じる恐れがあると指摘された。

 これに対し、文科省は受験回数を高校3年の4~12月に2回と限定した。活用する試験を認定する際、全都道府県で複数回実施することや、低所得世帯は検定料を減免することなどを求めることを明確にした。一方で、条件を満たす試験をできるだけ多く認定する姿勢も示す。

 記述式の導入には大学側が反発した。文科省は当初、大学側が採点する案も示したが、2次試験との日程調整が難しくなることに加え、採点する人員を確保できないとの理由から、国立、私立ともに批判的な意見が多かった。実施方針案では採点を全て民間に委託する案に切り替えた。

 双方に配慮した実施方針案に、国立大学協会は「前向きに検討したい」としており、高校側でも大筋で了承される見通しだ。

 ただし、英語だけでも課題は山積している。まず、高校の授業が「検定対策」になる恐れがある。学習指導要領に完全に対応していない試験が選ばれる可能性もあり、「高校3年間の学力到達度を測る本来の趣旨からは外れてしまう」と懸念する声も少なくない。

 2回という受験回数の上限は高校3年しか適用されないため、1、2年の「試し受験」が横行する可能性がある。私立中高一貫校で英語を担当する30代の男性教諭は「民間試験には高得点のコツがある。1、2年での練習が欠かせず、金をかけるほど本番で良い結果につながる」と明かす。どの試験がいつ認定されるのかは明示されていない。東京都立高校の校長は「細かいところが見えてこない。対策の取りようがない」と話した。【伊澤拓也、金秀蓮】

 ◇国語記述式に実用的題材 採点公平性、課題も

 国語と数学で導入される記述式の問題例も16日、2問ずつ公表された。国語は小説や評論文などから出題されてきたこれまでの入試と異なり、自治体の広報資料や、駐車場使用契約書を題材に取りあげ、考えたことを的確に表現できるかなどを問う実用的な内容だ。

 数学も「公園の銅像が最もよく見える角度を調べる」という日常に絡めたこれまでにない問題が示された。こうした内容を「実践的な学力を測るのに適した題材だ」と高校の国語の教諭や予備校幹部は評価する。

 ただし、国語の設問は文字数を20~120字に制限し、「根拠となる記述を引用」「解答の文末は……となるように」などと細かく条件を付けている。

 東京都八王子市の工学院中高の平方邦行校長は「思考の過程などを測るなら、内容をさらに検討する必要がある」。河合塾教育イノベーション本部の近藤治副本部長も「文中の表現を引用すれば正解が作れ、記述式の狙いである表現力を試す問題として物足りない」と指摘するが「採点にブレを生じさせないため、やむを得ない」と理解も示す。

 50万人が受験する中、採点の公平性確保は大きな課題だ。マークシート式のセンター試験は機械が採点したが、記述式は同センターが委託する民間業者が人の手で採点する。文科省はそれぞれの問いの「正答の条件」も示し、複数の条件をすべて満たした解答を正答例としたが、いくつかの条件を満たした解答の評価方法はまだ不透明だ。

 ある公立高の女性教諭は「正解例が『自己負担』だった場合、『経済的負担』や『費用負担』という解答はどう扱うのか」と疑問を投げかける。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長は「基準があいまいだと、採点の妥当性が疑問視される。基準を公開するのか。検討すべき課題はまだまだ多い」と話した。【水戸健一】

最終更新:5/17(水) 10:12

毎日新聞