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「Windows 10 S」「Surface Laptop」に対する期待と不安

5/17(水) 6:25配信

ITmedia PC USER

 長らくウワサになっていた「Windows 10 Cloud」と「クラムシェルノート型Surface」だが、その答えがようやく出た。

【一覧表:Windows 10 Sと他Windowsの機能比較】

 米Microsoftは5月2日(米国時間)、ニューヨーク市内で開催された教育分野向けイベントの「Microsoft EDU」において、Windows 10 Cloudと呼ばれてきた新OSの「Windows 10 S」と、同OSを搭載したクラムシェルノートPC「Surface Laptop」を発表したのだ。

 今回は戦略的な意義と今後の可能性から、これらの2製品について考えてみる。

●かつてのWindows RTとWindows 10 Sはどこが違うのか

 Windows 10 SはWindowsストアでのみアプリの導入が可能なWindows 10の機能限定エディションとなる。現在のところ、デスクトップアプリケーションの導入に必要なmsiファイルやスクリプトの実行など、サイドロードが可能な機構は確認されておらず、非常にセキュアなOSと言える。

 これにはModern UIのアプリのみが実行可能だったかつてのWindows RTの陰が見えるが、当時とは1点大きな違いがある。当時のWindows RTで実行可能だったのは「Windows RTでの動作に最適化した(つまりWinRT APIを使うARMバイナリ)アプリ」だけで、Windows RT動作用にアプリを新たに作り込む必要があった。

 しかし、現在のWindows 10およびWindowsストアに対応した「UWP(Universal Windows Platform)」アプリは、Desktop App Converter(Project Centennial)を使って署名入りAPPXファイルに変換されたWin32ベースのデスクトップアプリケーションも含んでいる。

 Desktop App Converterとは、膨大な資産があるWindows旧バージョン向けのデスクトップアプリケーション群を、Windows 10のネイティブ実行基盤であるUWP対応のモダンなアプリに変換し、Windowsストアで配信できるようにする仕組みだ。つまり、Windows RT専用アプリの時代とは異なり、既存のデスクトップアプリケーションをWindows 10 Sで動作可能なUWPアプリとして展開しやすくなっている。

 Windows 10 Sの中身としては、4月に配信が始まった大型アップデート「Creators Update(1703)」世代以降のx86プロセッサ向けWindows 10をベースとしている。Microsoftが公式のFAQで示しているように、これら変換済みデスクトップアプリケーション(Win 32 Centennialアプリ)の実行も可能だ。

 その他にも、Windows 10 Sは非常に面白い特徴を持っている。一般PCユーザー向けエディションの「Windows 10 Home」に比べても管理機能が非常に充実しているのだ。

 具体的には、Azure AD経由でドメイン参加が可能なことに加えて、Windows Update for Businessやビジネス向けWindowsストア(Windows Store for Business)が利用できるなど、一見エンタープライズ用途にも適している。

 しかしMicrosoftの意図として、この仕様はビジネス向けというよりも、今回のイベントの本題である「教育分野」でのデバイス管理を念頭に置いた仕掛けだと考えるべきだ。かつてのWindows RTはコンシューマー市場を念頭に置いており、ドメイン参加や管理機能は備えていなかった。動作可能なアプリのバリエーションだけでなく、ここだけを見てもWindows 10 Sがそもそも異なるターゲットを狙っていることが理解できる。

 このタイミングで新エディションのWindows 10 Sを投入した理由は、同社のプレゼンスが弱い教育分野で現状の最大勢力であるGoogleのChromebookに対抗するためだ。

 ちょうど発表会当日の5月2日にFuturesource Consultingが発表した教育分野(K-12)でのデバイスOSシェア調査報告によれば、米国でのOSシェアは過去2年間でGoogleのChrome OSが38%から58%へと急伸する一方、それまで比較的シェアを獲得していたWindowsとmacOSはその比率を漸減させており、特にiOSは非常に落ち込みが大きい。

 iOSの落ち込みはタブレット市場の動向とも連動しているが、この間隙を縫って安価なデバイスとクラウドソフトウェアを提供するGoogleが躍進したことは、Microsoftが戦略を見直すきっかけとなるには十分な出来事だろう。

 なお、「K-12」とは北米における高校卒業までの12年間の教育課程を指す用語だ。ここでテクノロジーに慣れ親しんだ子どもが将来的に社会に出ることで、各社の動向に大きな影響をもたすことになるだろう。

●Windows 10 Sが歩むのは栄光の道か、それとも……

 実はMicrosoftの教育分野に向けた取り組みは、Windows 10 Sの前から始まっていた。

 1月には「Intune for Education」という教育機関向けのデバイス管理ツールを発表済みだ。パートナー各社が発売するWindows 10 S搭載デバイス(Windows 10 education PC)の189ドルからという価格設定についても、Intune for Educationが発表された英ロンドンでの教育イベントにてスタートしたキャンペーンに準じており、この戦略を補強する存在がWindows 10 Sとなる。

 「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」とは言うが、学校で生徒らのデバイスを管理するのは教師であり、ある意味で教育指針の決定権も持っている。この教師の負担軽減をアピールすることが教育現場へ入り込む近道というのは正しい。

 さらにMicrosoft自身は「Microsoft Office」という強力な生産性ツールを持っており、今回さらにグループチャットツール「Microsoft Teams」の提供も発表した。ビジネス向けチャットツールとして勢いがある「Slack」に対抗すべく、3月に一般提供が開始されたばかりのMicrosoft Teamsだが、これを含むOffice 365製品群をGoogleの「G Suite」対抗として提供できるのが同社の強みだ。

 現時点でGoogle対抗をこの規模で打ち出せるベンダーはMicrosoftしかなく、実際に製品をそろえてきたのはさすがだと感心する。

 Windows RTの中途半端さとは異なる管理機能の充実ぶりや、既存のOffice製品を含めてデスクトップアプリケーションのUWP化を自ら推進することで、Windowsストアの拡充を図っている点など、過去の失敗をきちんと分析して新製品に生かしたことは、教育分野の攻略で大きな武器になるだろう。

 一方で不安を感じる部分もある。それは「低価格OSとしてのWindows 10 S」の位置付けだ。ここまでWindows Sは教育分野向けと説明してきたが、やはり安価なPCラインアップの拡充という狙いもあるように思える。

 低価格なWindowsデバイスのラインアップを拡充するため、Microsoftは過去にWindows RT、Windows Phone、Windows 8.1 with Bingなど、さまざまなマーケティング施策を用意し、既存のOEMライセンスビジネスに大ダメージを与えない程度にOSの無料展開を進めてきた。

 これらはプロセッサやスクリーンサイズなどで縛りを設けることで既存のWindowsとの差異化を図ってきたが、今回のWindows 10 Sは「Windowsストア」が縛りとなる。管理機能が重要な教育現場ではあまり問題がないだろうが、今後Windows 10 Sが一般向けに販売されたとき、この縛りは受け入れられるのだろうか。

 アプリ開発側の視点では前述したDesktop App Converterが登場し、以前に比べればUWPアプリを展開するためのハードルは大きく下がっているが、いまだに「茨(いばら)の道」であることは、今回同時発表したSurface LaptopでMicrosoft自身が示しているように思えてならない。

●Surface Laptopは結局Windows 10 Proで使われるのか

 それでは、Microsoftが自ら投入するWindows 10 S搭載ノートPCとして同時発表されたSurface Laptopに話を移そう。

 これまでのSurfaceのラインアップとは異なり、標準的なクラムシェルノートPCの形状を採用し、第7世代Core i5/i7や2256×1504ピクセルの13.5型タッチディスプレイといったスペック、アルミニウムとアルカンターラ(スエード調の人工皮革)素材を組み合わせたスリムボディーなどを考慮すれば、999ドルからという価格は比較的手ごろだと考えている。

 タブレット形状で画面を寝かせて利用できるSurface ProシリーズやSurface Bookシリーズに比べ、斜めの状態になる不安定なディスプレイ構造でのペンやタッチ入力になるという問題はあるものの、このクラスのクラムシェルノート製品でのタッチスクリーン対応は、PCのペン入力を推進してきたMicrosoftならではのこだわりだ。

 発表会のデモンストレーションでは、USBメモリを使ってSurface Laptopを高速(30秒程度)にセットアップできることが紹介されたが、これも教育用途では魅力だろう。

 ただ1点、筆者が気になったのが、Surface Laptopのスペック表にある下記の表記だ。

Windows 10 S

Prefer to run non-Store apps? Easily switch to Windows 10 Pro for free until Dec 31, 2017

Introductory offer: Includes 1 year of Office 365 Personal5

 Surface Laptopは6月15日以降に出荷が開始されるが、少なくとも米国では発売から半年はWindows 10 Proへの無料アップグレードが保証される。米国でWindows 10 Proのライセンスは199.99ドルで販売されており、この施策は実質的に200ドルの値引きに等しい。期間限定で割引販売するテコ入れ策にしても、これではWindows 10 Sが機能限定版であり、その点で魅力に乏しいことを認めてしまってるようなものだ。

 かつての機能限定エディションがたどってきた道を考えれば、現在停滞しているWindowsストア普及の起爆剤として、Windows 10 SやSurface Laptopを展開するという意図が弱いように見える。最終的にはライセンス収入が得られるWindows 10 Proへの誘導を図りたいという意図も見え隠れしており、教育分野ではない一般向け市場での動向に不安を覚えるところだ。

 もう1点気になったのが、「Windows Mixed Reality(MR)」のサポートについてだ。Windows 10 Sの発表会で「将来的にはVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使って教室でも3D体験を楽しめる」という点をアピールしていたが、そこまで到達するには時間がかかるかもしれない。

 なぜならば、今回発表されたSurface Laptopを含むWindows 10 S搭載デバイスの下位モデルの多くは、Windows MRの最低動作スペックを満たしていない可能性が高いからだ。主に搭載するメモリの容量とGPUのスペックがネックとなり、Chromebook対抗をうたう低価格デバイスではWindows MRの利用が厳しいと予想される。

 一般向けにWindows MR搭載デバイスが販売される段階では、現状のデベロッパー版から要求スペックが下げられるようだが、詳細は不明だ。Windows MRの一般向けリリースと搭載製品の発売時には、接続して利用するPC側の要求スペックがどうなるのかにも注目したい。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

最終更新:5/17(水) 6:25
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