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ヒットの理由を説明できない、「ガチャ」の舞台裏

ITmedia ビジネスオンライン 5/17(水) 8:17配信

 硬貨を入れてハンドルを回せば商品が出てくる「ガチャ(カプセルトイ)」――。子どものころに一度は遊んだことがあると思うが、最新のガチャ事情をご存じだろうか。

【成田空港でどんなアイテムが売れているのか】

 かつては駄菓子屋やスーパーの裏などにひっそりと置かれていたが、近年は駅や空港などでズラリと並ぶ。ガチャを前に、子どもだけでなく、大人も、そして外国人観光客も、お目当てのアイテムを手にするために群がる。こうした光景をみると、かつては「脇役」だったのに、いまは「主役」といった感じである。

 国内のカプセルトイ市場をみると、2001年度は210億円だったのに対し、2015年度は316億円にまで成長している。ということは、ヒット商品が必ずあるはず。そこで、ガチャ事業を手掛けているタカラトミーアーツに聞いたところ「その質問に、お答えするのは難しいんですよねえ」「なぜヒット商品が生まれたのか。その説明も難しいんですよねえ」とのこと。

 なんとも歯切れの悪い回答である。自社の手の内を見せたくないのか。それともヒット商品がないのか。はたまた、カプセルの中に閉じこもっているだけなのか。その謎を解くために、同社でガチャ事業を担当している森川修さんに話を聞くことに。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●昔の鉄の機械は大変だった

土肥: 国産カプセルトイの機械が誕生したのは、1965年のこと。日本でつくられたのかなあと思っていたのですが、違うんですよね。米国でつくられたものが日本に輸入されたとか。それから約20年後(1986年)、タカラトミーアーツはガチャ事業を始めたわけですが、当時はどのような市場だったのでしょうか?

森川: いまのアイテムはカラーが当たり前になっていますが、当時のモノは色が付いていませんでした。色が付いているモノ、色が付いていないモノ、どちらがいいですか? 色が付いているほうがいいですよね。そこで当社がアイテムにカラーリングを施したところ、その商品がものすごく売れました。

土肥: 事業に参入して、いきなりヒット商品が生まれたわけですね。機械はいかがでしょうか? 昔のモノは鉄でできていたような。

森川: ご指摘のとおり、鉄でできていましたが、実はとても大変だったんですよ。

土肥: ん? なぜですか?

森川: お金を回収することが大変でした。上部にカギがあって、そこを開ける。そして、ボックスを外して、中にある金庫を取り出さなければいけませんでした。集金のたびに、機械を分解しなければいけなかったんですよ。このほかにも、お金がつまったときの修理が大変だったり、ボックスが1つしかなかったので効率が悪かったり。こうした課題があったので、当社は上下2段式の機械を開発しました。1995年のことですね。

 いまの機械は前面にカギが付いていて、そこの扉を開けると、中が金庫になっているんです。そこからお金を取り出せばいいだけなので、ずいぶんと楽になりました。またお金がつまっても修理が簡単にできるように。さらに上下2段式にすることで、商品数を増やすことができました。集金の手間が軽減され、修理が簡単になって、効率よく販売することができようになったので、売り上げが伸びていきました。結果、駄菓子屋やスーパーだけでなく、さまざまな場所に設置できるようになりました。

土肥: ふむふむ。

●長い年月をかけて市場をつくってきた

森川: 新しい機械が登場した翌年(96年)、ディズニーの商品を販売することに。そこで何が起きたのか。それまでガチャのターゲットは子どもでしたが、ディズニーのキャラを扱うことで、若い女性が買ってくれるようになりました。そのころから少しずつ「ガチャ=子どもだけのものではない」といった認識が広がっていき、その後、携帯電話のストラップを販売したときも若い女性に買っていただきました。

 もちろん若い女性だけでなく、大人の男性が欲しくなるアイテムも増やしていきました。例えば、リアルさをウリにした生物とか、スターウォーズやポケモンなどのキャラはよく売れました。

 ディズニーのキャラを扱うようになって、変化がもうひとつあったんですよね。それまでこの業界について、イマイチなイメージをもたれていた人が多かったかもしれません。「どうせ子ども向けでしょ」とか「いいモノが入っていないでしょ」といった感じで。でもディズニーの商品を扱うことで、「きちんとしたモノを扱うのね」といった認識が広がったのではないでしょうか。さまざまなところから「当社の商品をガチャにするのはどうですか?」といった声をいただくようになりました。

土肥: 昔のガチャといえば、購入者のほとんどは子どもだった。しかし、それだけでは事業は拡大できない。ということで、大人をターゲットにした商品を販売することにした。それが見事に的中して、男性だけでなく、女性ファンも増やせたということですね。その後はいかがでしょうか?

森川: 現在ガチャの売り場を見ると、子どもだけでなく、お父さんも一緒に購入しているんですよね。その昔、こうしたシーンはほとんどなかったのですが、最近はよく目にするようになりました。なぜか。いまのお父さん世代は子どものころに、一度は買ったことがあるはず。子どものころはたくさん買うことができなかったけれど、いまは買うことができる。そうした大人が、子どもと一緒に購入しているのではないでしょうか。

土肥: この業界は「長い年月をかけて市場をつくってきた」わけですね。ということは、20年、30年後には、お爺ちゃん、お婆ちゃんもガチャを回しているかもしれない。

●大人が歩くところに設置していく

土肥: 昔の機械は外に置かれているところが多かったですよね。駄菓子屋の入り口付近で、機械は雨風にさらされていました。

森川: はい。ですが、いまは施設の中が多いですね。この変化から何が読み取れるかというと、「業界の地位が向上した」と言えるのではないでしょうか。以前は、お小遣い稼ぎで機械を置いていたところも多かったかもしれませんが、いまは違う。家族で楽しむケースが増えてきているので、「機械をキレイにしておかなければいけない」「ハンドルを回しやすい環境にしなければいけない」といった意識に変化してきています。

土肥: なるほど。よく売れている場所はどこですか?

森川: 秋葉原駅と池袋駅のコンコースに期間限定で設置しているのですが、ここはよく売れていますね。購入者の約9割は大人で、以前はマニアの人が多かったのですが、最近はスーツ姿のビジネスパーソンをよく見かけるようになりました。3年ほど前に設置しましたが、当時は約8割が新規顧客で、ハンドルを逆に回す人がたくさんいました。いまでも、約5割は新規の人ですね。

 あと、ショッピングセンターの通路などに設置していて、ここもよく売れていますね。例えば、近くの売り場にガチャがあるのにもかかわらず、機械を見て「えー、スゴい。こんな機械を見たのは初めてだよ」と言っているんですよね。

土肥: 例えば、オモチャ売り場は子どもや親は足を運びますが、若いカップルとか大人だけではなかなか行きません。

森川: そうした人たちの導線には、機械が目に入らないですよね。現在はさまざまな層の人が購入しているので、いろいろな場所で設置できるようになってきました。結果、子どものころに買ったことはあるけれど、大人になってからは買っていない。20年ぶり、30年ぶりに機械を見て、「ちょっと買ってみようか」という人が増えてきたのではないでしょうか。

土肥: どんどん表舞台に出ているというか、大人が歩くところに設置しているわけですね。

森川: 昨年、成田国際空港(以下、成田空港)の第2旅客ターミナルに設置しました。「あまった小銭をオモチャに!」「なぜか日本で売れてます」といったキャッチコピーを掲げたところ、外国人観光客にウケて、売り上げは平均の3~5倍ほどになりました。

土肥: キャッチコピーがいいですねえ。思わず「うまい!」と言いたくなる。

●成田空港で売れる確信はなかった

森川: 駅構内に設置するときも、キャッチコピーを付けているんです。春には「花よりガチャ」、年末には「ゆくガチャ、くるガチャ」といった感じで。成田空港の場合は10カ国で説明していて、母国語を読んだ人に「自分の売り場なんだなあ」と感じてもらうようにしました。ただ、さまざまな国の人が来られて、スタッフは困っていました。「ロシア語で話しかけられたのですが、何を言っているのか分かりませんでした」と。

土肥: 成田空港に設置する前に、「ここは売れる。大丈夫だ」といった確信はあったのでしょうか?

森川: 正直に言って、なかったですね。関係者と「1年後に売れればいいよね」といった話をしていました。なぜかというと、海外の人はあまりガチャのことを知りません。そうした状況なので、どのように伝えればいいのか分かりませんでした。海外に行ったときに、小銭が余って困ったことがある人は多いですよね。でも、海外の人はどのように感じるのか。よく分からなかったので、まずはやってみて反応を見ながら少しずつ売っていきましょ、といったスタンスでした。

土肥: しかし、機械を設置したところ……。

森川: すぐに売れました。当初、機械の使い方を文字で説明していたのですが、多くの人が読んでくれませんでした。「100円を入れて、ハンドルを回す」と書いていても、中には「1円を100枚入れても、ハンドルは回るんだ」と解釈していまして。10円、5円、1円をたくさん入れて……機械が壊れてしまう、といったケースがありました(涙)。

 このままではいけないので、絵で使い方を説明しました。結果、たくさんの人に利用していただけるようになったのですが、新たな問題が出てきました。それは両替機。1000円札を入れて、100円を10枚にするといったものなのに、10円玉をたくさん入れて、100円玉を出そうとする人がいました。

土肥: 成田空港ではどんなアイテムが売れているのですか?

●月に25~30アイテムを発売

森川: 当初、外国人が買うので、日本の伝統工芸品にちなんだモノが売れるだろうなあと思って、そうした商品をたくさん並べていました。でも、あまり売れなかったんですよね。むしろ、ディズニーとかポケモン関連のほうがよく売れている。

 なぜだろうと思って調べたところ、自国であまり見ることができないミッキーだったんですよね。例えば、寝ていたり、座っていたり。アレンジを加えているので、海外の人たちは「これこそが日本的な商品!」と感じているようです。私たちが思う日本らしさって、ちょっと勘違いしているのかなあ、といったことをガチャを販売して分かってきました。

 ちなみに最も売れているのは「パラ斎藤さん」。宇宙人をテーマにしたフィギュアなのに、なぜか売れている。購入者にそのアイテムを選んだ理由を聞いたところ、「友人の顔に似ているから」「知人の顔にそっくりだから」といった理由が多かったですね。

土肥: いや~、この業界って何が売れるのか分からないですねえ。よく売れているアイテムは何になりますか?

森川: その質問に、答えるのは難しいんですよねえ。なぜかというと、当社は月に25~30アイテムを販売しているので。

土肥: えっ、月にですか?

森川: はい。なぜ、これほど販売しているかというと、設置している売り場の種類が多いからなんです。昔は、駄菓子屋とスーパーくらいでしたが、いまは総合スーパー、ショッピングセンター、公共交通機関、CDショップ、アパレルショップ、美術館など、さまざまなところに機械を設置しています。あまり売れていない商品は、どんどん変えていかなければいけないので、常に新商品を出し続けなければいけません。でなければ、売り場を保つことができないんですよね。

 また、ターゲットによって人気アイテムは違うので、何が売れているのか? というご質問に答えるのも難しい。子どもには、きかんしゃトーマス関連のモノはよく売れますが、大人にはあまり売れません。逆に、大人には売れているモノでも、子どもにはあまり売れないモノもあります。年間30万個売れればヒット商品と言われていますが、最近でいうと「シャクレル」シリーズは第一弾だけで100万個売れました。

土肥: 発売前に「これは売れる!」と予想して、それが的中することはあるのですか?

●ガチャは一期一会

森川: 人気キャラクターなどは、ある程度売れるかなと予測することができます。しかし、それ以外はハッキリ言って分かりません。新商品を発売するとき、他の商品であれば「いまの人気トレンドはこれで~~」「需要はこれくらいあって~~」といった具合に、きちんとマーケティングをして企画するケースが多いと思うのですが、ガチャの場合はほとんどしません。

土肥: 言葉は悪いですが、月に25~30個も販売しているので、その中からヒット商品が生まれればいいよねといった感じなのですか?

森川: そうした部分はあります。何が原因で売れるのか、販売してからでないと分からないことが多いんですよね。

土肥: ひょっとして、なぜ売れたのか、その分析もしていないとか?

森川: 基本的にしていません。ガチャの場合、「この商品はこういうコンセプトですよ」「このように楽しむことができますよ」といった具合に紹介しています。いわゆる発信型の戦略なんですよね。もちろんトレンドを押さえて商品化することもありますが、こちら側から「これを楽しんでください」と情報発信するほうにチカラを入れています。

土肥: どんどん新商品を出しているということは、「このアイテムが欲しいなあ。でも、今度来たときに買おう」と迷っていると、買えないことがありますよね。売り切れのときもあれば、新商品に切り替わっていることもあるので。

森川: そうなんです。だから、ガチャは“一期一会”なんです。

(終わり)

最終更新:5/17(水) 8:17

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