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亡くなった人が「認知症」だったら? 相続トラブルを回避するには?

ZUU online 5/17(水) 17:50配信

高齢化社会に伴って、認知症を患う人も多くなり、様々な社会問題を引き起こしている。相続問題も例外でない。先日、相談に来たAさんは、亡くなった母親が認知症を患っていたため、思わぬトラブルに巻き込まれた一人である。

■認知症の母が書いた遺言書

Aさんの母親が亡くなったのは2カ月前のこと。父親は既に3年前に亡くなっていて、法定相続人は、Aさんと兄のBさんの2人だけである。母親の「四十九日法要」が住んで、兄弟で遺産相続の話し合いをしようとした矢先、母親が書いた「遺言書」が見つかったのである。

母親が残した遺言書は「公正証書遺言」ではなく、直筆で書いた「自筆証書遺言」だった。そのため、AさんもBさんも、母親が遺言書を書いたことを知らず、亡くなって始めて知ったのであった。

通常、被相続人(亡くなった人)が遺言書を残していれば、故人の最後の遺志を尊重して、極力「遺言書」どおりに遺産を分けることが基本である。

しかし、Aさん、Bさんの場合、一つ大きな問題があった。それは、母親は亡くなる頃にはかなり「認知症」の症状が進んでいたのである。Aさん、Bさんの2人は、認知症を患っていた母親が書いた「遺言書」をどう扱っていいのかわからず、Aさんが当職の所に相談に来たのである。

Aさんの具体的な相談内容は、「母親の遺志を尊重して遺言書のまま遺産を分割したいのですが、ただ兄が遺言書の内容に納得せず、遺言書は無効ではないかと言うのです」というものであった。遺言書内容は、ややAさんに有利な内容であったためか、Bさんからは、「遺言書を書いた時に、すでに認知症だったのではないか。もしそうであれば、遺言書は無効になるのではないか」という疑問の声が上がっている。

自筆証書遺言だから、当然書いた日付が書いてあるが、その時点で母親が認知症だったかどうかは、今となっては確かめようがない。

このような場合、どのように考えたらいいのだろうか。

■協議か調停か?

筆者がまずAさんに伝えたことは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」との違いである。もし「公正証書遺言」であれば、公証役場に遺言者が出向いて公証人に遺言内容を口述し、それを公証人が文書にまとめるものであるから、遺言者が遺言書を作った時に認知症である、つまり判断能力に欠けていることはあり得ない。

従って、公正証書遺言であれば、基本的に遺言書の内容のとおりに、遺産を分割することになる。

しかし、Aさんの母親が残した「自筆証書遺言」では、遺言者が誰にも相談することなく秘密に書いているから、きちんとした判断能力を持っていたかは不明である。つまり遺言書が法的に有効かどうかは、誰も証明することができないのである。そうなると、しかるべき手続きを踏んで、公的に判断してもらうしかない。つまり、裁判で決着をつけるということになってしまう。

こう説明すると簡単だが、現実はもっとややこしい。相続に関する事案では、いきなり裁判を起こすことはできない仕組みになっている。まず、遺産の分割方法や遺言書の真偽について不満を持っている相続人が、家庭裁判所に「調停」を申し入れなければならないのである。この調停は、調停員の立ち会いの下、相続人同士で話し合うことである。この調停で話し合いがつかない場合には、「審判」となり、一定の結論が出される。

ただし、この審判に納得できない場合には、異議申し立てを行うことができる。そうなれば、裁判を起こし、判決を待つことになる。

裁判に行くまでには、費用はもちろん、かなりの時間がかかることになる。当職が、特にAさんに説明したのは、この点である。遺産相続で費用や時間を費やし、判決をもらっても、相続人間に大きな溝ができることになる。このことを決して母親は望んでいないのではないかということである。

できれば相続人での協議、つまり話し合いで解決した方が、万事丸く収めるということだ。しかも、自筆証書遺言を書いた時に判断能力があったかどうか証明することは、至難の業である。Aさんは、「兄と納得いくように話し合ってみる」とのことであった。

遺言書は故人の遺志を表すものとして、とても有効な手段である。ただ、トラブルを招くことも少なくない。残された相続人が故人の遺志を尊重しつつ、話し合いによって、解決していくことが大切である。(井上通夫、行政書士)

最終更新:5/17(水) 17:50

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