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【種蒔く人々】呉服店「蝶屋」社長・高倉慶応さん 伝統とは革新の連続

産経新聞 5/17(水) 7:55配信

 私の故郷、福岡県久留米市の伝統的な織物に、久留米絣(くるめがすり)があります。木綿に藍染を施した絣織は、明治時代の西南戦争の際、久留米に政府軍の拠点が置かれたことで全国に知られました。重要無形文化財に指定されています。

 久留米絣のKIMONOプロジェクトへの採用は、正直、迷いました。これまで制作した作品はすべて絹織物だからです。一般的に木綿や麻はカジュアルで、絹は礼装に用いるという考えが定着しています。「世界各国をモチーフに、着物を作るプロジェクトには向かない」。そう考えていました。

 ただ、地場産業の久留米絣はどうしても使いたかった。

 久留米絣の第一人者、松枝哲也氏の言葉で、悩みを払拭できました。

 「木綿は、藍を最も美しく発色する。最上級の木綿は絹と変わらない光沢がある」

 木綿でも絹のような質感が出せるのであれば、使えます。久留米絣の関係者、愛好家の皆さん、商工会議所や行政と相談し、太平洋の島国キリバスをモチーフに、久留米絣で着物を制作すると決めました。

 当初、制作方針をめぐって、意見の対立もありました。しかし、実際に制作が始まり、関係者の中に、まとまりが生まれ始めています。注目や支援の輪も確実に広がっている。まるで、甲子園でプレーする地元高校を応援するような雰囲気が生まれています。

 多彩な色や加工を施す京友禅をはじめ、絞りや刺繍(ししゅう)といった技法で、豪華絢爛(けんらん)に仕上がる作品の中で、藍と白のコントラストが基調の久留米絣は異色の存在になるでしょう。

 通常は文化財としての規定や、工芸会の好みにあわせて作品を仕上げます。

 ですが今回は違います。制作者の松枝先生が、自由な発想で創作される作品は、果たしてどのようなものになるでしょうか。とても楽しみです。

 伝統とは革新の連続だ、とも言われます。KIMONOプロジェクトが、革新の機会を提供できるのであれば、若い久留米絣の制作者に、大きなインパクトを与えることになるでしょう。

 革新の例は、すでに生まれています。昨秋に完成したコスタリカ共和国をモチーフにした着物です。

 帯は沖縄独自の織物である「花織」で作りました。しかも、コチニールという中南米原産の染料を、初めて用いました。通常の草木染料では難しい深紅色を出すことができたのです。さらに、金糸や銀糸といった金属糸を初めて使い、豪華さを演出しました。礼装の帯として、これまでにない可能性を示せたのではないかと思います。

 合わせる琉球紅型(びんがた)の着物も、柄を工夫しています。

 特殊な鉱物性の染料で出した鮮やかな色と、独特の文様が特徴です。古典文様の「花丸」を、コスタリカの花や国章で置き換えました。今回、琉球紅型を代表する城間家の当主、城間栄市氏が1枚の型紙に彫刻をほどこして染め上げていく様子を見せていただきました。和やかでありながら、緊張感ある現場は、とても印象的でした。

 常備軍を持たない国、コスタリカをモチーフにした着物を、平和を求める沖縄の伝統工芸で制作することは、プロジェクトの理念である世界との平和共存の理念を象徴しているとも言えます。駐日コスタリカ大使に作品をお見せした際も、感激されていました。

 プロジェクトでは、来春にかけて、意欲的な作品が、続々と生まれます。着物文化を見直し、日本の伝統文化の多様性と奥深さを示す絶好の機会になることを期待します。

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【プロフィル】たかくら・よしまさ

 昭和43年、福岡県久留米市生まれ。平成2年、慶応義塾大経済学部を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行した。4年に家業の呉服店「蝶屋」に入社。10年に社長に就任し、同年、久留米青年会議所理事長を務めた。趣味は、テニスと音楽鑑賞。1970~80年代の洋楽への造詣が深く、同市のコミュニティーFMの音楽番組で、パーソナリティーを務めたこともある。

最終更新:5/17(水) 7:55

産経新聞