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次世代有機EL材料、発光メカニズムの謎解明

5/17(水) 10:07配信

EE Times Japan

■仮説に反する事例の存在

 産業技術総合研究所(産総研)と九州大学は2017年5月11日、次世代有機EL材料「熱活性化遅延蛍光分子(TADF分子)」の発光メカニズムを解明したと発表した。TADF分子の発光効率を高める要因が、従来考えられていたものと異なることが、今回の研究で明らかになった。

 TADFとは、三重項状態の分子が室温の熱エネルギーで一重項状態へと変換した後に放出される蛍光のことだ。希少金属が不要なため、低コスト化や高効率化の切り札とされている。2012年に九州大学が初めて、炭素、窒素、水素だけでできた有機化合物のTADF分子を開発した。

 開発当初はまだ発光メカニズムの詳細は不明で、一重項状態と三重項状態のエネルギー差「ΔEST」が室温の熱エネルギー近くまで小さいほど、TADFの発光効率が高いと考えられていた。しかし最近になって、ΔESTが室温と懸け離れた分子にも、100%に近い発光効率を示す事例が報告されるようになった。

 そこで産総研と九州大学は共同で、TADF分子の発光メカニズムを解明する研究を行った。従来はΔESTだけに注目していたが、今回は特に一重項状態と三重項状態の種類(励起種)に着目した。励起種の検出に用いたのは、産総研が開発した「ポンプ・プローブ過渡吸収分光法」。この分光法は、材料の励起状態での光吸収を10兆分の1秒から1000分の1秒までの時間領域において、紫外光や可視光から赤外光までの波長領域で測定できる。

■パラ体構造に生成する電荷非局在励起種が高効率の肝

 研究ではまず、8種類の分子について有機ELの発光量を調べた。すると、ΔESTが小さい4CzIPN(1)は発光効率が高く、ΔESTが大きい2CzPN(2)は発光効率が低くかった。つまり、(1)と(2)に関してはΔESTと発光効率の間に相関が見られた。しかし、para-3CzBN(3)、4CzBN(4)、5CzBN(5)は、ΔESTが室温の熱エネルギーの約10倍にもかかわらず、TADFを強く発光した。

 次にこれらの結果をもとに、TADFの有無で分子を分類したところ、TADFを強く発光する分子群が全てパラ体であることが分かった。そこで、8種類の分子全てに超短パルスレーザー(励起光)を照射し、励起状態の時間変化を過渡吸収分光法で観測した。その結果、パラ体である(1)(3)(4)(5)の分子にだけ特徴的な励起状態が生成していることが分かった。

■有機ELデバイスの低コスト化や次世代デバイスの実現へ

 パラ体の分子群には、ホールが分子内で自由に移動できる「電荷非局在励起種」が生成していた。対して、その他の分子群では、ホールが自由に移動できない「電荷局在励起種」や「中性励起種」しか観測されなかった。これにより、TADFの発光には電荷非局在励起種が関係していることが明らかになった。

 今回得られた過渡吸収スペクトルをさらに考察すると、三重項状態から一重項状態への逆変換は、三重項状態の中性励起種が一重項状態の励起種とエネルギー的に近い場合に生じることが分かった。また、一重項状態のエネルギーを三重項状態の中性励起種のエネルギーに近づけるには、分子にパラ体構造を導入して電荷非局在励起種を形成することが有効と判明した。パラ体構造にすることで、一重項状態は電荷局在励起種からより低いエネルギーの電荷非局在励起種となるため、逆変換に必要なエネルギー差が小さくなり、TADFが発光しやすくなる。

 産総研と九州大学は今回得た知見をもとに、従来よりも高性能なTADF分子を作製できるという。それにより、有機ELデバイスの大きな低コスト化の他、有機半導体レーザーなどの次世代光デバイスの実現が期待できるとしている。

最終更新:5/17(水) 10:07
EE Times Japan