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<LGBT>「自分は女性」編む 震災経て「生き直す」

毎日新聞 5/17(水) 13:31配信

 「女性としての自分を殺してきた」。そう話す宮城県在住のあめるさん(47)は、戸籍上は男性で性同一性障害に苦しむ日々を長年送り、追い打ちをかけるように、東日本大震災では両親と祖母、職まで失った。それから4年後の秋、副業の人形作りで、編み棒を手に初めて毛糸をたぐると、女性として満たされる感覚に全身が包まれた経験をする。「もう、本当の自分を隠すのはやめよう」。女性として生き直す決意を固める転機だった。【加藤栄】

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 17日は1990年に世界保健機関が精神疾患リストから同性愛を削除したことを記念し、欧米で始まった「同性愛嫌悪とトランスジェンダー嫌悪に反対する国際デー」で、あめるさんも手先の器用さを生かした編み物教室を開き、性的少数者(LGBTなど)との交流を始めたばかりだ。「あめる」はあだ名で「編める」の意。「本当の自分」を編み上げる日々が始まっている。

 長男として生まれたあめるさんは、幼い頃から自分の性に違和感があった。父親は女性のような仕草や態度を注意し、友達にはいじめられた。「朝起きたらまず殺す。女性の自分を殺す。毎日が自殺する日々だった」。つらかった日々の影響か、中高校時代のことはあまり思い出せない。

 県内の山あいの農村に転居した20代前半に縁があった女性と結ばれ、男女1人ずつの子供に恵まれた。仕事は昼は農業。細かい仕事が得意で、夜は粘土を使った人形づくりに励んだ。

 そして震災には、家庭の事情で戻っていた実家近くのアパートで遭遇した。海岸に近い実家は津波で流され、両親と祖母に会社員の職まで失う。傷心のまま農村に戻り、野菜作りと人形づくりの日々が再開した。

 震災4年半後の2015年秋。展覧会に出す雪だるまを制作中、「寒そう」と小さなマフラー作りを思いつく。100円ショップで買った毛糸玉を編み棒でたぐり始めた瞬間、手元からハートマークが次々飛び出すような不思議な光景が広がる。女性として満たされていく感覚が体に広がり、涙が止まらない。ありのままの自分を受け入れる決心がついた。

 翌16年春、性同一性障害の治療を始めた。「胸張って生きればいいよ」。高校と中学に通う子供たちも理解してくれたが、将来、2人の結婚に支障がないか、悩みは尽きない。

 今年4月、編み物教室を始め、生徒3人ができたほか、LGBTを支える組織に入り、同じ悩みを持つ仲間との交流にも取り組む。「『こういう人がいる』と知ってもらえるきっかけになれたらいいな」。隠し続けなければいけない不安が消える日も遠くなさそうだ。

最終更新:5/17(水) 14:14

毎日新聞