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自治体連携の特養オープンへ 東京と静岡つなぐ面会バスツアーも

福祉新聞 5/17(水) 14:23配信

 東京都杉並区と静岡県、同県南伊豆町の3者連携による特別養護老人ホーム「エクレシア南伊豆」(静岡県南伊豆町)が、2018年1月のオープンまで1年を切った。定員の約半数を県外の入所者が占めることを想定しているのが特徴で、施設の建設・運営は地元の社会福祉法人梓友会(川島優幸理事長)が担う。どのような船出になるか、注目が集まる。

 事業は、杉並区が病虚弱児童を対象にした「区立南伊豆健康学園」(11年度末閉園)の跡地利用策として、特養の開設を検討し始めたのが発端。当初、区が用地を整備・運営法人に貸し付け、区民と地域の高齢者が優先的に入所できる定員60~80人程度の特養を整備することを想定していた。その後に行われた調査により、学園の土地が特養建設に適さないと判断され、別の町有地での計画に変更になったものの、自治体間連携の枠組みは継続された。

 15年8月には、公募で施設の建設・運営主体に梓友会が選ばれた。補助金(施設整備補助金と備品等整備補助金の合算)として、杉並区から6億2466万6000円、静岡県から4億3372万4000円がそれぞれ拠出され、現在は開設に向けて急ピッチで建設工事が進んでいる。

 90床の定員のうち、半数程度を区民、残りを地域の賀茂圏域の利用者とする大まかな目安を設けた。今夏から入所希望者の募集が始まる予定だが、区民にとって施設は200キロほど離れた遠隔地となる。利用者にとって、距離が入所をためらわせることにならないように、同法人はさまざまな工夫を施設計画に盛り込んだ。

 IT技術をふんだんに活用する。テレビ会議システムにより、利用者家族が区内にいながら利用者とインターネットを介して面会できるようにする。利用者に対しては、入所前後の住環境の変化をできる限り抑えるため、在京中に視聴できていたテレビ番組を、インターネットを使って視聴可能にすることも検討するという。

 区の主要地と施設とを結ぶバスツアーも計画している。利用者の家族間の日程を合わせる必要はあるが、移動の負担を減らせるのに加え、途中で食事所や観光地などに寄ることで、地域経済の発展にも貢献できる。施設には家族用の宿泊部屋も用意。面会に来やすい環境づくりをすることで、距離によるデメリットの解消を図る。

 地方自治体が都道府県域を超えて特養の整備に乗り出すこの事業。地価の高い都心部を避けることで比較的安価に施設を整備できるのに加え、計画地周辺での雇用創出や地域経済の活性化など、メリットは多いとみられる。

 同区は、17年3月末時点で特養待機者1200人を抱えており、課題解決の一翼を担いそうだ。ただ、暮らしたことのない土地に移住することは、利用者にとってストレスになり得る。また、住み慣れた地域で暮らすという「地域包括ケアシステム」の考え方からも逸脱することになりかねない。

 川島理事長は今回の事業について「自治体間で40年来続けられてきた地域間交流があったからこそ成立するもの」と、あくまでも特例であることを強調。区も基本的には同じ考えで「(区の特養は)本来区内に整備するのが望ましい」(保健福祉部高齢者施策課)としている。一方で「地域ごとに抱える福祉課題の解決や地方創生の観点から見れば、魅力的な事業スキームであるのも確か。特養整備の選択肢の一つとして、今後、他の地方自治体が実施する可能性は考えられる」(同)との見解を示した。

 区民の入所が実際に何人になるか、区民と地域の利用者のバランスは保てるかなどの不安は残るが、事業開始までカウントダウンは進む。梓友会としては、県外の高齢者を一挙に大勢預かることになる。川島理事長は「生活に対する価値観の違いに、最初はお互い戸惑うかもしれない。これまで培ってきたノウハウを生かし『来て良かった』と思える施設運営を行っていきたい」と意気込みを語った。

最終更新:5/17(水) 14:23

福祉新聞