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自然を守る意味はどこにある? 映画『オリーブの樹は呼んでいる』監督が語る

5/17(水) 7:00配信

ぴあ映画生活

スペインで樹齢2000年ものオリーブの樹が引き抜かれて、売られている。この事実を新聞で読んだ脚本家のポール・ラヴァーティ(『天使の分け前』『わたしは、ダニエル・ブレイク』)は、妻で映画監督のイシアル・ボジャインに声をかけ、映画『オリーブの樹は呼んでいる』が完成した。祖父を愛する孫娘が、売られてしまったオリーブの樹を取り戻すべく奔走する姿を描いた作品だが、ボジャイン監督は、この映画を単にスペインの問題だけを扱う社会派作品とは考えていないようだ。

『オリーブの樹は呼んでいる』画像

本作の舞台になるのは、スペインの東にあるバレンシア州。主人公アルマの一家は、かつてオリーブ農園を営んでいたが、父親がビジネスチャンスを狙って樹齢2000年のオリーブの樹を売却。しかし、父がその金で始めたビジネスは失敗に終わり、樹を愛する祖父は生きる希望を失ってしまった。そこで、アルマは失われた樹を取り戻したいと考え始め、やがて庭にあった樹がドイツのオフィスにあることを知る。

夫のラヴァーティが新聞記事から想像を膨らませて執筆した脚本を読んだボジャイン監督は、スペインの事実を知らしめる映画として描くのではなく「家族が土地や自然に根付いているのは、普遍的なこと」だと考えて、映画化したという。「誰もが愛着のある土地があるでしょうし、日本でも樹に特別な意味を込めたりすると聞いています。それはラテンアメリカでも欧州でも同じことで、誰もが子どもの頃を思い出すと、そこには樹や自然があるのではないでしょうか?」

しかし、アルマの一家が代々、受け継ぎ、育て、愛した樹は失われてしまった。映画は、主人公アルマを中心に、父、祖父、叔父など一家の関係を“失われたオリーブの樹”を媒介にして丁寧に描き出す。「家族それぞれの距離感は、脚本に正確に描かれていました。アルマと父、父と祖父の関係はぎくしゃくしていますが、祖父はアルマには優しい。祖父というのは、孫といつも一緒にいるわけではないからです。親は子に対して責任感もあり、期待する部分も大きいですから、時に残酷な存在になります。ところが、ひと世代超えると“素晴らしいおじいちゃんとおばあちゃん”になるわけです(笑)。また、この映画には叔父が出てきますが、彼はアルマを親のように教育はしないけど、助言はします。父のようだけど父ではない存在です。つまり、それだけ親と子というのは難しい関係だということですね」

崩壊した家族を、愛する樹を失って食事すらしなくなってしまった祖父を救うため、アルマは、職場の同僚と叔父を丸め込み、巨大なトラックを運転して、ドイツのオフィスに乗り込む。ボジャイン監督は、俳優の演技や映像と同じぐらい劇中の“音”にもこだわって映画を組み立てたと振り返る。「撮影の段階では、カメラの前で起こっている音はすべて録音して、編集の段階で音を丁寧に作りこんでいきました。音は物語を伝える力強い武器だと私は思っています。オリーブの樹がまだ畑にあるシーンでは、まるで魔法がかかっているような静けさを作りましたし、樹がなくなった農場に祖父がいる場面では“自然の中なのに、自然ではない状況”ですから、鳥たちの声をあえて消したりもしています。私は音によって、その状態がいかに不自然で間違った状況なのか表現したかったわけです」

鳥たちが小さな声で鳴く静かで穏やかな農場から、轟音をあげる重機で引き抜かれたオリーブの樹は、コンクリートの静けさが支配するオフィスビルに移されてしまった。アルマたちは、オリーブの樹を取り戻し、祖父に持ち帰ることができるだろうか?

インタビューの最後にボジャイン監督は「私の仕事は物語を伝えることですので、メッセージという言葉はあまり好きではないのですが」と前置きした上でこう語った。「あなたの周囲にある、代々受け継がれてきた自然を傷つけることは、結局、自分を傷つけるということです。あなたの目の前にある樹は、あなたが生まれる前からそこにあって、あなたが死んだ後も存在するでしょう。その樹はみんなで順番に面倒を見てきたもので、同時にあなたも樹から多くのものを受け取っています。ですから、樹を傷つければ、結果的に、あなたも、コミュニティも、あなたの子孫も傷つくわけです。つまり、環境を守るということは、知的な行為なんかではなくて、あなたの心を守る行為なのだと私は思います」

『オリーブの樹は呼んでいる』
5月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

最終更新:5/17(水) 7:00
ぴあ映画生活