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【MVで解説】「ふたりのさユり」が描いてきた“酸欠少女”の航海史

5/17(水) 13:00配信

RO69(アールオーロック)

「2.5次元パラレルシンガーソングライター」こと、“酸欠少女”さユりが、1stフルアルバム『ミカヅキの航海』をリリースした。

2015年のデビューから5枚のシングルをリリース。アニメタイアップや、RADWIMPSの野田洋次郎が楽曲を提供するなど、リリースの都度、話題に事欠くことはなかった。そして何より、「2.5次元パラレルシンガーソングライター」という言葉が表しているように、彼女をとりまく雰囲気や世界観は唯一無二だ。さユりの表現の軸には自身の「後悔」の中をループする「中2さゆり」が存在していて、その過去の自分と今(未来)の自分という2つの時間軸を「タイムリープ」するという形で楽曲の世界観が構成されている。

誰にでも過去のある時に感じた「後悔の念」がふとした時に思い出されることがあると思う。この文を書いている私自身、何度も学生の頃の同じような夢を見ることが未だにあるのだが、大体の人間は時間と共にそれを忘れることができる。ふとした瞬間に思い出したとしてもそれは日常の中にずっとあるわけではない。しかし、さユりは「中2さゆり」を今、20歳である自身の中に「生かして」いて、「暗闇の中にいる過去の自分」そして、その暗闇から未来をつかもうともがき「歌い続ける未来の自分」をシンクロさせて表現をするのだ。今回のアルバムはそんな彼女の今までの道のり=「航海」が記された作品に仕上がっている。

彼女の特殊な世界観はこうして文字にするだけでは少し難解かもしれないが、さユりのミュージックビデオはアニメーションを用い、「ふたりのさユり」が生きるパラレル世界がまさに「2.5次元」の形で表現されている。ここではアルバムに収録される楽曲のミュージックビデオの中から、「ふたりのさユり」が描かれている作品を紹介したい。

“ミカヅキ”(アルバムM-1収録)
http://www.youtube.com/watch?v=DLTP2ymtuWs

デビューシングル曲。ポンチョを纏い、真っ黄色のアコースティックギターを抱え、裸足で街中で歌っているという、彼女の「基本のスタイル」でありながら、初見の人にとってはかなりのインパクトを与える佇まいだ。当時、まだ10代ということもあり、あどけないルックスだが、その目つきは鋭く、口を大きく開けてどこか息苦しそうに歌う姿からも“酸欠少女”として彼女が背負う「翳」の存在を感じさせる。同映像内に登場する、おかっぱで片目が眼帯姿の少女こそが、永遠の14歳「中2さゆり」。憂鬱そうな眼差しで宙を見つめる姿と《明るい未来は見えない ねえ/それでも あなたに見つけて欲しくて》という当時の気持ちを綴った歌詞が交差している。

“それは小さな光のような”(アルバムM-9収録)
http://www.youtube.com/watch?v=pq7XWSZzDbM

「ノイタミナ」アニメ『僕だけがいない街』のエンディングテーマに起用された2ndシングル曲。このミュージックビデオは「中2さゆり」が、今のさユりが映る鏡を覗き込み、泣きながらその鏡を叩き割ろうとするシーンが印象的だ。《君は僕の胸に刻まれた/一番深い傷跡のようで》という歌詞の「君」こそが、「中2さゆり」のことのようにも思える。また、もっと幼い日のさユり自身を思わせる少女が、真っ白な雪の中ひとり佇む孤独な姿は、『僕だけがいない街』の作品世界にもリンクしている。

“来世で会おう”(アルバムM-10収録)
http://www.youtube.com/watch?v=G_24WzUxKms

前曲の続編のような作品だが、また少し違う次元の、まさに「パラレル」な世界感がアニメーションと共に描かれている。“それは小さな光のような”では過去の「後悔」や「孤独」が象徴的に映し出されていたが、この作品はそこからその先へ進もうとする、今を生きるさユりの意志が表現されている。《夢を見るよ 選ばなかった日の先で/僕は幸せそうに笑ってて》《すべて間違いじゃなかったと/思える春がくるように祈る》と、自分が選んできた道を肯定し、過去から逃げ出すように力強く歌うさユりに、次々と変わるアニメーションのカットと疾走感あるメロディが追い風のように作用している。

“アノニマス”(アルバムM-12収録)
http://www.youtube.com/watch?v=08Eun3iDk-8

「アノニマス」というのはご存知の通り謎のハッカー集団のことだが、この曲では「匿名性をもちながら意志を持った人々」の例えとして名前が使われ、さユりはそんな人達に対し《本当の声で言葉で話がしたいの》と呼びかけているように感じる。ミュージックビデオでは、さユりが街中で弾き語る姿から「パラレル世界」へタイムリープし、場面は教室に変わる。俯いて着席する「中2さゆり」の前で、何かを訴えかけるような眼差しでギターをかき鳴らし歌うさユり。その歌声は届かないが、《応答してよ》の切実な叫びに「中2さゆり」は何かに気づいたように、はっと顔を上げる。

“birthday song”(アルバムM-14収録)
http://www.youtube.com/watch?v=kPoVgDKcjGg

アルバムの最後に収録される、10代最後に書かれたという楽曲。このミュージックビデオは「リリックビデオ」スタイルで進行していき、街中や教室、暗闇といったいろんなシチュエーションでリリックを捲るさユりが映し出されていることから、今までの彼女の活動、つまり「航海」を総括するような内容になっていて、「中2さゆり」が歌を口ずさんでいるアニメーションシーンも登場する。自責、後悔の念を持ちながら、自分が生まれてきたことへの肯定、同時に「あなた」への肯定も含まれたこの楽曲。リアルな「生き苦しさ」、そして「息苦しさ」を歌い続ける“酸欠少女”の「航海」のその先は、一体どんな未来を見せてくれるのだろう。(渡邉満理奈)

RO69(アールオーロック)