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「無人コンビニ」の普及がもたらす経済的インパクト

ITmedia ビジネスオンライン 5/18(木) 7:10配信

 米Amazon.com(以下、アマゾン)が現在準備を進めている無人コンビニ「Amazon Go」には、レジという概念が存在しない。Amazon Goを無人レジのコンビニと勘違いしている人も多いが、その認識は根本的に間違っている。Amazon Goにはレジそのものが存在しないので、顧客はレジで会計をせずに欲しい商品を手に取ってそのまま店を出るだけでよい。ではどうやってアマゾンは顧客から代金を徴収するのだろうか。

【無人コンビニ普及による経済インパクトとは】

 Amazon Goの利用者は、あらかじめスマホに専用アプリをダウンロードして入店する。店内では無数のカメラやセンサーが動作しており、AI(人工知能)が常に状況を解析。顧客が商品を手に取ったと認識すれば、自動的にアプリの買い物カゴに入り、店を出るとアマゾンのアカウントで課金される仕組みになっている。

 アマゾンでは一連のシステムについて詳細を明らかにしていないが、一度手に取った商品でも棚に戻せば課金しないということなので、基本的には人の動きの認識がシステムのカギを握っているようだ。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが報じた内容よると、Amazon Goは技術的な課題に直面しており、スケジュールに遅延が生じている。具体的には、一度に大量の顧客が入店するとシステムが顧客の動きを追えなくなるという。顧客の動きが遅い場合や、少人数の場合には正常に稼働するということなので、システムのブラッシュアップが必要と考えられる。

 新しい技術であることを考えると当初はトラブル続きとなる可能性が高く、スムーズに事業を拡大できるのかは現時点では何ともいえない。さらに言えば、同社が無人コンビニを成功させたとしても、すぐに日本の小売業界が変わるわけではない。しかしながら、Amazon Goが経済や社会にもたらす潜在的な影響力は極めて大きく、この技術を過小評価すべきではないと筆者は考えている。

 では無人コンビニが普及すると、経済や社会に対してどのような影響を及ぼすのだろうか。限られた情報の範囲で推測してみたい。

●従来のコンビニとはまるで異なるビジネスモデル

 小売店の店舗において、「レジ自体がなくなること」と「レジが無人化されること」は天と地ほど違う。日本のコンビニ各社は25年までにレジを無人化する計画を打ち出しているが、これはあくまで既存ビジネスの延長線上にある話だ。レジを打つという作業の一部を機械化し、店員の作業効率をアップすることが目的であり、商品を並べて顧客の入店を待つという従来の小売店の概念が大きく変わるわけではない。

 一方、無人コンビニはそもそもレジがなく、アマゾンの場合には同社のアカウントを持った顧客が入店してくる。つまり誰が入店し、何を購入したのか店側は全て把握していることになるが、これは不特定多数の顧客に商品を販売する従来型の小売店とは根本的に異なる概念である。

 購買履歴などからお勧め商品を推定し、顧客あたりの売り上げを最大化させるネット通販と同じモデルであり、顧客の購買行動の分析を大前提とした一種のITビジネスということになる。

 もしアマゾン型の無人コンビニが普及した場合、小売店は商品をそろえて顧客を待つのではなく、能動的に顧客に働きかける業態に変化せざるを得ない。しかも、完全無人ということになると、理屈上は人件費は限りなくゼロに近づくことになる。これはコンビニというビジネスモデルを根本から変えるほどのインパクトをもたらす可能性がある。

 コンビニは24時間営業を原則としており、人件費の比率はかなり高い。平均的な広さの店舗の売上高はセブン-イレブンの場合、年間約2億3000万円である(店舗の売上高は各社によってバラツキがあり、ローソンの場合は約1億6000万円になる)。このクラスの店舗の場合、アルバイトの人件費は1600万~2000万円程度になることが多く、これにFCオーナーの人件費を加えると、売上高に対する人件費の比率は約1割強と計算される。

●無人コンビニ普及による経済インパクト

 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの上位3社における店舗数の合計は、約5万店舗である。無人コンビニが従来の有人コンビニと同様のサービスを提供できるとは思えないが、一方で顧客ごとにカスタマイズした商品構成や、リコメンデーションシステム(お勧め機能)の導入によって単価をアップする効果も期待できる。

 コンビニ1店舗当たりの売上高が変わらないと仮定した場合、無人化によって年間で1兆2500億円もの人件費が削減される可能性が見えてくる。システムにかかる経費は人件費と比較するとかなり小さいので、場合によっては1兆円レベルの利益がコンビニ業界にもたらされるかもしれない。

 これに加えて労働市場での大きな人材シフトも予想される。コンビニで働く店員の数は、アルバイトのシフトなども考慮に入れると100万人規模に達する可能性がある。無人コンビニの普及によって彼らの仕事の多くは消滅してしまうが、日本の場合、失業よりも労働力のシフトが大きな社会問題となるだろう。

 今後の日本では人口減少が本格化し、生産年齢人口は今後25年間で1750万人も少なくなってしまう。いくらロボット化やAI化が進んだとしても、人に頼らなければならない仕事は一定数存在するため、コンビニの無人化で余った労働力は、人手を必要とする業界シフトさせる必要が出てくる。

 コンビニという一つの業界で無人化が進んだだけで、1兆円のお金が動き、労働市場において100万人を転職させなければならない。これはマクロ経済的に見ても、大きなインパクトをもたらすことになるだろう。無人コンビニの影響を過小評価してはいけないと筆者が主張しているのはこうした事情があるからだ。


(加谷珪一)

最終更新:5/18(木) 7:10

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