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求められる20~40代の経済基盤の安定化-経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す

ZUU online 5/18(木) 13:00配信

■要旨

●本稿では、20~40代の経済基盤強化に向けた最近の主な政策を振り返るとともに、雇用情勢や消費の観点から見た意義を述べる。

●昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」や今年3月の「働き方改革実現計画」では若年層や女性で多い非正規雇用者の処遇改善策や育児と仕事の両立支援策などが盛り込まれ、平成27年度税制改正では「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設されている。

●景気低迷の中、年齢が若いほど非正規雇用者が増えている。賃金水準の低い非正規雇用者の増加は「世代間」の経済格差を、雇用形態による年収差は「世代内」の経済格差を生む。一方、正規雇用者の状況も厳しく、特にここ10年間では30~40代の年収がかつてほど伸びていない。40歳前後の10年間の累積年収は約700万円減り、現役世代の消費抑制につながる。

●家族形成期は消費が立ち上がり活性化する時期だ。世帯主の年齢別に世帯数と消費額の関係を見ると、30代では両者の割合は同等だが、40代では世帯数に対して消費額が増え、50代をピークに60代以降では消費額が減っていく。よって、中核世代の経済力が増し、希望通りの結婚や子育てが実現できれば、消費市場の持続的拡大が望める。逆に、ここで消費が活性化しなければ、縮小の一途をたどることになりかねない。

●消費拡大に向けては、夫婦フルタイム勤務で経済力のあるパワーカップルを増やし、積極的な消費に期待するという方向もある。そのためには育児と仕事の両立支援を進めるとともに、社会保障制度の持続性確保など将来不安の解消もあわせて進める必要がある。

●中核世代の経済基盤の安定化は日本の将来を考える上で急務だ。政策も大きく走っており、今後は一定の改善が望めるだろう。一億総活躍プランで示された10年間の工程表を確実に達成するとともに、過渡期では生活者の状況を適切に把握し、臨機応変に計画を修正できるような体制も必要だ。

■はじめに

1昨年あたりから、20~40代などの中核世代の経済基盤の安定化に向けた政策が目立つ。昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」や今年3月の「働き方改革実現計画」には、若年層や女性で多い非正規雇用者の処遇改善策や育児と仕事の両立支援策などが盛り込まれている。

今の40代半ば以下の世代は景気低迷の中で新卒の就職時期を迎えた世代だ。年齢が若いほど非正規雇用者が多く、正規雇用者でもかつてほど収入は多くない。以前に述べた通り(*1)、経済格差は家族形成格差にもつながる。就職氷河期世代は、すでに家族形成期に入っており、経済基盤の安定化は急務だ。

中核世代の経済力が増すことは、低迷が続く個人消費の底上げを考える上でも意義深い。家族形成期は、家や自動車の購入、教育費などの出費がかさむ時期であり、消費活性化の契機だ。20~40代の経済力が増し、希望通りの結婚や子育てが実現できれば、消費市場の持続的拡大が望める。逆に、この年代で消費が活性化しなければ、日本の消費市場は縮小の一途をたどることになりかねない。

本稿では、あらためて20~40代の経済基盤強化に向けた主な政策を振り返るとともに、雇用情勢や消費の観点から見た意義を述べる。

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(*1)久我尚子「若年層の経済格差と家族形成格差~増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い」( http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53393?site=nli )、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/7/14)など。
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■昨年度からの主な政策の動き

◆「ニッポン一億総活躍プラン」(2016/6)~希望出生率1.8に向けた若者や女性の雇用環境の整備

「ニッポン一億総活躍プラン」では、日本経済の持続的成長に向けた根本課題である少子高齢化問題に立ち向かうとし、新たな三本の矢の一つに「夢をつむぐ子育て支援」を掲げている。若者の希望通りの結婚や出産を叶えるために、現状課題は「結婚」と「妊娠・出産・子育て」、「ひとり親家庭」に分解され、それぞれに対応するように生活基盤の安定化に向けた施策が並ぶ。

例えば、「結婚」については、「①若者の雇用安定・待遇改善」では、非正規雇用者の雇用転換・待遇改善や若者の雇用促進・能力開発等が、「③結婚支援の充実」では、出会いの場の提供など自治体や企業の取り組み支援がある。子育て関連については、待機児童の解消に向けて、「⑥多様な保育サービスの充実」(保育の受け皿拡大や企業主導型保育の推進、放課後児童クラブの充実)や「⑦保育人材の確保・生産性の向上」(保育士の処遇改善等)がある。さらに、仕事と育児の両立環境の整備に向けては、「⑧働き方改革の促進」(女性や若者で多い非正規雇用者の待遇改善として同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正等)や「⑨女性の活躍促進」(再就職支援、女性リーダーの人材育成等)がある。

なお、いずれも2026年度までの10年間の工程表が記されている。政府資料としてはめずらしい印象があり、強い意思表示のようにも見える。各施策の達成状況については、今後、丁寧に見ていく必要があるが、実現に向けた決意は高く評価できるのではないか。

◆「働き方改革実行計画」(2017/3)~非正規雇用者の処遇改善・長時間労働の是正で家族形成の促進も

「ニッポン一億総活躍プラン」を受けて、今年3月に「働き方改革実行計画」がまとめられた。具体策を見ると、「①同一労働同一賃金など非正規雇用者の処遇改善」では、基本給だけでなく各種手当てや福利厚生、教育訓練等も含めて均等・均衡待遇の確保に向けたガイドライン案が定められている。不安定な雇用環境は家族形成を阻む要因でもある。均等・均衡待遇の確保が実現すれば、この状況に一定の改善が望めるだろう。

また、長時間労働の是正(③)も強く押し進められている。実行計画の本文にある通り、長時間労働は「健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因」だ。また、そもそも結婚の出会いを阻む原因でもあるだろう。若者が希望する結婚や子育てを実現するためには、長時間労働の是正も必要だ。

「⑤女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」では、女性の再就職支援や更なる活躍促進などに加えて、就職氷河期世代の雇用環境の整備にも言及している。足元、アベノミクスによる企業活動の活発化により新卒内定率は上昇している(*2)。一方、就職氷河期に学校を卒業した世代は取り残されており、正社員になれず非正規のまま就業又は無業を続けている者が40万人以上存在する(実行計画本文)。当該層では家族形成期にある者も多いだろう。同一労働同一賃金の実現に加えて、就職氷河期世代の救済にも言及することは、経済格差を是正し、希望する家族形成を促す上で非常に意義深い。

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(*2)文部科学省「平成28年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」
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◆結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(平成27年度税制改正)

「平成27年度税制改正大綱」では、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が創設されている。将来の経済的不安は若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の一つであり、祖父母や両親の資産を早期に移転させることで、子や孫の結婚・出産・子育てを支援するというものだ。非課税の上限は1000万円(結婚関係は300万円)で、結婚式や新居の家賃、引越、不妊治療や妊婦検診、出産、子どもの医療や保育、ベビーシッター代などが対象となる。

日本の家計金融資産は高齢世帯に偏在し、その傾向は強まっている。家計金融資産の保有率は世帯主年齢60歳以上の世帯が6割強を占めて上昇傾向にある(総務省「全国消費実態調査」を用いた推計)。若年層には雇用環境の整備をはじめ、多方面からの経済支援策が必要である。

■就職氷河期・デフレ世代の雇用情勢から見た意義~経済格差と家族形成格差の是正

◆非正規雇用者の増加~「世代内」・「世代間」における経済格差

ここからは雇用情勢から見た20~40代の経済基盤強化の意義を述べたい。長らく続く景気低迷により、年齢が若いほど賃金水準の低い非正規雇用者が増えている。非正規雇用者の増加は「世代間」の経済格差を生み、雇用形態による年収差は「世代内」の経済格差を生む。

改めて最新値にて、年代別の非正規雇用者率と雇用形態別の平均年収を見ると、雇用形態による年収のひらきは特に男性で大きく、40代後半では正規雇用者の年収は非正規雇用者の2倍を超える。また、非正規雇用者率は年齢とともに低下するが、以前に指摘した通り1、景気低迷が続く中では生まれ年が若いほど同じ年齢でも非正規雇用者率は高くなる(労働市場における負の世代効果)。よって、雇用形態による年収差が二倍にひらく40代後半の非正規雇用者率は、現在は7.5%で少数派だが、現在の25~29歳が40代後半に成長した時は、この値を上回る可能性がある。

女性でも年収は男性と同様だが、非正規雇用者率は、新卒時から非正規雇用者として働く者と出産・子育てで離職後に非正規雇用者として再就職した者が混在していることを考慮すべきである。

◆正規雇用者賃金カーブの変化~10年前より30~40代の伸びが鈍化、40歳前後で▲約700万円

一方で正規雇用者の状況も厳しくなっている。景気低迷とともにピーク時の年収は減少している。また、ここ10年間の変化としては、30~40代の年収が伸びなくなっていることがある。

大学・大学院卒の正規雇用者の状況を見ると、男性ではピーク時の年収が2006年は55~59歳の870.2万円、2016年では50~54歳の878.7万円で、年齢は前倒しになっているものの年収は若干増えている。しかし、30~40代では賃金カーブの傾きが小さくなり、10年前ほど年収が伸びなくなっている。

賃金カーブが鈍化した40歳前後の10年間の累積年収の差を見ると、男性はおおよそ▲680万円、女性は▲840万円となる。30~40代の家族形成期に約700万円(夫婦とすれば約1500万円)も収入が減ることは消費抑制の原因ともなり、消費市場全体にも影響を与えかねない。

また、消費が抑制されるだけでなく、そもそも家族形成を躊躇する者もいるだろう。男性の年収と既婚率は比例している1。年収300万円を超えないと既婚率は上昇しにくいが、非正規雇用者では年収300万円を超えにくい。また、結婚したとしても、子を産み控える夫婦もいるだろう。国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」によると、夫婦の理想子ども数は平均2.32人だが、実際に持つつもりの予定子ども数は2.01人である。予定子ども数が理想子ども数を下回る理由の首位には「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(56.3%)という経済的なものがあがる。特に、妻の年齢が35歳未満の若い層では選択割合が8割程度を占めて高くなっている。

なお、この10年間で30~40代の賃金カーブが鈍化した背景には、高年齢者雇用安定法による雇用期間の延長で企業の人件費負担が増した影響もあるだろう。よって、生涯賃金では大きくは変わらないという見方もできるかもしれない。しかし、景気低迷による負担感や将来への不安感が大きな現在の30~40代では、自身が60代となった時に現在の60代と同様の待遇を受けられると想像できる者は少ないだろう。よって、30~40代の収入減少は、やはり消費抑制につながりやすいのではないか。

■個人消費から見た意義~家族形成期は消費が立ち上がり、活性化する時期

次に、個人消費から見た20~40代の経済基盤強化の意義を述べる。少子高齢化の進行により、高齢世帯が増えている。よって、世帯数の割合を見ると、現在では60歳以上の世帯が過半数(51.0%)を占める。一方で60歳以上の消費額の割合は46.3%と、半数を下回る。

この世帯数と消費額の関係を見ると、30代では両者の割合は同等だが、40代では世帯数に対して消費額が増え、50代をピークに60代以降では消費額が減っていく。つまり、消費は、結婚や出産を迎える者も多い30代から立ち上がりはじめ、子育て期の40~50代で活性化する。

冒頭で、家族形成期は家や自動車の購入、教育費等の出費がかさむ時期で消費活性化の契機と述べた。その様子は、世帯数と消費額の関係からよく分かる。

よって、20~40代の経済基盤を安定化させ、希望する結婚や子育てを実現させることは、個人消費を底上げする大きな機会を作ることにつながる。逆に言うと、20~40代の経済基盤が不安定で、消費が立ち上がらないのであれば、日本の消費市場は縮小の一途をたどることになりかねない。

なお、4月12日の経済財政諮問会議にて、過去20年間で国民全体の消費支出が減少傾向にある中、特に20~40代の消費が力強さに欠ける状況が報告されている。背景には、就職氷河期世代であることやデフレしか知らない世代である影響も指摘され、今後の取り組みには、可処分所得の拡大や希望する結婚・子育ての実現、社会保障制度の持続性確保による将来不安の解消などが提言されている。

■おわりに

2014年4月の消費増税以降、個人消費は低迷が続く。大きな要因の一つには、賃金の上昇を上回って物価が上昇しているため、実質所得が増えていないことがある。一方で経済財政諮問会議での指摘のように、20~40代の消費性向が他年代と比べて低い状況もある。この背景には、年齢が若いほど賃金水準の低い非正規雇用者が多く、正規雇用者でもかつてほど収入が伸びないため、消費抑制意識が強いことがある。また、若年層の消費実態で述べたように(*3)、現代の成熟した消費社会では、昔ほどお金を出さなくても質の高い消費生活を送ることができ、物質的欲求が低下している影響もある。

とはいえ、20~40代の家族形成期は消費が立ち上がり活性化する時期だ。この時期に消費が立ち上がらなければ日本の消費市場は膨らみにくい。消費社会の成熟化による影響はありながらも、希望する結婚や子育ての実現が進めば、自然に発生し持続的に拡大する消費もあるだろう。

また、共働き夫婦の増加により、個人の収入は上の世代より少なくても、世帯収入では比較的多い家庭もある。夫婦ともにフルタイムで働く「パワーカップル」は2016年に424万世帯で増加傾向にある(*4)。消費拡大に向けては育児と仕事の両立支援を進め、パワーカップルを増やすという方向もある。ただし、子育て世帯では将来の経済不安から、とにかく手元にお金を置きたいという意識が強く、世帯収入が減る中で貯蓄を増やしている状況もある5。よって、増えた収入を有意義な消費に向かわせるためには、社会保障制度の持続性確保など将来不安の解消もあわせて進める必要がある。

中核世代の経済基盤の安定化は日本の将来を考える上で急務だ。現在、政策も大きく動いており、今後は一定の改善が望めるだろう。一億総活躍プランで示された10年間の工程表を確実に達成するとともに、過渡期では生活者の状況を適切に把握し、臨機応変に計画を修正できるような体制も必要だ。

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(*3)久我尚子「若年層の消費実態(1)~」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2016/6~)http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53061?site=nli
(*4)総務省「労働力調査」にて、夫婦ともに週35時間以上就業の世帯数。
(*5)久我尚子「共働き世帯の消費実態(1)」」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/3/15)http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55270?site=nli
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久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

最終更新:5/18(木) 13:00

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