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トヨタがNVIDIAのAI技術を採用、Intelに焦りか

5/18(木) 11:41配信

EE Times Japan

■NVIDIA主催イベントで計画明かす

 NVIDIAは2017年5月10日、米国シリコンバレーで開催した同社主催のカンファレンス「GPU Technology Conference」で、トヨタ自動車がNVIDIAの自動車用AI(人工知能)プラットフォーム「Drive PX」を採用する計画であることを明らかにした。このプラットフォームは、市場投入が予定されている高度な自動運転システムの電力供給に用いられる。

【自動車向けAIプラットフォームにおけるNVIDIA、Intel-Mobileye連合と自動車業界との関係図】

 Linley Groupの主席アナリストであるMike Demler氏は、トヨタの計画について「大きな動きとなる可能性がある」と述べた。

 NVIDIAの自動車用AIコンピュータープラットフォームと、IntelとMobileye*1)によるプラットフォームの間で競争が起こりつつある中、勢いを付けつつあるのはNVIDIAだとみられる。

*1)Intelは2017年3月13日(米国時間)に、Mobileyeの買収を発表している。買収は2017年内にも完了する見込み。

 IHS AutomotiveのインフォテインメントおよびADAS部門でリサーチディレクターを務めるEgil Juliussen氏によると、自社の高度に自動化された自動車に、NVIDIAのDrive PXを採用することを公式に表明した大手自動車メーカーは、トヨタで4社目になるという。トヨタ以外の3社はAudi、Daimler、VW Groupであるので、世界の二大自動車メーカー(トヨタとVW)が名を連ねていることになる。

 加えて、これらの自動車メーカーよりも規模の小さいVolvo、Tesla、Nio(以前はNextEVとして知られていた)などの自動車メーカーも、既にNVIDIAのプラットフォームを採用している。また、Boschや ZFといったティア1サプライヤーも、NVIDIAのハードウェアプラットフォームを導入している。以上のことから、今後さらに多くのメーカーにも同様の動きが広がる可能性があるとJuliussen氏は考えているようだ。

 2017年5月10日、NVIDIA主催のカンファレンスに参加したDemler氏は、Fordの自動運転車部門であるArgo.aiが、「Deep Learning in Argo.ai’s Autonomous Vehicles(Argo.aiの自動走行車における深層学習)」というタイトルの発表を行ったことに言及した。

 Demler氏は、自動車産業がいまだレベル4やレベル5の自動走行車の開発において、極めて初期のステージにある点に留意することが重要であると警告した。特定のプラットフォームの“勝利”を宣言するのは時期尚早である、ということだ。一方のJuliussen氏は「他の自動運転車プラットフォームが出現する可能性もある」と述べた。

 とはいえ、今のところは、NVIDIAが勢いづいているのは明白である。

■トヨタの取り決め

 1年前の同カンファレンスでは、Toyota Research InstituteでCEOを務めるGill Pratt氏が登壇し、基調講演を行った。同氏はその中で、自動運転においてシミュレーションが鍵となる理由を強調していた。NVIDIAのGPUが電力を供給するプラットフォームを活用し、シミュレーションプログラムを開発することで、実世界で何兆マイル走ったとしてもめったに発生しないような事態に対処できるようにすることは、Toyota Research Instituteの研究チームの責務になっているのだという。

 膨大な量の実世界データからの拡張学習に対するシミュレーションを行わずに、何マイルも走行を重ねたところで、自動車産業が前述したようなエッジケースへの対処法を見つけられるはずはないと、Pratt氏は説明した。

 その後、NVIDIAは2017年5月10日に、トヨタとNVIDIAのエンジニアから成る開発チームが既に、NVIDIAのAIプラットフォーム上で高性能ソフトウェアの開発を進めていることを発表した。NVIDIAは、「トヨタ車の性能を高めることで、車載センサーによって生成される膨大な量のデータを把握し、自動運転車の広範な周辺環境に対応できるようにすることを目指していく」と述べている。

 Vision Systems Intelligence(VSI)の創設者であり主席アナリストを務めるPhil Magney氏は、EE Timesのインタビューに対し、「NVIDIAは、自動車関連のパートナー企業を増やしているが、その中には試験的なプログラムもあれば、既に製造段階に入っているプログラムもある。トヨタの場合は、Drive PXまたはそのエレメントを使用することによって、将来的に自動運転車のオートメーション化および安全性の向上実現を目指すという製造契約である」と述べている。

 またMagney氏は、「トヨタとの契約に関しては、オートメーション化よりも安全性の方が重視されているという印象を受けた」と付け加えた。

 同氏は、「AIを利用して自動車の安全性を向上させようとするトヨタの取り組みは、実に賢明な手法だといえる。AIは、潜在的な危険性のある状況に対して、判断を下すことができるためだ。自動車にもう一つの目と脳を持たせることにより、無数に存在する場面状況や、極めてまれなケースなども把握できるようになるだろう」と指摘する。

 さらに同氏は、「現在も、安全性が自動車の販売に寄与しているが、今後、隊列走行をベースとしたオートメーションが実用化されるまでの数十年間で、オートメーション機能や運転助手技術などのさまざまな技術が自動車に搭載され、その安全性は飛躍的に向上するだろう」と述べる。

 IntelもNvidiaに負けてはいない。同社の自動運転車部門でバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるKaty Winter氏は、2017年5月10日(水曜日)に声明を発表した。

 Katy Winter氏は、Intelがデータ関連企業であることを繰り返し主張しながら、自動運転車を90分間走行させる場合、4Tバイトを超えるデータを処理する上で何が必要なのかについて、議論を展開した。同氏は、「Intelは、自動車メーカーやティア1が膨大なデータに関する問題に対応していく上で不可欠な、一連の完全なソリューションを提供することができる、唯一の企業である。Intelのソリューションは、自動車内部だけでなくネットワーク、クラウド全体において、このようなヘテロジニアス(異質)なデータと連携しながら機能することが可能だ」と主張する。

 Intelはこれまで、自社の高性能自動運転車向けアーキテクチャについて詳細を明かしたことがなかったが、Winter氏は、「当社のCPUとFPGA、AIプラットフォーム、ソフトウェアソリューションは、既に微調整済みの状態にある。このため、完全な高性能自動運転車の生産開始に向けた取り組みを進めている、当社の自動車関連のパートナー企業からの特定要件にも、対応することが可能だ」と述べる。

 現在のところ、Intelのパートナー企業として広く知られているのは、同社が2017年初めに買収を発表したMobileyeだ。この他にも、BaiduやBMW、Delphi Automotiveなどが挙げられる。Winter氏は、他にもまだ公にはできないパートナー契約がいくつかあることをほのめかしながら、「現在既に、自動運転車の試験車が数多く路上を走行しているが、これらの自動車のトランクを開けてみれば、多くのIntel製品が採用されていることが分かるだろう」と述べている。

■なぜNVIDIAなのか

 多くの業界アナリストたちは、「なぜNVIDIAは、さまざまなパートナー企業を獲得することができるのか」とする疑問に対し、「自動車メーカーなどは、Intel-Mobileye連合の自動運転車プラットフォームが閉鎖的であることに尻込みしているためだ」と指摘する。

 Linley GroupのDemler氏は、「ティア1や自動車メーカーが、Drive PXを使用するための契約を締結しているのは、Mobileyeの閉鎖的なシステムよりも、Drive PXの方が優れた開発プラットフォームを提供してくれるからだ」と述べる。

 また同氏は、「Intelが、Mobileyeの買収手続きを完了させるまでには、今後まだ数カ月を要するだろう。現在のところ、開発からトレーニング、推論までをカバーするプラットフォームを提供できる競合企業は、1社もない。Intel-Mobileye連合が、CUDA-DNNやDrive PXなどに対応すべく、自社プラットフォームを開放するとは思えない」と述べている。

 Magney氏は、「Intel、Mobileye、BMWの3社が共同開発するプラットフォームは、NVIDIAの手法とよく似ているが、アーキテクチャが異なる」と指摘する。

 「現在、自動運転車スタックを可能な限り提供するという競争が繰り広げられているが、これはプロセッサメーカーによって主導されている。ほとんどの大手半導体メーカーは、半導体製造プロセス技術をどうこうするよりも、ハードウェアとソフトウェア、開発ツールから成るエコシステムを構築するための取り組みを進めている。どのメーカーも、ソリューションを構築すべく、ハードウェアやソフトウェアのコンポーネントや、開発ツール、シミュレーションなどを備えたプラットフォームを提供している」(Magney氏)

 またMagney氏は、「NVIDIAが、デザインウィンの獲得において他社をリードしているという点についても、同社がAIの民主化における市場リーダーとしての座を獲得しているという事実から説明がつく」と指摘する。

■AIに対する疑念

 ただ、ディープラーニングないしAIが、自動運転車にとって万能の解決策になるとは言い切れない。科学者たちは現在まだ、ディープラーニングがどのように機能するのかを説明することができず、安全性試験技術によって自動運転車の安全性を検証することが非常に困難であるためだ。

 Magney氏は、「自動運転車に搭載されているAIに関しては、その検証方法を巡る問題が残っていることから、現在もまだ懐疑的な見方がされている」と認めている。

 同氏は、「NVIDIAは、『推論モデルがなぜそのように推論するのかを正確に示すことはできなくても、レイヤーを分析すれば、ネットワークの起動要因を確認することは可能だ』と、慎重に説明している。推論モデルの中の問題を特定して、その重要性を調整し、シミュレーションによる試験を行うことで、その結果について検証できる」と述べる。

最終更新:5/18(木) 11:41
EE Times Japan