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量販店の売り場ごとに「電源タップ」が違っていたら要注意?

ITmedia PC USER 5/18(木) 14:22配信

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

 家電量販店に足を運ぶと、同じカテゴリーの製品が複数の売り場で販売されているのをよく目にする。電源タップであれば、照明器具のコーナーの他、PCアクセサリー売り場、さらにはAV機器コーナーなどでも販売されている。これ以外では電池、メモリカードなどもそうだ。さまざまな機器と組み合わせられる製品であればあるほど、ついで買いのニーズを狙って、複数の売り場で取り扱われるようになる。

 面白いのは、こうした製品の品ぞろえが、それぞれのコーナーごとに大きく異なる場合があることだ。例えば、照明器具コーナーではA社を中心とした品ぞろえで、B社とC社がそれを補完する形で並んでいるのに対して、PCアクセサリー売り場に行くとD社とE社の製品が拮抗(きっこう)していて、B社とC社の製品はチラホラ、A社の製品は影も形もない、といった具合だ。

 製品そのものに大きな違いはないにもかかわらず、わざわざ異なるメーカーの製品を取り扱うのは、一見すると非効率的にも思える。1社に絞って集中購買した方が、メーカーに対して仕入れ価格を下げるよう要求できそうなものだが、なぜそうしないのか。

 今回は、このように仕入先が複数に分かれがちな理由について、量販店側の事情を見ていこう。

●バイヤー制の浸透で他の売り場への口出しが難しく……

 家電量販店では、商品の仕入れを店が独自に行うことはまずなく、本部のバイヤーが行うのが常だ。

 バイヤーは売り場ごとに担当が分かれているのが一般的だが、PC関連のように本体、周辺機器、アクセサリーなど、カテゴリーが多い場合は、複数のバイヤーが担当を分担していることも珍しくない。PC本体はベテランのバイヤーが、周辺機器やアクセサリーは若いバイヤーが担当し、何年かたって新人が配属されれば若いバイヤーがPC本体担当に昇格する、といったケースを想像してもらうと分かりやすい。

 量販店の統廃合が進んだ現在ではほぼ見られなくなったが、かつては1人のバイヤーがPC関連のみならず、AV、カメラなど複数のカテゴリーを統括している時代があった。そのころは、ある製品を別の売り場でも展開してほしいというメーカーの要望は、比較的スムーズに反映されることが多かった。理由は簡単、どの売り場で売り上げても、同じバイヤーの利益になるからだ。

 しかし現在は、バイヤーの担当も細分化され、自分以外の担当の売り場には口を出しにくくなった。POSシステムが当たり前になったことで、定番品の在庫状況が細かく管理され、在庫が一定数を下回ると自動発注がかかるようにセットされたため、イレギュラーな製品を売り場に置くこと自体が難しくなった。バイヤーを通さず、店が独自で発注することも難しくなりつつある。

 また、量販店内で使用される製品マスターには、どの売り場で取り扱われる製品なのかを示すコードが付与されるようになったため、たとえ他の売り場から持ち込まれた製品を売っても自分達の売り上げにならなくなった(量販店によっては例外もある。念のため)。

 つまり、自分たちが仕入れていない製品を売っても成績につながらず、そればかりか自分たちの製品を並べるスペースが狭まるわけで、むしろ忌避されるようになった。これが90年代からこれまでの経緯だ。

●他の売り場と異なるメーカーの製品を選ぶ利点

 他の売り場と製品を融通することがなくなり、売り場単位(バイヤー単位)で仕入れが硬直化した状況下では、既に取引実績のあるメーカーは勢力を伸ばし、一方で実績のない新規メーカーは参入が難しくなる。

 その結果、別の売り場で陳列されている製品の方が明らかに機能豊富で価格がお得であっても、自分たちの売り場に加えることがなかなかできなくなる。これが、同じ製品カテゴリーであっても、売り場ごとに取り扱いメーカーが異なる主な理由だ。

 もっとも、致命的な機能差や価格差がないのなら、他の売り場とは異なるメーカーの製品をチョイスしておいた方が、何かと都合がよいこともある。

 1つは価格の変更がしやすいことだ。量販店は全店統一の製品マスターデータを持っており、チラシ商材として期間を区切って特価販売する場合は、それらのマスターデータに登録されている売価を変更する。このとき、同じ製品を複数の売り場で扱っていると、値下げの影響は他の売り場にも及んでしまう。同一店舗内で、同じ製品を異なる価格で販売するわけにはいかないからだ。

 しかし、PC売り場では価格を下げないと競合に勝てない製品でも、他の売り場ではそのままで十分に売れる場合もあるので、価格を一律で下げてしまうと、他の売り場で稼げるはずだった利益が吹っ飛んでしまいかねない。事前に連絡があろうがなかろうが、他の売り場の都合による価格変更で、あらかじめ売り上げ計画に織り込んでいた売り上げと利益が失われるのは、納得がいかないことだ。

 その点、自分たちの売り場でしか販売されていない製品であれば、他の売り場に気を使わずに価格を変更でき、また他の売り場の意向によって強制的に価格を変更される危険もない。売り上げの計算が立てやすくなり、トラブルも起こりにくいというわけだ。

 もう1つ、他の売り場の取り扱い製品と区別しやすいのも利点だ。客の中には、よその売り場に陳列されている製品をわざわざ持ってきて比較し、不要な製品をその場に放置する迷惑な客がいる(食品売り場で目にしたことがある人も多いだろう)。その結果、棚卸しの際に一方の売り場では存在しないはずの製品が在庫として計上され、もう一方の売り場ではまだあるはずの在庫が存在しない、といった現象が発生する。

 量販店の棚卸しでは、万引きなどによって在庫数が帳簿よりも少ないことは想定していても、帳簿上の在庫数を実在庫が上回ることは想定しておらず、処理も面倒になる。しかし、他の売り場とは別のメーカーから製品を仕入れていれば、他の売り場から製品が持ち込まれたり、また持ち出されたりしても、ひと目で分かるというわけだ。

 また、これは一般的な購買の常識だが、複数のメーカーから仕入れを行っておけば、そのメーカーの対応力を試すことができるし、メインで取り扱っているメーカーが長期的な欠品を発生させるなど、何らかの不手際によって取引が難しくなった場合に、代替となり得るので安心だ。

 類似した製品を売り場にズラリと並べるのは非効率的なので、売り場ごとに仕入先を変えれば、万事丸く収まるというわけである。

●「消極的なラインアップ」に気を付けるべし

 もっとも実際には、同じ製品が複数の売り場にまたがって販売されることもないわけではない。

 よくあるのは、それぞれの売り場のバイヤー同士が単純に仲がよく、情報を交換し合っているケースだ。一般的にバイヤーにとって、他のカテゴリーのバイヤーはライバルに他ならない。露骨に足を引っ張り合うことはないにしても、情報の共有はなるべくしたくないのが普通だ。

 しかし仲のよいバイヤー同士であれば、こうした利害関係を抜きにして、売れ筋製品の仕入先などの情報を共有し、一方の売り場でよく売れている製品を自分の売り場にも導入することがある。納入業者の側から、別の売り場にも置かせてほしいという要望があった場合も、バイヤー同士の仲がよければ、紹介してもらえるケースも少なくない。

 トップダウンによって見直しがかかるケースもある。上記のようにバイヤー同士というのはライバルにあたるため、社内で全く別の事業部のような関係にあることも多い。結果として、売れ筋製品の共有が行えず、一方の売り場には明らかに死に筋のアイテムが並んでいることが起こりうる。量販店全体の利益から考えると由々しき事態だが、会社の体質としてそれが当たり前になっていることも多く、なかなか発覚しないのが常だ。

 しかし、たまたま取引先のメーカーが、取締役や営業部長クラスの人間を通じて「別の売り場にもうちの製品を置いてほしい」と依頼したり、あるいは密な協業体制を整えたことで、こうしたラインアップにメスが入ることがある。

 店全体をコーディネイトするという意味では日ごろから行われていて不思議ではないのだが、社内でおかしなライバル意識がある量販店では、メーカーからの申し入れのようなきっかけがないと、なかなかこうした改善につながらないことが多い。

 以上のように、複数の売り場で売られているようなカテゴリーの製品は、それがベストな選択ではなく、上記のように状況に流された結果として選ばれた、消極的なラインアップという場合がある(必ずそうというわけではない)。そのことを念頭に置いておけば、ユーザーとしてもおかしな製品をつかまされるのを回避しやすくなるはずだ。

最終更新:5/18(木) 14:22

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