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みなさんもローザに会いに来ませんか

スポニチアネックス 5/18(木) 11:00配信

 【川田一美津の何を今さら】女優の五大路子さんのひとり芝居「横浜ローザ」をご存じだろうか。フリルのドレスに歌舞伎役者のような白塗りの顔、横浜の街にいつまでも立ち続けた「ハマのメリーさん」。その実在した娼婦の波乱に満ちた生涯をドラマチックに描いた舞台だ。横浜生まれの五大さんが、20数年前、偶然、港近くの通りで彼女を見かけた。その瞬間、「あなたは私の生き方をどう思うの」といきなり胸ぐらをつかまれたような大きな衝撃を受け、なぜか彼女のことが気になって頭から離れなくなった。

 それ以来、メリーさんが出入りする店、立ち寄る場所、老娼婦のことを知る人たちのもとへ何度も通い、その素顔に触れようとした。彼女に近づけば近づくほど驚きと感動で体中が震え出した。命をただの紙切れのように扱う戦争、焼野原の街、米兵の恋人との突然の別離、孤独、貧困、差別など、次々に襲いかかる苦難にも負けず、己の生き方を貫いた女性の人生を垣間見た。「このまま時代の波に埋もれさせてはいけない」。そんな強い思いから21年前、劇作家の杉山義法さんと力を合わせ、作り出したのが、この「横浜ローザ」である。

 敗戦国にこんな強い日本人女性がいた。その事実を戦勝国アメリカの人たちはどう思うだろうか。一緒に舞台を立ち上げた、今は亡き杉山さんと夢見たニューヨーク公演も一昨年4月、実現することができた。その時、予期せぬ出来事が起きた。終演後、1人の少女から素敵な言葉をプレゼントされたのだ。「どんな苦しいことにも負けずに生き抜いたローザは、私のヒーローです」。その大きな瞳からは止めどなく涙があふれていた。「そうか、若い人たちはローザをこんな風に見てくれるんだ」。この世にあってはならない殺戮や憎しみ。いつも平和を願って演じるローザは、実は客席1人1人へさまざまなメッセージを伝えていたのだ。

 大切なことを米国の少女から教えられた。五大さんは、今、小中高校や大学へ出向き、本や映像などを使ってローザの生き様を伝え、学生たちと反戦、平和を語り合う活動をしている。芝居を見てもらった後に、再度、感想を述べ合ったり、紛争が絶えない世界情勢のことなどを討論する。五大さんのもとには、「これから1日1日を大切に生きて行きたい」「何をすればよいかと悩んでいた自分が恥ずかしい」など、観劇した若者からいろいろな声が届けられている。

 それにしても、なぜローザは年老いても化粧をして街角に立っていたのだろうか。演じている五大さん本人にも、それは分からないという。「その答えを求めてこれからもずっと舞台に立ち続けたい」。これもひとつの運命の出会いなのか。ローザの姿を追い求めることが、いつしか五大さん自身の自分探しの旅になった。

 「横浜ローザ」は5月26日から30日まで、横浜赤レンガ倉庫1号館ホールで上演される。 (専門委員)

 ◆川田 一美津(かわだ・かずみつ)立大卒、日大大学院修士課程修了。1986年入社。歌舞伎俳優中村勘三郎さんの「十八代勘三郎」(小学館刊)の企画構成を手がけた。「平成の水戸黄門」こと元衆院副議長、通産大臣の渡部恒三氏の「耳障りなことを言う勇気」(青志社刊)をプロデュース。現在は、本紙社会面の「美輪の色メガネ」(毎月第1週目土曜日)を担当。美輪明宏の取材はすでに10年以上続いている。

最終更新:5/18(木) 11:00

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