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八ッ場ダム建設にうごめく地方政治家たち 巨額工事費にみた公共事業の裏側

SankeiBiz 5/18(木) 8:03配信

 新緑の木漏れ日の中、切り立った崖に挟まれた急流が見える。大分県の耶馬渓(やばけい)と並び称される群馬県の吾妻渓谷(あがつまけいこく)である。渓谷沿いの細道を、ゆっくり10分ほど登っていくと、視界が一気に開けて巨大な構造物が目に飛び込んでくる。

 群馬県長野原町で建設が進んでいる「八ッ場(やんば)ダム」である。民主党が2009年に政権交代を成し遂げた衆院選のマニフェスト(政権公約)に工事の中止を盛り込み、いったんは公約を実現しようとしたが、11年末に工事の再開を決めた。本体工事はいま、3年後の完成を目指して、高さ約116メートル、堤長約290メートルの基盤部分が立ち上がりつつある。

 国土交通省は「やんばツアーズ」と銘打って、旅行会社が主催する「インフラツーリズム」を受け入れている。大手の旅行会社のツアーは40人の定員が既に埋まっていたので、地元のバス会社のツアーに参加した。

 国交省関東地方整備局の八ッ場工事事務所の見学者向けの事務所でまず、ダム計画の概要について、女性の職員からスライドを使った説明を受ける。

 計画の調査が1952年に始まったきっかけは、この年の5年前に関東を直撃したカスリーン台風による甚大な被害だった。利根川と鬼怒川などの氾濫によって、東京を含む関東一円で30万戸が被害に遭い、死者は約1100人に上った。ダムは利根川の水量調整のために、支流の吾妻川に立地することにした。さらに、高度経済成長時代に首都圏の水不足に対応する目的が加わった。

 調査開始から、完成予定まで68年間。日本のダム工事としては最長の期間をかけ、工事の費用は、鉄道や道路の付け替え、水没する地区の移転など、幾度も上積みされて過去最大の計約5320億円になった。

 国や県の工事関係者も、地元の人々も二世代を超えてかかわったダムは、公共事業の在り方を長編小説のような物語でつづってきたといえるだろう。

 建設反対の立場から嶋津暉之氏、清澤洋子氏共著の「八ッ場ダム」(岩波書店)や作家の鈴木郁子氏の「新版 八ッ場ダム」(明石書店)など、優れた著作を生んだ。両著に共通するのは、建設計画が明らかになると、計画の遂行に向けてうごめく政治家たちと、彼らに翻弄される地元の住民たちである。

 経済学者の伊東光晴・京都大学名誉教授が、鈴木氏の著作を評価する一つの点は、国と県の公共事業を受注した業者は工事費の0.1%を、地方自治体の工事の場合は0.05%を自民党の支部に献金している、としていることである。「自民党の地方政治家がなぜ公共事業誘致に熱心なのかが分かる」と、伊東教授は述べている。

 東京都の豊洲新市場の総事業は、八ッ場ダムに劣らない6000億円近く。新国立競技場の当初の建築家、ザハ氏の案では最大3000億円になったと推定されている。

 「ゼロ金利下ではマネーの供給を増やしても効果はない。財政の拡張が有効である」とする「物価水準の財政理論(FTPL)」に関心が集まるいま、八ッ場ダム・インフラツーリズムに参加して、公共事業の裏側について考えてみるのもいい。

【プロフィル】田部康喜

 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。62歳。福島県出身。

最終更新:5/18(木) 8:03

SankeiBiz