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アカデミー賞作品100本レビュー(6):嵐が過ぎ家族の絆が見直される

Stereo Sound ONLINE 5/18(木) 12:30配信

アカデミー賞は世相を反映する

 1929年、第1回目の授賞式が行なわれたアカデミー賞。同賞の受賞/ノミネート作品は世相を反映することが多いため、その歴史を紐解けば、同時にアメリカがどのような変遷を辿ってきたかが浮かび上がるのではないでしょうか?

 そこで、Stereo Sound ONLINEで「映画の交叉点」を連載中の久保田明さんが、これまでアカデミー賞を受賞、もしくはノミネートされた映画の中から国内盤Blu-ray / DVDになっている作品を100本を選択。その時々の時代背景を踏まえつつ、アカデミー作品について語ります。

(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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 10年以上に及んだベトナム戦争で疲弊し、不況にあえいでいた1970年代終わりのアメリカ。傷ついた帰還兵を迎え入れ、地域を、社会をどう再建するかが当面の課題だった。

 その土台となる“家庭“を扱うホームドラマに秀作が目立った時期。反戦運動の闘士でもあったジェーン・フォンダが長年不仲だった父親ヘンリー・フォンダとの関係修復を願い、ブロードウェイのヒット戯曲の権利を買い取って映画化した『黄昏』(1981年)も話題になった1本だ。

 湖畔の別荘を舞台にした、偏屈な父親(ヘンリー)とバツイチの娘(ジェーン)の愛情回復劇。第13回(1941年開催)に『怒りの葡萄』で主演男優賞にノミネートされて以来アカデミー賞とは縁のなかったヘンリー・フォンダは、この老いた父親役で主演男優賞を獲得。第54回授賞式(1982年開催)ではジェーンが代わりにオスカー像を受け取り、病床に伏せていた父親に“パパを心から誇りに思うわ。待ってて、すぐ報告に行くから!“とメッセージを送った。――父も娘も共に齢を重ねたということだろう。

 ヘンリー・フォンダはこの『黄昏』を遺作に、5ヶ月後に77歳で永眠。『荒野の決闘』(1946年)や『十二人の怒れる男』(1957年)の名演でノミネートさえなかったのが不思議に思える。アカデミー会員が演出した人生の幕引きだった。


【クレイマー、クレイマー】(1979)
第52回:1980年4月14日授賞式開催
■監督:ロバート・ベントン
■出演:ダスティン・ホフマン/メリル・ストリープ
■アカデミー賞:
<受賞>
作品賞/主演男優賞/助演女優賞/監督賞/脚色賞
<ノミネート>
助演男優賞/撮影賞/編集賞
種類:Blu-ray
価格:2381円(税別)
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

激動の季節を経て、家庭がつかのまの安らぎの場所に。それが求められた時期に、アメリカの離婚率が過去最高を記録したのは皮肉なことだった(1979年~81年。人口千人当たり5.2組。半数を越える夫婦が別れる)。女性の経済的自立など理由はいろいろ言われたが、以降、離婚率は緩やかに下がっている。

そんな時代に話題を呼んだヒット作。妻(メリル・ストリープ。助演女優賞受賞)に突然逃げられた男(ダスティン・ホフマン。こちらは主演男優賞)の涙ぐましい奮闘を描く。ノミネートのみに終わったが、都会の片隅の情景をナチュラルに捉えた名手ネストール・アルメンドロスのカメラが素晴らしい。


【リトル・ロマンス】(1979)
第52回:1980年4月14日授賞式開催
■監督:ジョージ・ロイ・ヒル
■出演:ダイアン・レイン/テロニアス・ベロナール/ローレンス・オリヴィエ
■アカデミー賞:
<受賞>
作曲賞
<ノミネート>
脚色賞
種類:DVD
価格:1429円(税別)
販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

パリの街で出会った米国人の少女ローレン(ダイアン・レイン)とフランス生まれの少年ダニエルの恋。『明日に向って撃て!』(1969年)、『ガープの世界』(1982年)など秀作が多いジョージ・ロイ・ヒル作品のなかでも最も可憐でヴィヴィッドな1本だ。

ハイデッガーの哲学書を読む13歳の少女に寄り添う調べ。作曲賞に輝いたジョルジュ・ドルリューは『突然炎のごとく』(1961年)や『私のように美しい娘』(1972年)などフランソワ・トリュフォー映画の魅惑に大きく寄与したフランス映画界の名匠。『プラトーン』(1986年)で劇伴を依頼したオリヴァー・ストーン監督などハリウッドにも敬愛者が多い。


【ワイルド・ブラック/少年の黒い馬】(1979)
第52回:1980年4月14日授賞式開催
■監督:キャロル・バラード
■出演:ケリー・レノ/ミッキー・ルーニー
■アカデミー賞:
<受賞>
特別業績賞
<ノミネート>
助演男優賞/編集賞
種類:DVD
価格:1695円(税別)
販売元:20世紀フォックスホームエンターテイメント ジャパン

バーネット女史原作の『秘密の花園』(1993年)など、フランシス・フォード・コッポラはたまに罪滅ぼしのように、あるいはそれが持ち味のひとつであるかのように珠玉のファミリー・ピクチャーを製作する。孤島に流れ着いた少年と荒馬の友情をつづったこの作品もそう。このあと『ネバー・クライ・ウルフ』(1983年)や『グース』(1996年)といった動物ドラマの佳作を発表するキャロル・バラードの監督デビュー作である。

カメラマン出身のバラードが撮影監督に起用したのは『ライトスタッフ』(1983年)、『ナチュラル』(1984年)のキャレブ・デシャネル。これぞ映像詩と呼ぶにふさわしい世界が広がる。国内盤がDVDのみなのが残念。4Kリストアされた米国クライテリオンのブルーレイ・ディスクは大名盤だ。


【地獄の黙示録】(1979)
第52回:1980年4月14日授賞式開催
■監督:フランシス・フォード・コッポラ
■出演:マーロン・ブランド/マーティン・シーン/ロバード・デュバル
■アカデミー賞:
<受賞>
撮影賞/音響賞
<ノミネート>
作品賞/助演男優賞/監督賞/脚色賞/美術監督・装置/編集賞
種類:Blu-ray
価格:1886円(税別)
販売元:NBCユニバーサル

サーフィンに興じるために焼き払われる村と密林! 世界の終わりを告げるレイ・マンザレク超絶のオルガン・プレイ! ベトナム戦争というフィルターの向こうに、人間の狂気と混乱を焼きつけた戦争映画の大野心作。ザ・ドアーズのジム・モリソン、マンザレクとコッポラ監督はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)映画学科の同窓生だった。自身の、アメリカの1960~70年代を封印するためにも名曲“ジ・エンド”の使用は必須だったのだろう。

コッポラの執念と現場の大混乱を妻のエレノアが記録したドキュメンタリー、『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(1991年)も一見に値する出来映えだ。


【チャイナ・シンドローム】(1979)
第52回:1980年4月14日授賞式開催
■監督:ジェームズ・ブリッジズ
■出演:ジェーン・フォンダ/ジャック・レモン/マイケル・ダグラス
■アカデミー賞:
<ノミネート>
主演男優賞/主演女優賞/脚本賞/美術監督・装置
種類:Blu-ray
価格:2381円(税別)
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

TV局の女性キャスター(ジェーン・フォンダ)とカメラマン(マイケル・ダグラス)が疑う原子力発電所の安全性。無闇に危険を煽っているという批判も出たが、米国公開12日後の1979年3月28日に、ペンシルバニア州のサスケハナ川にあるスリーマイル島原発で史上初のメルトダウン事故が起った。

電力会社上層部の欺瞞を告発する技師を演じたジャック・レモンは、ジェーン・フォンダと共に主演男女優賞候補に。傾いた工場の経営者役で主演男優賞を獲得した『セイブ・ザ・タイガー』(1973年、本邦劇場未公開)、ビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵貸します』(1960年)など、中年男の悲哀を演じさせるとやっぱり上手い!


【グロリア】(1980)
第53回:1981年3月31日授賞式開催
■監督:ジョン・カサヴェテス
■出演:ジーナ・ローランズ
■アカデミー賞:
<ノミネート>
主演女優賞
種類:DVD
価格:1410円(税別)
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『フェイシズ』(1968年)、『こわれゆく女』(1974年)などの名作を世に送り、おしどり夫婦として敬愛されたジョン・カサヴェテス演出、ジーナ・ローランズ主演の活劇ドラマ。6歳のプエルトリコ少年をかくまい、組織に追われる中年女グロリア(ローランズ)のガッツをニューヨーク下町の色彩のなかに描く。なんていうことはない設定だけれど、ほかに似た作品がないという奇跡の一作である。

シャロン・ストーン主演で1999年にリメイク。ローランズの貫禄には太刀打ちできず、予想通り爆死してしまった。シャロンは好きな女優さんなんだけどなあ。


【プライベート・ベンジャミン】(1980)
第53回:1981年3月31日授賞式開催
■監督:ハワード・ジーフ
■出演:ゴールディ・ホーン/アイリーン・ブレナン
■アカデミー賞:
<ノミネート>
主演女優賞/助演女優賞/脚本賞
種類:DVD
価格:1410円(税別)
販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

ビックリお目々にブロンドヘア。『続・激突!/カージャック』(1974年)や『ファール・プレイ』(1978年)のコメディエンヌ、ゴールディ・ホーンが製作総指揮を兼任した快作コメディ。前半は男運の悪いお嬢様ホーンのハチャメチャ軍隊奮闘記。後半はそれを笑いで踏まえた女性自立映画。鬼女性指揮官役のアイリーン・ブレナン(『スティング』)ともども主演&助演女優賞候補になったが、受賞は適わなかった。残念。

キャメロン・ディアスやリース・ウィザースプーン。ゴールディを継ぐコメディエンヌのさらなる活躍、登場に期待をしたいもの。


【普通の人々】(1980)
第53回:1981年3月31日授賞式開催
■監督:ロバート・レッドフォード
■出演:ドナルド・サザーランド/メアリー・タイラー・ムーア
■アカデミー賞:
<受賞>
作品賞/助演男優賞/監督賞/脚色賞
<ノミネート>
主演女優賞
種類:Blu-ray
価格:1905円(税別)
販売元:20世紀フォックスホームエンターテイメント ジャパン

傷つき彷徨う人々に再生のときは来るのか。長男の水死事故をきっかけに崩れてゆく一家の姿を繊細なタッチで捉えたロバート・レッドフォードの演出デビュー作が、作品、監督ほか計4部門受賞を果たした。普段のアクの強さを抑えた父親役のドナルド・サザーランドや、喜劇女優の気配を完全に消し去り母親を演じたメアリー・タイラー・ムーア。俳優の見事なアンサンブルがいまも静かな感動を呼ぶ。


【今回のこぼれ話】
1981年1月、合衆国大統領が民主党のジミー・カーターから共和党のロナルド・レーガンに代わる。元B級映画の俳優で実務能力に疑問をもたれていたレーガンは当初大衆の人気もそれほどではなかったが、そんななか、同年の3月30日、ワシントンD.C.で、当時25歳の白人青年ジョン・ヒンクリーによる大統領狙撃事件が起こった。

ヒンクリーは『タクシードライバー』(1976年)の熱狂的ファンで、そこで少女売春婦を演じていたジョディ・フォスターに恋い焦がれストーカー行為をつづけていた男。前年暮れに起きたジョン・レノン暗殺事件にも影響され、大統領を襲って自分がジョディに相応しい男であることを証明しようとしたといわれる。

左胸に被弾したレーガンは、病院の手術室で執刀医に「君たちが共和党員であるといいんだがね」と軽口を飛ばし、また後日の遊説中に風船が破裂し周囲が騒然としたときには「ヤツがまたしくじったぞ」と発言して聴衆を沸かせた。

タフで、どんなときもユーモアを忘れぬ男。アメリカ人好みのヒーロー像に合致したレーガンの人気は急上昇し、レーガノミクスと呼ばれた経済再建計画の推進力ともなった。

狙撃事件が起きた1981年3月30日は、奇しくも第53回のアカデミー賞授賞式当日だった。式典は1日延期され、翌31日に開催されている。

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<久保田明 プロフィール>
映画ファンから絶大な人気を誇った伝説の情報誌「シティロード」の編集を経て、フリーランスに。以後さまざまな媒体に登場し、その深い考察で読者を唸らせている。Stereo Sound ONLINEで「映画の交叉点」を連載中。また、月刊HiViのソフトページ「VIDEO SOFT VIEW」コーナーで、LD時代から20年以上にわたり活躍している。

Stereo Sound ONLINE / 久保田明

最終更新:5/22(月) 14:05

Stereo Sound ONLINE