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<工藤会公判>通信傍受 証拠採用の経緯で評価が割れる

毎日新聞 5/19(金) 8:01配信

 福岡地裁で係属中の特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)系組幹部の公判で、福岡県警が通信傍受した携帯電話の通話記録が証拠採用された経緯について専門家の評価が割れている。通話記録は別の事件捜査を目的に傍受されており、一部の専門家は証拠採用自体を疑問視しているためだ。「共謀罪」の成立要件を絞った「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡って通信傍受の範囲拡大が懸念される中、今後の通信傍受の運用について議論を呼びそうだ。

 組幹部は、工藤会が起こしたとされる一般人襲撃事件に関与したとして、組織犯罪処罰法違反などに問われた中田好信被告(41)。証拠採用された通話記録には、2013年の看護師刺傷事件で別の組幹部らが準備状況や襲撃を報告するやり取りが残り、検察側は公判の争点である事件の組織性を立証する重要な証拠と位置付ける。

 捜査関係者らによると、県警は12年の元県警警部銃撃事件の捜査で、通信傍受法に基づき複数の組幹部らの携帯電話の通話内容を傍受。この際に看護師刺傷事件についてのやり取りを聞いたが、隠語が使われて詳しい状況は分からなかったため、捜査員は手元の傍受記録に残さなかった。

 しかし、その後の捜査で、看護師刺傷事件に関する重要な会話が含まれている可能性があると判断。全ての傍受内容を残した原記録は裁判所に保管されているが、傍受目的以外の事件捜査のための閲覧はできないため、元警部銃撃事件の捜査名目で閲覧を請求。裁判所の許可を得て調べ、看護師刺傷事件に関する会話を確認した。

 検察側はこうして入手した通話記録63点を看護師刺傷事件の証拠として請求。弁護側が争わなかったため地裁は証拠採用した。地検幹部は「看護師刺傷事件の指揮命令系統が分かれば元警部銃撃事件の組織性の立証につながる。両事件に関連性があるため適法な証拠収集になる」と話す。

 一方、専門家からは慎重な運用を求める声が上がる。関西学院大法科大学院の川崎英明教授(刑事訴訟法)は「傍受した目的の事件と少しでも関連性があれば別事件の証拠にできるなら、傍受の乱用を防ぐ要件を定めた通信傍受法の趣旨から逸脱する」と批判。村井敏邦・一橋大名誉教授(刑事法)は「組織犯罪処罰法改正案が通れば将来的に通信傍受が活用される可能性はある。違法な証拠収集を防ぐためにも、安易に関連性を認めるべきではない」と指摘する。

 元検察官で西南学院大法科大学院の小野寺雅之教授(刑事訴訟法)は「令状請求した事件とは別の事件でも相応の関連性があれば原記録の閲覧や複製を認め、証拠としても使えなければならない。関連性の有無は公判を通じてチェックされればいい」と話す。

 ◇通信傍受

 他の捜査手法では容疑者の特定ができない場合などに限定し、裁判所の令状に基づき電話や電子メールなどを傍受できる。2000年8月の通信傍受法施行時の対象犯罪は薬物や組織的殺人など4類型だったが、法改正を受け昨年12月から新たに詐欺や窃盗など9類型が加わった。傍受対象者には後日、傍受した日時や容疑を通知する義務があるが、捜査に支障があれば延期できる。警察庁によると、同法施行から昨年12月末までに通信傍受を実施した事件は計120件。



 ◇通信傍受された看護師刺傷事件に関する主なやりとり

2013年 1月16日  犯行が来週に延期になった

             (組幹部A→組幹部B)

        22日  「実行者が看護師を見ていないので現物を見せておきたい」

             (組幹部B→組幹部A)

        27日  看護師が乗る新幹線の時刻を伝える

             (組幹部C→組幹部A)

  (事件当日)28日昼 決行日と告げる

             (組幹部A→組幹部D)

             現場に一緒に行こうと誘う

             (組幹部A→組幹部E)

         同日夜 事件が終わったことを報告

             (組幹部A→上層部)

        29日  報酬配分について話す

             (組幹部A→上層部)

*いずれも検察側の主張に基づく携帯電話の通話内容

最終更新:5/19(金) 8:01

毎日新聞