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0.05mmの組み込みずれも許さない ―― カシオ新型G-SHOCK搭載モジュールでの挑戦

EE Times Japan 5/19(金) 11:48配信

 海外に行く時、腕時計の時刻調整を煩わしく思ったことはないだろうか?筆者には、空港で時刻を合わせたはずが、鉄道に揺られているうちにタイムゾーンを超えてしまい、下車時刻を間違えたという苦い経験がある。しかし、時刻を完全に自動で調整してくれる最新の腕時計を手に入れれば、そのような煩わしさから解放されるかもしれない。

【「Connected エンジン 3-wayの構成要素」などのその他の画像はこちら】

 カシオ計算機(以下、カシオ)は2017年5月19日、「G-SHOCK」の新製品として「GPW-2000」を発売する。航空コンセプトの「GRAVITYMASTER」シリーズの最新モデルになる。本製品の目玉は、3つの時刻取得システムを搭載したことだ。このシステムを実現するために開発されたのが、新世代モジュール「Connected エンジン 3-way」である。GPW-2000の“肝”ともいえる同モジュール。従来品のモジュールとの違いはどのような点にあるのだろうか。開発者に話を聞いてみた。

■“地球上に死角なし”の完全自動腕時計を目指して

 日本で時刻合わせに用いられている最も一般的な手法が標準電波の受信だ。国内では、2カ所ある電波塔から電波が発信されており、その電波を受信することで正確な時間を時計に反映できる。しかし、海外では電波塔のない地域も多く、そうした地域への渡航した際には、正しい時刻に合わせられない、という弱点があった。

 そのため、カシオは、2014年より標準電波に加えてGPSの衛星電波を受信する機能を追加し、標準電波とGPS衛星電波の2つを受信できるようにした。これにより、どこにいても正しい時刻を自動で調整できる時計が完成したかのように思われた。しかし、開発者たちはこれで満足しなかった。

 タイムゾーンが1つしかなく、しかもサマータイムのない日本で暮らしているとあまり実感がわかないが、実は世界の他の国や地域では、政治情勢などの影響で頻繁にタイムゾーンやサマータイムの変更が行われている。カシオの電波時計には、都市のタイムゾーンとサマータイムの情報をプリセットしてあるが、これらの情報は書き換えることができなかった。そのため、その時計を発売した後にタイムゾーンやサマータイムの変更ががあっても、自動で時刻を合わせることができなかったのである。

■3つの時刻取得システム

 その課題を克服するため、GPW-2000には、標準電波とGPS衛星電波の受信に加え、スマートフォンをBluetooth Low Energy(BLE)で接続し、スマートフォンを経由してタイムサーバに接続する3つの時刻取得システムを採用。タイムサーバからの情報に基づいて時刻を自動的にアップデートするという方法だ。これにより、標準電波+GPSのハイブリッドシステムよりも、最新のサマータイムを反映した、より正確な時刻に、自動的に調整できるようになる。

 カシオが初めてBLE対応のG-SHOCKを発売したのは2012年。この製品は時刻取得にスマートフォン本体の時刻データを使用していた。2016年発売の製品からはスマートフォンを経由してタイムサーバに接続するため、スマートフォンの性能に依存しない分、より正確な時刻を獲得できるようになったという。タイムサーバには1日4回、自動的に接続され、時刻の調整が行われる。

■新モジュールの開発は、部品点数との戦い

 このように3つの方法で時刻を取得することを可能にしているのが、Connected エンジン 3-wayだ。遮光分散型ソーラーパネル、標準電波受信アンテナ、GPS受信システム、BLEアンテナ、小型モーター、耐磁板などで構成されるモジュールである。

 時刻取得のための方法が1つ増えることは、同モジュールの設計面で大きな課題を生んだ。

 カシオ 時計事業部 モジュール開発部 実装開発室の横尾一将氏は、Connected エンジン 3-wayの開発において最も苦労したことの1つは、部品のレイアウトだと語る。「部品点数が、ほぼ2倍になった」(同氏)からだ。「標準電波のアンテナ、GPSのアンテナ、BLEのアンテナが互いのアンテナ性能に影響を及ぼすため、その影響を最小限に抑えるように配置する必要があった。加えて、モーターやLEDなど時計としての一般的な機能を実現するための部品も多数ある。これらを基板上でどう配線していくかということに、非常に気を配った。試作を何度も繰り返した」(横尾氏)

 結果的に、従来品では1枚だった基板が2枚になった。それぞれの基板の形を工夫し、GPSアンテナと二次電池を平面的に実装することで、モジュールの薄型化を図った。モジュール厚は従来比で10%薄型化している。

 さらに、時計の針を動かすモーターの数が増えたことも、設計の難易度が上がる要因となった。前世代品では5個だったものが、6個となったのだ。しかも、針の位置はデザインが仕上がった時に既に決定しているので、モーターを配置できる場所が限定されてしまう。その上、日車の外側に位置しモードや経度を示すディスク針を高速に回転させるために、6個のモーターのうち2個はデュアルコイルモーターを使う必要があった。デュアルコイルモーターは、1個のモーターにつきコイルを2個使うので、部品点数がさらに増えることになる。

 横尾氏の言葉通り、Connected エンジン 3-wayの開発は、部品点数との戦いであった。

■GPS受信システムを従来比4分の1に低消費電力化

 GPS受信システムにも改良を加えた。最大の特長は、消費電力を従来の4分の1に抑えた点である。GPSシステムの開発を担当している時計事業部 モジュール開発部 第一開発室の尾下佑樹氏は、GPS受信ICはソニー製だが、「単にそのまま搭載するのではなく、より省電力化を図れるよう詳細な点で打ち合わせを重ねた」と話す。受信IC周りの設計を最適化したり、受信ICを駆動するファームウェアをカスタマイズしたりするなど、細かい改善を繰り返した。

 「こうした調整を重ねることで、低消費電力化を図った。GPSアンテナについても何度も試作を重ね、従来と同じ感度を維持しつつ、体積は従来比で20%低減している」(尾下氏)。これにより、既存品で使用しているコイン型リチウム二次電池(CLB2016/サイズ=直径20mm、高さ2.0mm)ではなく、小型二次電池(CTL1616/サイズ=直径16mm、高さ1.6mm)を使えるようになった。「CTL1616はCLB2016よりも低電圧で駆動できるので、ソーラーパネルで受光したわずかな光で充電できる。そのため、ソーラーパネルの上に配置する文字盤の透過率をあまり気にしなくてもよくなり、文字盤の色においてデザインの制約も少なくなった」(尾下氏)

■0.05mmのずれも許されない、耐磁板の配置

 GPW-2000では新たに耐磁板も搭載した。3種の通信機能に影響を及ぼさないよう耐磁板の配置を工夫することで、日常生活に求められる耐磁性能(JIS1種耐磁性能)を実現している。

 実は、この耐磁板も開発チームを悩ませた。

 Connected エンジン 3-wayは、極めて高密度に部品を実装したモジュールだ。「耐磁板は、外部からの磁場を吸収しても、モーターの磁場まで吸収してはいけない。部品同士が密着している中、いかに効率よく外部からの磁場を吸収できるように耐磁板を設置するかが、難しかった」と横尾氏は説明する。最も効率よく磁場を吸収するには、「たった0.05mmでも耐磁板がずれることは許されない」(横尾氏)。(直径が0.08~0.1mmとされる)髪の毛1本分すら、ずれることが許されないのである。

 そのため、設計やレイアウトもさることながら組み立てや検査も容易ではない。GPW-2000は、カシオのマザー工場である山形カシオで製造される。山形カシオでは、カシオが国外に所有する工場に比べて、よりハイエンドなモデルを製造している。その山形カシオからも「従来品よりも製造に膨大な時間がかかる」と、ちくりと言われたこともあったという。

 横尾氏は、部品のレイアウトや製造を少しでも容易にするために、「モジュールのサイズをコンマ数ミリでもいいから大きくできないか」と提案したという。「それを断り続けました」と語るのは時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室の小島直氏だ。時計としてのデザインに関わってくるところなので、「やはりそこは、こだわりたかった」と言う。どれだけ開発に苦労するとしても、使い勝手やデザインを含めた“時計としての完成度”に対する意識は、チーム全員が一致していた。「同じモノを目指していたからこそ、Connected エンジン 3-wayを完成することができた」(小島氏)

■見て楽しみ、ワンタッチで操作する

 カシオは、Connected エンジン 3-wayを搭載したモデルを、GPW-2000の他、電波ソーラーウォッチのフラグシップ製品である「OCEANUS(オシアナス)」(型番:OCW-G2000)でも展開する。これら2モデルの発売に合わせて、連携するアプリケーションも提供する。

 それぞれのアプリでは、通常の表示時間とワールドタイムの入れ替えや設定、地図上からのワールドタイム選択、アラーム、タイマーの設定などを気軽に行うことができる。

 GPW-2000向けアプリでは、時計のボタンを押した時間、場所を記録する「フライトログ機能」で、オリジナルのフライトログを作ることができる。記録したデータを編集してグループ化することも可能で、取ったポイントログをFacebookやTwitterなどのSNSにも簡単に投稿が可能。移動履歴を航空コンセプトらしい演出を加えて、3Dマップ上で移動履歴を振り返られる。フライトログの形を取っているが、位置情報は細かく分類されているため、歩いた距離でも正確に記録することができる。

 同じくConnectedエンジン 3-Wayを搭載するOCEANUS向けのアプリでは、時刻補正の実施状況、ソーラー発電状況、世界のタイムゾーンやサマータイム情報の更新状況などがひと目で分かるようになっている。

 このように、複雑な機能を持ちながらも、情報を可視化し、ユーザーが簡単な操作で扱える腕時計とアプリを提供する。

■時計事業に参入した当初から受け継がれるDNA

 カシオは1974年、計算機開発技術を応用して、オートカレンダーを搭載した「カシオトロン」を発売することで時計市場への参入を果たした。カシオトロン開発当時から、「停止することなく自動的に正しい時刻、カレンダーを表示する」という「完全自動腕時計」を目指すことを開発思想としていた。その開発精神は、現在も絶えることなく受け継がれている。

 Connected エンジン 3-wayはGPW-2000(価格:10万円/税別)への搭載を皮切りに、前述したOCANUS OCW-G2000の他、同社の他ブランドにも搭載していく予定だ。

最終更新:5/19(金) 12:25

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