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「豪腕」森長官路線 指導行政「先祖帰り」懸念

産経新聞 5/19(金) 8:07配信

 検証エコノミー・金融庁

 金融庁の森信親長官が就任し7月で2年になる。金融機関に「顧客本位」の経営を促して経済の成長につなげるという青写真を描き改革を推進。その豪腕ぶりに官邸の信頼も厚く、3年目の続投も確実視されている。だが、ともすれば強圧的にも映る手法に金融業界は反発。前身の金融監督庁の発足から20年目を迎える中で、業界から「箸の上げ下ろしまで指示される」と揶(や)揄(ゆ)されたかつての金融行政に逆戻りしかねないとの不安も招いている。(中村智隆)

 「顧客本位を口でいうだけで、具体的な行動につなげられない金融機関が淘(とう)汰(た)されていく環境を作っていくことがわれわれの責務だ」

 先月、都内で開かれた日本証券アナリスト協会の講演で、森氏は証券関係者らを前にこう宣言した。手数料を稼ぎやすい商品の販売が優先される国内の投資信託市場の現状を問題視。「顧客の資産を増やすことができないビジネスは社会的価値があるのか」と厳しく問いかけた。

 森氏が顧客本位を掲げるのは超低金利、年金不安を背景に、国民の安定的な資産形成に金融機関が寄与する必要性が高まっているとの認識があるため。一昨年からの金融行政方針にも盛り込まれている。

 昨年には、投信と同様の問題意識から銀行の窓口で販売される貯蓄性の高い保険商品の手数料開示も要求。マイナス金利政策で貸し出しの利ざやが縮小し、手数料稼ぎに力を入れる地銀から「銀行を狙い撃ちにするのは不公平」と反対の声が強まったが、金融庁は「業界に反対されようが、やるべきことはやる。これは長官マター」(関係者)と押し切った経緯がある。

 「森君がいうのは金融業者なら当たり前にやらないといけないことだ」

 金融庁長官を平成16~19年に務めた五味広文氏は森行政をこう擁護する。

 五味長官時代の金融庁はバブル崩壊後の不良債権問題で傷ついた金融機関の財務の健全性や信頼性を確保するため、厳格な資産査定や法令順守状況の点検を重視。保険金不払い問題などで業務停止命令や業務改善命令といった行政処分を連発し、金融業界からは「金融処分庁」とも恐れられた。

 一方、27年7月に長官に就いた森氏は金融機関と対話しながら金融の発展に向けた創意工夫を促す「金融育成庁」を目指している。「処分庁」から「育成庁」へと金融行政の百八十度の転換にもみえるが、五味氏は「正常化した金融環境の中で極めて的確な行政方針を出している」と評価する。

 問題は「対話」が監督官庁による「指導」に陥りかねない懸念があることだ。

 森氏は地銀の改革も重要課題としている。担保に依存しない融資など、地場産業を育成する本来の役割を求め、経営効率化に向けた地銀の再編も主導している。こうした姿勢は「地方創生」を掲げる安倍晋三政権の意向とも一致し、菅義偉官房長官の評価も高い。

 ただ、そんな森氏に対しては、金融業界から「政権のお墨付きを得て反発も意に介さず大ナタを振るっている」(大手銀幹部)と不満の声が上がる。

 加えて、業界ではトップ人事への介入もささやかれている。代表例が三井住友信託銀行のケースだ。前身の住友信託銀行時代の20年から社長を続けた常陰均氏が今年4月に取締役に退いたが、業界では「“森金融庁”がプレッシャーをかけた」(関係者)とみられている。実際、昨年の金融庁の検査でトップ在任の長さに対し「ガバナンス(企業統治)に問題がある」と指摘されたという。

 そもそも、金融庁が大蔵省(現・財務省)から分離・独立して発足したのは、「護送船団方式」と呼ばれた大蔵省による事前指導型の金融行政が業界との癒着を招き、不良債権問題を悪化させたとの反省があったからだ。

 金融庁は来夏には検査・監督を一体化する発足時以来の大規模な組織再編を断行する方針だが、金融機関に対する過剰な経営介入でかつての金融行政に“先祖返り”しないよう自戒する必要がある。

 ■金融庁 バブル崩壊後の不良債権問題で金融システム不安が高まる中で、大蔵省(現・財務省)と金融機関の癒着に批判が集中し、平成10年に金融機関の検査・監督機能を持つ金融監督庁が大蔵省から分離。12年には金融制度の企画・立案機能も移り、金融庁が発足した。現在、各局の定員(29年4月)は総務企画局が419人、検査局が391人、監督局が303人。検査と監督の縦割りを排し、金融機関との対話を深めるための組織再編を模索している。

最終更新:5/19(金) 8:07

産経新聞